キャッチ・ミーン・イフ・ユー・キャン

メタメタな時代の曖昧な私の文学(第9話)

高橋文樹

エセー

3,849文字

私達はテキストに意味があると思っている。そして、メタデータはそのテキストの意味を適切に伝えうると思っている。そして私達はそう思うがゆえに、テキストの意味を捕まえることができないのだ。

私達はテキストを書く。そこにはおそらく何かを込めることができる。と、私達は信じている。というのも、何かを込めたはずだからだ。時として、それが間違った風に受け止められることも私達は知っている。書き手自身が己の技量不足を反省することもあるだろうし、読み手が良い読者ではないと息巻くこともあるだろう。

また、私達はテキストを読む。そこにはおそらく何かが込められている。と、私達は期待している。何かが込められているはずだからだ。時として、それを正しく受け取れないことを私達は知っている。読み手自身が己の読解力不足を惜しむこともあるだろうし、書き手の力量を危ぶむこともあるだろう。

こうした書き手と読み手の思惑がなんにせよ、テキストには意味があるはずだと私達はなんとなく考えている。柄谷行人はスーザン・ソンタグをもじって『意味という病』という評論集を出しているが、このタイトルにはどこかハッとさせられるものがある。もしかして、意味を求めてるのは間違っているのではないか?——いや、こんな疑問を抱くのはやめておいた方がよいのかもしれない。ちょっと考えてみただけでも、気が狂ってしまいそうだ。とりあえず、テキストには意味があるということにしよう。テキストとは意味を込めるための器であり、中には意味が入っているのだ。テキストは開けてみるまで決して中身のわからないブラックボックス(航空機に搭載される頑丈な録音機)なのだということにしておこう。

ブラックボックスは一つで十分

さて、すべてのテキストが意味の詰まったブラックボックスだとしても、短いテキストの場合はほとんど問題にならないだろう。私達はTwitterのつぶやき140文字を見て、それが途切れたりしていない限り、ほとんどの場合瞬時に意味を汲み取ることができる。

ところがこれがある程度のテキストになると、そうもいかなくなる。ブラックボックスを手当たり次第開けていこうという奇特な人はいないはずだ。映画『フォレスト・ガンプ』には人生とは箱入りチョコレートのようなもの。開けてみるまで何が入っているかわからないという台詞が出てくるが、そのような類いのブラックボックスは人生一つで十分である。私達には有限の時間しかないのだから。たとえそのテキストが長さの割に工夫を凝らしてあり、他のテキストに比べて短時間で読み終えることができても、分量と読了にかかる時間は比例する。できれば「どんなことが書いてあるのか」を読む前に知りたいと思うはずだ。

このため、あるテキストには様々な上位データが付与される。テキストの持つ意味を端的に説明するような別のテキストなりイメージなりである。

かくもすばらしいメタデータの数々

こうしたブラックボックスであるテキストの意味を読むことなく知るためにどのようなメタデータがあるのかということを列挙していこうと思うのだが、おそらくあまりに多くなってしまうので、メタデータの性質を乱暴に3種類にわけてしまおう。ありとあらゆるメタデータの機能は分類、要約、評価からなっている

分類としてのメタデータ
たとえば文芸におけるSF、ミステリーというジャンルは分類としてのメタデータである。また、私の書棚には『入門 自然言語処理』という本があるが、この書名はテキストが「自然言語処理」という分野に属し、その対象が「初心者向け」であると分類してる。
要約としてのメタデータ
たとえばAmazonでは書籍のページそれぞれに「内容紹介」という項目があり、その書籍の内容を要約している。『新TOEICテスト これ1冊で600点は取れる!』といったタイトルも、テキストの内容を端的に要約している。要約はテキストというブラックボックスを開けるための労力を割いてくれる。
評価としてのメタデータ
またもAmazonを例に挙げるが、Amazonには星印でレビューがついており、これはその書籍に対する評価として機能する。書評や評論などもある意味で評価の一形態と言ってよいだろう。ただし、評価が有効に機能するためにはその評価が信頼に値するものであることが前提となる。

 さて、上記のようなテキストのメタデータはいったい誰によって作成されるのか。タイトルなどのようにテキストそのものとほとんど一体であるメタデータ——私が「タイトルはテキストのメタデータである」と主張することに違和感を覚える人も多いだろうが——を除けば、多くのメタデータは作者以外によって作成される。たとえば、水嶋ヒロこと斉藤智裕『KAGEROU』が書店において「文芸 国内 男性」の棚に置かれるのか、「タレント 男性」の棚に写真集と共に面陳されるのかは書店員の裁量に拠る。評価(ex. Amazonのレビュー、新聞の書評)については、テキストの書き手自身がよい評価を得ようと努力することはあっても、書き手自身の自薦がそれほど出回ることはない。それどころか、現在では機械によってメタデータを自動的に付与されるケースも増えている。

