山谷感人が現状どうなっているかはまもなく発売予定の拙著『アウレリャーノがやってくる』に詳しいため、詳細を省く。ともかく、ある一人の文学者がその文学的な死を迎えるまでを細密画のように書く機会はあまりないので、覚書として書いていこうと思う。
「レース」というタイトルが意味するのもは何かというと、曲名である。長渕剛が1986年にリリースしたアルバム『STAY DREAM』所収のアルバム曲だ。感人からLINEで送られてきた。YouTube攻撃である。
なんの前置きもなく、LINEのチャット画面にはYouTubeへのリンクカードが表示されるだけで、私としては「急になに?」という感想以外ないのだが、だいたいその時の感人の気持ちを表現する曲であることが多い。こういう「他人が書いたものに託す」ということを私はやらない。引用コレクターになるだけだからだ。
長渕はこのアルバムを発表したとき、自身の病気、母の病気、人間関係の悪化などに悩んでいた。収録曲の最後を飾る表題曲「STAY DREAM」は「死んじまいたい」というブルージーな歌い出しがライブの定番となっており——私はそれを「アメトーーク!」の長渕剛大好き芸人で知った——長渕の心象風景を色濃く反映した、アルバムを象徴する曲となっている。私は宇多田ヒカル『Fantôme』のような私小説的ストーリーを持つアルバムは好きなので、このアルバムも聞いたことはあった。
感人の送ってきた「レース」はそうしたストーリー(病気・裏切り・希死念慮)の最初を飾る自虐的な曲である。軽妙な節回し、内臓の衰弱、睡眠薬とアルコール、不眠、情緒不安定、医者への不満、体重減少、「自分に負けた」というサビ。たしかにいまの感人のことを歌っているようではある。
ただ、これまでの不平不満の述べ方を鑑みると、感人が「自分に負けた」と考えているのは驚くべきことだ。自省するところがあったのだろうか。私にはよい兆候に思えた。私が「確かに負けたね」と返したところ、感人は「どうも、有難う御座いました」と返してきた。死ぬのかな? と思ったが、その後「最近あった面白いことランキングベスト3」を送ってきたので、そういうわけではないようだ。以下がそのランキングの内訳である。
第三位:隣の部屋の七〇歳ぐらいの人が気が触れたのか、一日中大音量でアダルトビデオチャンネルを流し続けている。
第二位:AA(アルコール依存症自助会)やGA(ギャンブル依存症自助会)には参加者のによる献金制度があるらしいのだが、それを管理していた人間(彼もまた自助の必要な一員ではある)がそのプール資金を持ち逃げした。
第一位:感人の元内縁の妻がいつまでも荷物を引き取らないので着払いで送ってきた。よって、感人の生活資金はなくなった。生活費の振り込みは月初なので、十一月二日にして早々に無一文である。
最近の感人は携帯がぶっ壊れたそうで、もう私とは連絡が取れなくなりそうだ。ただ、感人はかつて「破滅派が閲覧できない」という理由でドコモショップに駆け込んだことのある情報弱者なので、「携帯がぶっ壊れた」という報告もどれほどの状態なのか定かではない。楽天モバイルのような「実質ゼロ円」の端末も多くあるはずだが、感人のような人間には難しすぎるのだろう。新自公政権は人気取りでも構わないので、感人が携帯端末を維持できるよう総務省に働きかけてほしい。
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