マッ、ママァーーッ! あるいは、おねロリを受け入れられないペド野郎に捧ぐバラード

応募作品

高橋文樹

エセー

4,486文字

本稿は第一回「名探偵破滅派」の題材である『神様ゲーム』の考察エッセーである。ネタバレを含んでいるので未読の方はその点ご了承ください。

摩耶雄高『神様ゲーム』は「かつて子供だったあなたと少年少女のための」と銘打たれたミステリーランドという講談社の書き下ろしシリーズ所収の作品である。子供向けと銘打たれている通り、探偵役は主人公の芳雄が所属する浜田探偵団である。だが、本作には全知の「神様」が登場しており、それが本作に通常のパズルミステリーとは異なる印象をもたらしている。

以下、「問題」を整理する意味で、本作のあらすじを最後まで説明しよう。未読の方はネタバレをご容赦いただきたい。

  • 主人公の芳雄は浜田探偵団に所属している。父親は刑事。
  • ミチルというクラスメイトが可愛がっている猫のハイジが殺されたため、それを追っている。探偵団の基地は廃屋の鬼婆屋敷である。
  • クラスメイトの転校生鈴木君は自分を「神様だ」と主張する。鈴木君は猫殺しの犯人である大学生、秋屋甲斐を名指しで教える。
  • 芳雄は秋屋が犯人であるという線で推理を進める。探偵団は殺された猫の死体がAKIYAというアルファベットになっていることから、秋屋が犯人であると結論づける。
  • 探偵団のメンバー聡美の従兄である光一に助けを借り、猫の鈴をアパートの前にしかけ、警察に届ける。
  • 猫事件解決後、芳雄の親友である英樹が浜田探偵団に入りたいという。芳雄はグループの掟にしたがって断り、喧嘩別れとなる。
  • 探偵団集合の日、鬼婆屋敷の前に英樹のカバンを発見。屋敷内を探し、裏庭の井戸の中で英樹が死んでいるのを発見する。
  • 一度逃げ出した探偵団は携帯電話で芳雄の父を呼ぶ。井戸から引き上げられた英樹は事故死と診断される。
  • 秀樹は殺されたと考える芳雄は鈴木君に相談。猫殺しの犯人であった秋屋への「天誅」を英樹殺人犯へと振り返るよう依頼。
  • その放課後、ミチルの上に大時計の針が落下して串刺しの刑罰。「天誅」がくだったことをもってミチルが犯人だったことを知る。
  • 鈴木君はミチルの犯行動機について「エッチなことをしているところを見られたから」と説明。探偵団に入りたい英樹はミチルのあとをつけたため、鬼婆屋敷でミチルの性行為を目撃、証拠隠滅のために殺された。
  • 芳雄は共犯者への「天誅」を希望する。鈴木君の「ほんとうにいいの?」という口ぶりから、それが自身の近しい人物だと知る。
  • 義夫は、ミチル一人では犯行の完遂が不可能なことから、当日助けにきた父親が共犯者だと推理する。そして、おそらく父親に「天誅」がくだることを覚悟する。ある晩、父親に買ってきてもらったケーキの蝋燭を吹き消すと、それが勢いよく燃え上がり、目の前の人物を燃やす。これが「天誅」なのだ、と呆然とする芳雄は、燃えているのが父親ではなく母親であることに気づく。

以上が本作のあらすじである。「神様」という特権的な存在が登場するため、推理は基本的にあとづけである。小学生が探偵ごっこをする馬鹿馬鹿しさを補うための機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナと考えてもよいだろう。「神様」である鈴木君は陰キャなので他のクラスメイトたちとも交流はなく、賢明なもう一人の自分オルターエゴでもある。

驚きのラストを迎える本作ではあるが、読後不可解な点が2つ残る。以下、それを説明しよう。

不可解その1・密室トリックの再現性

共犯者が父親ではないということが明かされるラストの前に芳雄による推理が展開される。本作の英樹殺しは「密室殺人」である。内側から鍵がかかっていたはずの裏庭(周りは柵に囲まれていて出ることができない)で英樹は死んでいたからだ。

