東京の上野公園には動物園のほか、国立博物館や西洋美術館などの文化施設が多く存在するが、中でも縄文小説執筆に役立つ施設として国立科学博物館を紹介したい。すでにラスコー展を企画展として紹介しており、折に触れて縄文関連の企画展も開催されるだろうが、常設展にもたくさんの情報が存在する。
国立化学博物館(以下、「科博」とする)には「地球館」と「日本館」の二種類が存在するので、それを中心に紹介する。他にもシアターなどの施設が付随していることは付記しておく。
地球館
地球館は地下3階、地上3階となっており、それぞれの階で展示物は異なっている。有名なのは地下1階で見られる恐竜の化石である。
しかし、縄文小説執筆にあたっては地下2階の「地球環境の変動と生物の進化」が最重要フロアだ。ここでは地球誕生から現在までの生物の進化が紹介され、冥王代(地球誕生から3億年ほどの地質的に不明な時代)からはじまって現生人類に至るまでの進化の歴史を概観することができる。
スミロドンやデイノテリウムのように第四紀大量絶滅で地球から消えた大型哺乳類の化石なども圧巻ではあるが、「人類の進化」パートが特に興味深い。ここではラスコー展リポートで触れたように、アウストラロピテクスのルーシー、ホモ・エレクトゥスのトゥルカナ・ボーイ、ネアンデルタール人のラ・フェラシーなどといった復元模型を見ることができる。
また、石器や骨器、衣服なども見ることができるため、文化史的想像力を鍛える意味でも役立つだろう。縄文時代は石器時代のあとに訪れる1万年余にわたる時代区分であるが、石器時代においてもいくつかの優れた工芸品はすでに出土している。特に圧巻はウクライナから出土したマンモスの骨を使った住居の復元模型だろう。3万年も前にマンモスの骨を使って立派な住居を作っていたということは驚きである。
縄文小説を書くにあたって旧人類が登場することは普通ないが、現生人類以外も存在していた更新世の様子を詳しく知っておくことは小説のディティールに大きな影響をもたらす。場合によっては、「現生人類と旧人類の混交」というテーマを描くことも可能だろう。
地質年代を理解しておくことも重要だ。縄文時代の初期はまだ氷河期であり、地質年代における現在(完新世)が始まったのは1万年前に過ぎない。ある日とつぜんすべてが変わることは稀だ。ナウマン象はまだ生き残っていただろうし、もしかしたら、ひっそりと生き残っていた別の大型哺乳類もいたかもしれない。十分な知識を持ってこそ、意外な想像も膨らむというものだ。
他にも多種多様な動物の剥製、科学技術の発展史など、興味深い展示はたくさんあるので、地球館で一日が潰れてしまってもなんらおかしくはない。
日本館
スケールの大きい地球館と比べると、日本館は3階建ての手狭な作りになっている。建物も古く、私などは大学の古い講堂を思い出したものだ。
日本館の見所はずばり2階北翼にある「日本人と自然」である。展示コーナーをすべて挙げる。
- 歴史を旅する日本人
- 日本人の旅
- 骨を読む-縄文人はどんな人たちだったか-
- 縄文のくらし
- 骨を読む-弥生人はどんな人たちだったか-
- 弥生のくらし
- 地域集団の変遷
- 琉球人・本土人・アイヌ
- 骨は語る
- ほんの少し前の祖先
- 日本人が開発してきた自然
- 持ち込まれた生き物たち
- 追われる生き物たち
- 日本人が育んだ生き物たち
- 多様なイネ
- 稲作に伴う環境の変遷
- イネと技術の発展
縄文小説を書くにあたって特に重要なのは縄文人の暮らしむきや風土などであるが、その前後の期間を抑えておくことは重要だ。
たとえば、縄文時代よりも前の遺跡として沖縄で発見されている港川人や、その後縄文人を長い期間かけて「駆逐」した弥生人、そして、縄文の血を色濃く受け継ぐアイヌ人など、知っておくべきことは多くある。
日本館にも復元模型があり、種族ごとの(という言葉が適当かは知らないが)特徴をつかむことができる。たとえば、縄文時代の少年が目の細い涼しげな顔の雅な女と出会ったらそれはきっと渡来系弥生人だろうし、そうした細部があなたの小説に命を吹き込むだろう。
なお、もっとも耳目を集めるものは江戸時代のミイラである。この日本館において唯一写真撮影禁止になっているそのミイラの生々しさは、人々の想像力をかき立てる。
補足
科博の年間パスは1,000円程度であり、有償の展示としては破格の安さだ。2回いけば元が取れる。縄文小説に限らず、アイデアが枯渇したらフラッと訪れるだけでも価値はあるだろう。
また、時折開催される企画展で縄文関連のものが開催されていないかをチェックする意味でも、メールマガジンへの登録などはやっておいて間違いがないだろう。
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さて、以上で科博の紹介を終える。おそらく日本各地にこうした博物館はあると思うので、今後も縄文小説に役立つ施設を紹介していく予定だ。
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