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【 30秒で読める話:03 】中華丼は悪くない

taro-nagahamada

中華料理を作るのは大変だから、食べに行こうと思います。

タグ: #ライトノベル

エセー

461文字

【 30秒で読める話:03 】中華丼は悪くない

 

「おまち!」と言われて、彼は顔を上げた。

 

ラーメンを頼んだはずだった。

だが、目の前にあるのは中華丼だ。

忙しなく動き回る店員の背中を見ていると、何も言えなくなった。

 

自分は最初から中華丼を頼んだのだ。

そう思うことにした。

 

そして、泣きながら中華丼をかきこんだ。

 

彼にとって中華丼は、プルーストのマドレーヌだった。

もっとも、プルーストを読んだことなかったが。

子ども時代のささやかな豊かさと、現在の貧しさが、

手を取り合って頭の中で踊り始める。涙で滲む視界の向こうに、

先日バックレた冷凍食品の工場の風景と、カチカチの羽付き餃子が手裏剣のように飛び交った。

これでいい。だれも傷つくことはない。そう彼は思った。

 

「すいませーん、中華丼まだ?」

 

背後から、おばさんの声が響いた。 ピタリと動きを止めた店員が、

中華丼をかっ込んでいる彼をじっと見た。

 

店内に、重苦しい沈黙が広がる。 ――やはり、自分に過失があったのだ。

© 2026 taro-nagahamada ( 2026年9月21日公開

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