七号の企画会議で、編集長は膝を打った後、こう付け加えた。「周さん、書き手が見つからんかったらどないすんねん」。私は答えた。見つからんかったら、見つからんかったこと自体を記事にすればよろしい。
六月の報告書提出後、私は班長への月次説明で、鶴橋市場の「非公式指標」について言及した。班長は興味を示した。ワシントンは常に、統制の効かない領域を数値化する新しい方法を求めている。私は換算表を、闇…
手入れの朝のことを、私は箪笥の一番奥の抽斗にしまうように、内の言葉でだけ覚えている。
巳代蔵翁の店先で四人が居合わせたあの晩、辻で鳴った「ばさ」という音を、私は今も耳の奥から追い出せずにいる。あれは紙の音であった。それも、一枚の紙が独りでに捲れる時の音ではなく、何かに読まれて頁を…
あんた、生駒へ詣ったことあるか。ないやろ。今の人は皆ない。せやから話しといたるのや、儂の商いは荒物やが、齢とった者の本業は覚えとることや、思うてな。
「青空の続きを ②」の続きです!!!
「青空の続きを ①」の続きです! https://hametuha.com/novel/117431/
白状すれば、私は活字で嘘を売って食っている男である。『裸線』という誌名からして嘘だ。裸のような真実を電線のように送り届ける、と創刊の辞にはご大層に書いたが、実際に送り届けているのは温泉場の醜聞と…
私の日本語は、母がカリフォルニアの台所で使っていた日本語である。それは一九二〇年に広島を出発したまま、更新されることのなかった言語であった。私がそれを話すとき、鶴橋の人々は一様に奇妙な表情をする…
海のことを、私は生まれた島の言葉でパダンと呼ぶ。大阪に来て十二年、口ではもう海と言う。うみ、と言うたびに、言葉の底でパダンが一度沈んで、それから浮く。言葉は乾物と同じで、乾かして運んでも、水に戻…
復員して三月のあいだ、私は文字を書かなかった。書けなかったのではない。南方で最後に書いた文字が戦死公報の下書きであったから、指がそれを覚えているうちは何も書きたくなかったのである。
〈あらすじ〉 結婚って、しなきゃダメなの…? 世間との結婚観のズレに悩む中川沙子(28)。 自分だけ、周囲から遅れをとっているのでないか。 大人になれていないのではないか。 そ…
「落□とは、消えるこ□では――」短篇集『落丁』カットアップ・リミックス
もしもし――その一言だけが、機の合間に、こぼれ落ちる。
委、応、帳、録、目――これらの字だけが、消えていく。
何十年勤めて、一枚。誰もが、自分の書いたものを、自分の手で切り落としていた。
今、その影は、誰に一番近づいているのだろう。
満ちては引き、引いては満ちる。その中に、いずれ等しく紛れ込んでいく。
破滅派は同人サークルから出発していまや出版社となりました。
破滅派の書籍は書店・通販サイトでお求めいただけます。