そして、芳雄の推理によれば、密室殺人はミチルとその共犯者である父のコンビネーションによってはじめて可能になる。神様の「天誅」が正しいものであるとするなら、「母が共犯者である」「ミチルはエッチなことをしていた」がともに真となり、そうなると芳雄の推理によって明らかになったはずの密室殺人トリックは真相不明となる。現場に母はおらず、ミチルがいったん外に避難しようとみんなを促したこと、そして父親を携帯電話で呼んだ意図が不明となるからだ。

不可解その2・ミチルと母の関係

 

芳雄の母親が小学校の同級生であるミチルと「エッチなこと」をする関係にあったという事実を、昭和大正義おじさんである私はうまく受け止めることができない。芳雄の父親がミチルとそうした関係にあった場合はショックを受けつつも、「アリだな」と思ってしまう。しかし、芳雄の母とミチルが「エッチなこと」をしていたとなると、「どゆこと!?」となってしまう。

この唐突な事実の提示により、最後に名前が明かされる律子という名の主人公の母親がいったどんな動機でミチルと「エッチな」関係を結んだのかということが大きな疑問として立ちはだかるのだ。「おねロリ」という唐突に提示されたレアなジャンルに対し、「まずそれはなに?」と反応してしまうのは、私に限らない一般的な反応だろう。出題者の意図もそこにあったと思われる。

解答編

さて、『神様ゲーム』で最後のどんでん返しを納得するために、以下の2つの前提をもとに母親の動機およびトリックを考えてみたい。

  1. 神様(=鈴木君)はまちがっていない。
  2. 摩耶雄高はまちがっていない。

まず、神様は間違っていないので、「天誅」を受けた母親はミチルとともに英樹を殺した共犯者である。そして、その動機も「エッチなこと」をしていたことが露見するのを恐れての犯行である。また、作者がまちがっているという前提にも立たない。したがって、母親とミチルは密室殺人を完遂したのであり、そのためのトリックが存在し、ヒントも作中で開示されていたはずだ。

それでは、ミステリーでもっとも重要な動機——ホワイ・ダニットWhy Done It——から行こう。芳雄の母親である律子と芳雄の同級生であるミチルが性的な関係にあったということ自体はありえないことではない。年長者が幼い子供を籠絡して性的なパートナーにした事例は存在する。また、そのためのヒントと思われる予言が作中には存在し、芳雄は「神様」から「君は両親のほんとうの子供ではない」と告げられている。神様から告げられたいくつかの不穏な予言(例・三十六歳のとき飛行機事故で死ぬ)とは異なり、芳雄は物語の終盤に母親にそのことを告げ、動揺する母の反応から確信を得ている。

「芳雄は両親のほんとうの子供ではない」ということは、両親がセックスレスだったことを暗示する。もちろん、セックスレスであることすなわち同性愛者ではないが、本作ではミチルの共犯者が母親であること、そして、そのためにはミチルと「エッチな」ことをするという条件としては許容範囲である。また、最初に浜田探偵団が追っていた事件が「ネコ殺し」であることも十分に示唆的である。同性愛関係において抱かれる側は「ネコ」と呼ばれるからだ。

性行為を目撃されたミチルが真っ先に英樹を殺そうと思ったことは、二人の関係がそうとうに深かったことを暗示させる。「律子との同性愛関係を秘密にしなければならない」という強い信念だけではなく、秘密の露呈がすなわち死であるという恐怖が刷り込まれていなければならない。一方でミチルの死後における母親の芳雄への態度から、ある種の薄情さもしくは演技力の高さをかいま見ることができる。

上記のことを鑑みると、母親(律子)がミチルと性的な関係にあること自体は驚きではあるが、論理的に破綻しているとはいえない。誰しもが心の中に飼っている森前東京オリンピック大会組織委員会会長の声が大ききれば大きいほど受け入れがたいだろうが、おねロリは存在する

 

