岬の灯台に灯りを入れて、今年でちょうど四十年になる。
この場所は、潮の流れが複雑に絡み合う難所として、古くから船乗りたちに恐れられてきた。灯台が建つ前は、幾つもの船がここで姿を消したという。灯台が灯った後も、海は決して優しくならなかった。
私がここに来たのは、まだ二十代の頃だった。先任の老人は、ほとんど何も教えてくれなかった。灯りの点け方と、観測簿の付け方だけを伝え、最後に一言だけ残した。
「灯りを見失った船のことは、正直に書け。それだけが、決まりだ」
観測簿には、日々の天候、風向き、視程を記す。それが灯台守の本分だ。
赴任して五年目の冬、私は初めて「灯りを見失いたる船あり」と記した。
深い霧の夜だった。沖合に、小さな明かりが揺れていた。灯台の灯りに向かって、真っ直ぐに近づいてくる。あと少しでたどり着くというところで、その明かりは、霧の奥に吸い込まれるように消えた。
翌朝、港に問い合わせた。該当する船はなかった。
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