駅前のベンチはうだるように暑かった。スマホの画面に汗がこぼれて、スワイプする指が滑ってしまう。
もう少しでクリアというところで、広告はフリーズしやがった。駅の無料Wi-Fiが制限に達したのだ。
携帯料金を少々滞納したくらいで通信を止めるとは、なんと心の狭い国だろう。
Wi-Fiを切ると、スマホは黒い鏡になる。そこにカズノコのような顔が現れて、慌てて目をそらした。
おれはこの国を憂いている、真の愛国者だ。かつての覇権国家は衰退してしまった。
そうでなければ、おれのような有能な人間に仕事が見つからない説明がつかない。
駅前には、さまざまな人がそれぞれの目的地に向かって歩いている。
なぜ衰退してしまったのか、おれはよくわかっている。
それは、世の中の女という女が、オメコすることしか考えていないからだ。
ちょうどおれの前を、もやしのような髪の中年女が歩いていく。
「スケベな女やなあ。頭の中おまんこのことしか考えてへんやろ」
おれがそう考えたとき、レスラーのような背中をしたおばさんが通り過ぎていく。
頭の中が白く、けぶってしまう。
「スケベ女しかおらへん。どうしようもない国やで」
スマホで求人情報を見ようと思ったが、Wi-Fiは制限されたままだった。
もの寂しげに腹が鳴る。おれは立ち上がり、歩きだした。
食堂はランチの時間を終えて閑散としている。注文を取りに来たおばさんは、おれににっこりと笑って見せたが、気づかないふりをしてやった。
おれはサバみそ定食を注文し、べとべとするテーブルに手を置いて、Wi-Fiの電波を探したが、見つからなかった。
向かいのテーブルでは、四人のおばさんが食事をしながらおしゃべりをしている。
「お待たせしました」と店員はそう言って、おれの前に定食を置いて、
巨大な尻を振りながら戻っていった。
ぺろりと食事を終えると、おれは仕事がないことを考えた。
掃除夫をやるか、倉庫作業員をやるか、介護職になるか。どこにいっても引く手あまただろう。
おれほど有能な人間は数えるほどしかいないのだから。
それなのに、腹の底がむかむかしてくる。
おれは、向かいのテーブルのおばさんたちを見た。
その中のひとり、レスラーのような背中をした女に目を奪われる。先ほど駅前で見かけた女だ。
こんな場所で再会するのは運命ではないだろうか。
むくむくとおれの心が高ぶっていく。
そのとき、天啓のような考えがきらめく。
『百年の孤独』にアウレリャノ・ブエンディア大佐の兄貴が女たちに一物を見せ、値段をつけさせるエピソードがあった。
なぜ、今まで思いつかなかったのだろうか。
こんなにスケベ女が溢れている世界で、おれほどの逸材が職を探している。国家的な損失ではないか。
オメコを仕事にすればいいのだ。
おれはゆらゆらと、おばさんたちのテーブルに近づく。
そして、テーブルの上に途方もない代物をちょこんと乗せた。
「見ろや。おまんらの中でいちばん高い値をつけたやつとヤッてやるよ」
おばさんたちは無言で、あっけにとられている。無理もない。
これほどまでに雄々しいますらおを見たのは初めてだったのだろう。
なにしろ、わいの自慢の四センチやで。
おばさんたちは互いに顔を見合わせた。欲望と羞恥がせめぎあっているのだ。
店員のおばさんまで口をぽかんと開けて、おれの代物を凝視している。
値段をつけてくれるなら、だれだってかまわない。
おれはおばさんに、にやりと笑いかけた。どや、せやろ。わいのせやろ、めっちゃせやろやろ。
だれも、何も言わない。どうしたのだろう。そうだ。あまりの神々しさに言葉を失っているのだ。
なかでもこの相撲取りみたいな巨大なおばさんだ。ナポリタンを食っていた途中で固まっている。
おばさんはフォークを握ったまま、おれの代物を見つめている。食事を忘れるほど、夢中になっているのだろう。
おれは寛大な男だ。こいつとなら、五百円でええで、そう考えたときだ。
おばさんは、フォークをおれのちんぽにぶっ刺しやがった。
「食事中に、汚いもの見せんじゃないよ!」おばさんは言った。
「ほんとだよ! そんなちいさくて、キモいもん店で出すんじゃないよ!」店員のおばさんは険しい顔で言った。
「はぐぅ」
おれの口から、言葉になる前の何かが漏れた。うなだれた代物がみるみる干からびていく。
ちんこにフォークを刺すなんて、頭おかしいんじゃないだろうか、このばばあ。
フォークを引き抜いたおばさんは、何ごともなかったかのようにナポリタンをずるずるとすすった。
おれは油でギトギトした床に崩れ落ちた。痛みで視界が白くぼやける。
ところで、アウレリャノの兄貴はどうなったんだっけ?
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