素晴らしいメタデータなど存在しない

ブラックボックスを開くことなくしてテキストの意味を把握するための仕組みこそがメタデータである、と仮定したところで、メタデータの無謬性(誤りのないこと)は保証されるわけではない。

これはメタデータの「評価」という性質において端的に表れる。たとえば、Amazonのレビューは購入者以外もつけることができる。ということは、少なくともAmazonにおいて、5つ星をつける行為は作品を読まなくても可能だということになる。事実、こうした「読まずして評価する」という行為は好意/悪意の有無に関わらず存在している。先述した『KAGEROU』を例に挙げれば、「楽しみなので星5つです」という失笑物のレビューがつけられたし、そもそも楽天にはレビューを書くことでポイント還元を行うシステムが存在する。

分類においても、錯誤は発生しうる。トマス・ピンチョンの『競売ナンバー49の叫び』がなぜかサンリオSF文庫に入っているように、間違った分類に入れられることはあったし、ボルヘスが紹介した中国の百科事典における動物の分類a、皇帝に属するもの b、香の匂いを放つもの c、飼いならされたもの d、乳呑み豚 e、人魚 f、お話に出てくるもの g、放し飼いの犬 h、この分類自体に含まれているもの i、気違いのように騒ぐもの j、数えきれぬもの k、駱駝の毛の極細の毛筆で描かれたもの l、その他 m、いましがた壷をこわしたもの n、遠くから蝿のように見えるもののように、分類そのものが何かおかしいというケースも考えられる。

また、無邪気な間違いならば人の世の常として受け入れることもできるが、明確な悪意(というよりは単なるズル)のために作成されるメタデータがある。たとえば、以前紹介したSEO(検索エンジン最適化)という技法においては、いまはもう通用しないブラックな技法が存在した。たとえば、「エロ動画 無料」というキーワードについて考えてみよう。あなたはエロ動画販売業者であり、エロ動画をインターネット経由で販売している。人々はインターネットにおいて「エロ動画 無料」という検索を行うことが多く、お金を払いたいと思っていない。そこであなたはWebサイトに工夫を凝らし、検索エンジンがあなたのサイトを「エロ動画 無料」だと勘違いするようにメタデータを作成する。結果、あなたのサイトには「エロ動画 無料」という検索ワードですっかり無料だと思い込んだユーザーが迷い込んでくる。こうしたズルはいままで星の数ほど行われてきた。

以上のように、メタデータの作成者はまったくミスをしないわけでもないし、曇りなき善意の持ち主でもない。ちょうど、テキストの書き手や読み手がそうではないように。ウンベルト・エーコの言った過去についての我々の知識は、馬鹿や間抜けや敵が書いたものに由来しているという言葉はテキスト全体についても適用される。

テキストに意味などないし、あったとしてもどうでもいい

ブラックボックスであるテキストをすべて読んでいく労力を割くためにメタデータが付与されるのであるが、結局のところメタデータもまたブラックボックスである。あるブラックボックスの中身を推察するために別のブラックボックスが作られるのだが、そのブラックボックスが元のものよりも小さく正しいのかどうかはよくわからない。

テキストはブラックボックスの入れ子構造であるなどという一昔前のテクスト分析を行っても仕方がないので、端的に結論を述べてしまうが、やはりテキストには意味があるという考え方がそもそも間違っていたのだ。いや、実際にできるものならやってみてほしい。あるテキストの意味をこれ以上ないというほど正確に、細大漏らさず述べることができるのなら。それはおそらく、同語反復トートロジーにしかならないだろう。

しかし、「この作品に込められた意図はなんですか?」という馬鹿げた問いを発するインタビュアーがこの世から消え去ることはない。これはなぜだろうか。テキストには意味などないのに、なぜ人はそこに意味があるかのように語るのだろうか。

私はこの問いに答えるために、文脈コンテクストについて考えていきたい。そしてまた、コンテクストについて語ることの困難と、その計算機科学における扱いについても述べるつもりだ。

2012年9月30日公開

作品集『メタメタな時代の曖昧な私の文学』第9話 (全21話)

© 2012 高橋文樹

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