短編から長編まで、多彩なジャンルのフィクションが揃っています。破滅派らしい物語をお楽しみください。
死者を立たせるには、関節の音を聴かねばならぬ。 明治十年二月、雪解け泥の跳ね返る浅草観音堂の裏手、水茶屋の軒が密集する淫靡なる路地の奥処に、外光を遮断した土蔵破りの写真場があつた。 暗室を…
土蔵の隙間より、白み始めたる朝の光が、埃の舞ふ闇を細長く射し貫いてゐた。 行燈の油はとくに尽き果て、芯の先が白煙を上げて燻る中、浄雲は膝の上に広げたる草紙の、最後の頁をそつと閉じた。 指先…
沈む刻は、静寂そのものであつた。 千鶴の細き両腕に抱き抱へられ、無垢の白麻の反物を幾重にも身に纏ひたる青玄は、三番目の大甕の縁に、ゆつくりとその身を預けた。 胸の裂け目より溢れ出づる黄金色…
タトゥーのおかげで今日も生きてる!
お下劣注意! 不適切ワード多数。でも、まあええやん。だってさ、ミリしらでもいいって言ったじゃん!
「今の顔が、いちばんいい」 彼は私の汗を拭いながら、そう言った… 嘘の余命、磨りガラスの喫茶店、海際の廃病院。 そして最後に、この束を読んでしまった夫の一文。 牧野楠葉・新作中編『愛の形…
タイトルは『僕等がいた』を意識しています。 前回に引き続き、編集した字下げがうまく本文に反映されていません。
【15年改稿した原稿です】こちらも幅広く読まれてほしいので、無料で公開します。賞をとるとかとらないとか、そこじゃない気がした。原稿用紙換算 百十六枚(四〇〇字詰原稿用紙換算)
突風は、染物小屋の羽目板を紙風船のやうに震はせ、関の瀬戸の荒れ狂ふ潮飛沫を、容赦なく土間へと吹き散らした。 吹き飛んだ蔀戸の開口部より、夜の海が黒々と口を開けて覗いてゐる。壇ノ浦の早瀬は白き…
沈黙には重さがある。 部屋の中にも、外の夜にも。 気づけば、見慣れていたはずの物が、人が、少しずつ別の何かへと変わっている。 逃げ場はない。外は外で別の狂気が待っている。どこへ行っても…
夏至を過ぎたる頃より、青玄の肉体は、決定的なる崩壊と変容の坂を転がり落ち始めた。 朝、井戸端に立ちて手桶の水を掬ひ、己の顔を映したる青玄は、そこに立ち現れたる異形を凝視して立ち竦んだ。 両…
染色の刻は、夜半に訪れた。 海鳴りは風の息のやうに低く唸り、満ち潮の飛沫が小屋の羽目板を濡らす中、青玄は生成りの麻布を三尺ばかり切り揃へ、水槽に浸して固く絞つた。糊気を抜き、繊維の奥まで潮気…
人生最後かもの原稿なのでネットで幅広く読まれることを祈ります
千鶴が小屋に棲みつきしより、染物小屋の空気には、奇異なる凪が訪れた。 朝、引き潮の瀬戸より吹き込む風は、岩肌を削るやうに冷たく湿つてゐたが、千鶴はその風の中を物音も立てずに歩み、浜に打ち上げ…
実質的に家から追い出されたんだ。親が冬休みの間、親戚を泊めるとかでね。
「まつりの日」という友人の小説に添える何かを書いてくれと依頼されて、この掌編をエピローグとして書きました。
色は、痛みに似たり。 青玄の眼には、物心つきたる頃より、この世の凡百の事象が、過ちの如き鮮やかさをもつて映じてゐた。常人の眼が形を捉へ、光を分かつに留まるべきところを、青玄の瞳は、万象の底に…
詩集【月が枯れる】収録。2026年10月作。
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