死者を立たせるには、関節の音を聴かねばならぬ。 明治十年二月、雪解け泥の跳ね返る浅草観音堂の裏手、水茶屋の軒が密集する淫靡なる路地の奥処に、外光を遮断した土蔵破りの写真場があつた。 暗室を…
土蔵の隙間より、白み始めたる朝の光が、埃の舞ふ闇を細長く射し貫いてゐた。 行燈の油はとくに尽き果て、芯の先が白煙を上げて燻る中、浄雲は膝の上に広げたる草紙の、最後の頁をそつと閉じた。 指先…
沈む刻は、静寂そのものであつた。 千鶴の細き両腕に抱き抱へられ、無垢の白麻の反物を幾重にも身に纏ひたる青玄は、三番目の大甕の縁に、ゆつくりとその身を預けた。 胸の裂け目より溢れ出づる黄金色…
突風は、染物小屋の羽目板を紙風船のやうに震はせ、関の瀬戸の荒れ狂ふ潮飛沫を、容赦なく土間へと吹き散らした。 吹き飛んだ蔀戸の開口部より、夜の海が黒々と口を開けて覗いてゐる。壇ノ浦の早瀬は白き…
夏至を過ぎたる頃より、青玄の肉体は、決定的なる崩壊と変容の坂を転がり落ち始めた。 朝、井戸端に立ちて手桶の水を掬ひ、己の顔を映したる青玄は、そこに立ち現れたる異形を凝視して立ち竦んだ。 両…
染色の刻は、夜半に訪れた。 海鳴りは風の息のやうに低く唸り、満ち潮の飛沫が小屋の羽目板を濡らす中、青玄は生成りの麻布を三尺ばかり切り揃へ、水槽に浸して固く絞つた。糊気を抜き、繊維の奥まで潮気…
千鶴が小屋に棲みつきしより、染物小屋の空気には、奇異なる凪が訪れた。 朝、引き潮の瀬戸より吹き込む風は、岩肌を削るやうに冷たく湿つてゐたが、千鶴はその風の中を物音も立てずに歩み、浜に打ち上げ…
色は、痛みに似たり。 青玄の眼には、物心つきたる頃より、この世の凡百の事象が、過ちの如き鮮やかさをもつて映じてゐた。常人の眼が形を捉へ、光を分かつに留まるべきところを、青玄の瞳は、万象の底に…
康暦の世の、秋のことなり。 周防の国より長門の奥処へと、ただ独り草鞋の緒を締め直して巡礼の歩みを運ばせし僧・浄雲は、赤間関の荒れ果てたる浦にて、奇異なる裂を見たり。 その日は朝より陰欝なる…
破滅派25号「児童文学」応募作「猿に勝つ」の原案です。児童向けにしては少々ホラー風味が強い気がしたので内容を大幅に変えて応募作を書きました。「猿に勝つ」はかなり字数オーバーしているので、掲載に支…
そもそもホラー小説というものを書こうとしたのです。
熊本、地震、熊本、夏、などとぼんやり考えているうちに、ふとこれを思いつきました。字数大幅超過ですみません。2026年9月合評会応募作品。
熊本が一日も早く復興するようにという気持ちを込めて。内容が長くなってしまいましたが、申し訳ありません。お盆にしてはちょうどいい五つの怪談話です。
パパが色々やらかしたせいで、戦うことが嫌いな君なのに、戦わなくちゃならなくなる。相手は猿の魂。どうすりゃいい? 対象年齢:15歳以下
多分アランポーの影響…いや、プーかもしれません。※ 実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。
第42回文学フリマ東京原稿応募作品です。
この作品はある心霊ライターが廃虚の病院に一つのタンバリンが置いてあり、謎の怪奇現象を追跡していくというホラー下ネタコメディある。
破滅派24号「人肉」応募作。
破滅派は同人サークルから出発していまや出版社となりました。
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