問題となるのはトリックの解決である。まず、芳雄の推理によれば、英樹を殺した父親が裏庭から脱出した手段は次の通り。

  • ミチルが英樹を殺害。
  • (血のついた衣服を着替えるため)英樹の衣服を脱がしてミチルが着用、家に帰る。父親は裸の英樹を井戸に沈め、裏庭の鍵を外からかける。物置にかくれる。
  • 芳雄ら探偵団が到着。裏庭へ通じる戸が外から鍵をかけられていることを発見。扉をやぶって裏庭に出る。
  • 井戸で秀樹の死体を発見。おそろしくなった探偵団は鬼婆屋敷を出て「原っぱ」に脱出。
  • 裏庭で物置に隠れていた父親は英樹に服を着せ、「開かずの間」に移動。
  • 探偵団は秀樹の死体を確認。このときミチルは裏庭から屋敷へ通じる扉を締めている。
  • 父親は「開かずの間」から脱出、到着した体を装う。倉庫を調査し、自分がそこにた痕跡を消す。

上記を図解すると次のようになる。

父親が犯人だった場合の闘争順序。

上記の推理は「母親が共犯者だった」という事実によって覆る。そのトリックの補完は作品内では明かされない。私が推測するに次のような形だろう。

  • ミチルが英樹を殺害。
  • (血のついた衣服を着替えるため)英樹の衣服を脱がしてミチルが着用、家に帰る。母親は裸の英樹を井戸に沈め、裏庭の鍵を外からかける。一度は退けられた井戸の蓋の下に隠れる。
  • 芳雄ら探偵団が到着。裏庭へ通じる戸が外から鍵をかけられていることを発見。扉をやぶって裏庭に出る。
  • 井戸で秀樹の死体を発見。おそろしくなった探偵団は鬼婆屋敷を出て「原っぱ」に脱出。
  • 井戸の蓋に隠れていた母親は英樹に服を着せ、「開かずの間」に移動。
  • ふたたび秀樹の死体を確認。このときミチルは裏庭から屋敷へ通じる扉を締めている。
  • 母親は「開かずの間」脱出。

上記を図解すると次のようになる。

母親が犯人だった場合の逃走経路。

上記のトリック解明には、2つの問題点がある。

  • 井戸の蓋のサイズ。一度は覆された「井戸の蓋に隠れる」説では、芳雄でちょうど、ひとまわり大きい考志でギリギリという説明だった。
  • ミチルが父親に電話をかけるよう促した点。芳雄の推理では「共犯者に電話をかけた」ことが指摘されているが、共犯者でない父親に電話をかける必然性が必要である。

まず、井戸の蓋のサイズであるが、母親の身長が一五〇センチ程度であれば、「たらい状の井戸の蓋の下に隠れる」というトリックは成立する。小学四年生の芳雄が平均的な身長であれば一四〇センチ程度、それよりも大きい考志であれば150センチ以上あることは許容範囲だ。小柄な成人女性が一五〇センチ程度というのも、それほど異常な設定とはいえないだろう。したがって、父親が物置に隠れていたのではなく、母親が井戸の蓋の下に隠れていたのである。

続いて、ミチルが父親に電話をかけるよう促したのは、「いきなり警察に電話をかけると警察が来てしまう」という問題を解決するためだと考えられる。母親(律子)が脱出するためには、いちど全員が裏庭に入り、ミチルが裏庭の扉を閉める必要がある。もう一度裏庭に行くためには、融通のきく相手に電話をする必要があった。もし父親が現場待機(原っぱ)を命じた場合は、甘言を弄して全員を裏庭に導いただろう。

 

以上をもって、トリックの解明とする。Q.E.D

 

 

本作は「神様」という得意な存在によって高度な罠がしかけられたミステリーである。筆者のようにポリコレトレーニングを積んだ読者には納得の行くラストであったが、旧態依然とした価値観をインストールされた読者には投げっぱなしジャーマンを食らったような読後感があったかもしれない。

2021年2月15日公開

© 2021 高橋文樹

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