一、点呼
乗客三十二名、乗員十一名、計四十三名。三十七名。三十九名。六十名。四十九名。検疫の結果、異常なし。隔離七日を経て、全員上陸を許可す。二百四十。三尺八寸二分。二分という端数は、年に一日か二日。十三で割り切れる数。十七件、十三件、九件、五件、三件。二百のカトカラ属。残る百九十七。三十五、と数え終えたはずが、もう一度数え直すと、三十六に
二、余る
いつも夜半になると、一人分、床几が余っておるように見え――二百四十一だね。これで、いつも通りだから。誰も採集した覚えのない、二百一体目。影の位置は、右端、真ん中の少し後ろ、前列の隅。上陸の点呼では名簿より一名少ないのに、厨の者は、いつも通りの数しか作っていない、と言うばかりであ□た。少ないのか、多いのか、もはや私にも
三、欠ける
一行分、あるいは二行分ほどの、書かれざる空白。三月十一日の次が、三月十三日。どの守の観測簿にも、一枚だけ、頁が足りない。切り口は古びて飴色になっていたが、どれも迷いのない、一息の切り口だった。灯りを見失いたる船あ――り、また一名、足りぬ。私はもう、驚き――応答不可。□外――
四、着任
嫁いでこの町に来て三月目。この工場に雇われて三月目。父の跡を継いで葬儀屋になって三年。地方新聞社に勤めて七年。岬の灯台に灯りを入れて、今年でちょうど四十年。先任の老人は、ほとんど何も教えてくれなかった。灯りの点け方と、観測簿の付け方だけを伝え、最後に一言だけ残した。正直に書け。それだけが、決ま□だ。私だけが、どこか輪の外にいるような感覚を、いつも拭えずにいた。着任早々のことゆえ、これ以上は言葉を控□た。
五、応答
気にしなくていいから。昔からのことだ□ら。深く考えない方がいい。さあ、なんだろうね。代々そう決まっている。数え違いであろう。島の空気が悪いのだろう、休め。お前さん、少し根を詰めすぎじゃないか。何もかもに意味を見出そうとすると、身が持た□ぞ。これで、いつも通りだ□ら。
六、鐘
ゴーン、ゴーン。撞き終えて、百八のはずが、百九。撞木を持つ手は、まだ震えてい□い。誰が余分な一つを撞いたのか、堂内には私のほか、誰もいなかった。鐘の内側には、代々の撞き手の名が刻まれてい□という。数え□おしても、やはり百九であった。□の音は、麓まで届く。届いた者が、また一つ、数え違え□。
七、手
指がひとりでに、余分な一目を、拾って――しまった名を、私はまだ知ら□い。あんたにも、拾えたんだ□。プラグを差し込んだ。もしもし、こちら交□。硯に墨を磨り、筆を執る。手が震えた。ペンを執った覚えはない。書き出した覚え□ない。ただ、書き終えた、という手応えだけが、指に残っていた。人差し指の腹に、見覚えのない染みがある。目を凝らすと、それは染みではなく、極めて微細な、灰と黒の紋□だった。鱗粉だ、と私は思っ□。抽斗から剃刀を取り出したことは、覚□ている。ペンと同じ抽斗に、新しく研いだ剃刀を一挺、入れてお□た。
八、名
ワタシノ ナハ ――その先は、まだ翅が乾ききってい□いのか、紋様が滲んでい□読めなかった。名の欄には、かつて私がここで名乗ってい□名が、几帳面な筆致で記されてい□。あの余白はな、書けなかった名□の場所じゃ。香典なし、とだけ添え□。始祖の顔とは、最初から誰の顔で□なく。眉間、狭く、思慮深きに過ぎたり。目、理を求め□、情を見失う相あり。この者、代々の落丁の理を解か□として、自らその理とな□り。誰かが、私の□を呼んでいる。だが、その声に応え□口を、私はもう持たなか□た。
九、体裁
検疫の□果、異常な□。隔離七日を経□、全員上陸を許可□。灯りを見失いた□船あり。応答不□――発信元、旧局員某。□員名簿の人数誤差、当局は否□。町の電話交□局、深夜の誤接続相次ぐも原因不□。某紡績工場、反物の□に不可解な誤□、識者は否□。三月十一日の次が、三月十三日。以降、同筆跡による記□は一切見ら□な□。同人物のその後の消息については、資料庫に一切の記□な□。後任の医官による引き継ぎの記□にも、前任者に関する言及は一行もなか□た。数十年分の記□を通読しても。
十、読む者
読むという行為そのも□が、委□会なのだ。□員会が、もう気づいてい□。これより先、□録を読む者は、□録に読ま□る。君が作っているの□はない。蛾が、君を選□で、□録を作らせてい□のだ。百年前に埋め込ま□た符号は、今も更新さ□続けている。読み手もま□、符号の一部な□だよ。誰かがそ□を読み、書き写□、次の世代の読み手に伝え□ばならない。観察するこ□自体が欠落を呼び込む□だとすれば。この□面自体が、いずれ、□の地方の欠落の一つと□て、ど□かの新聞に、小さく報じら□る日が来る□だろうか。それとも、誰にも見つけら□るこ□なく、私一人の妄想と□て、静かに朽□てい□の□ろう□。答えは、まだど□にもない。
十一、□
落□とは、消えるこ□では
ゐで□名
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