教会にて

高橋文樹

小説

1,070文字

いつだったか忘れましたが、NHKのディレクターに「桜庭一樹先生が番組で超ショート小説を募集するからなんか書いてくれ」と頼まれて書いたやつです。その後、どうなったかは知りません。お題は「教会 少女 カーテン」だった気がします。

はじめに言い出したのは誰だったかな、ということを最近の大尉はよく思った。それも仕事の前に限って。

誰だったかな、と時には呟きさえしながら、大尉は廃墟の街を歩いた。民兵の奴らか? いや、軍の仲間内だったか? 思い出せなかった。敷石の隙間から若いヨモギが顔を覗かせていた。

民兵達がパレードをする予定の広場から二キロ離れた丘に古い教会があった。ショッピングセンターなら狙撃にうってつけなのだが、広場から近すぎる。教会がちょうどよかった。あれだけ遠ければ民兵共も気付かない。

教会に辿り着き、鐘楼へと昇った。時計の飾り窓がおあつらえ向きに開いている。大尉はケースを置き、ライフルを組み立て始めた。音一つ鳴らなかった。美しい少女が眠る前に身支度するような仕草だった。

「こんなところから当たるのかね?」

振り向くと、赤い僧衣を着た老人が立っていた。

「話はしてあったかな?」

「いや、少し驚いているが……あんた、山猫リンクスだろう? 第六小隊の」

「誰が呼び始めたのかは知らないがな」

大尉は弾を籠めた。命中した後に軟らかい鉛が標的の体内で爆けるよう、少し重めのソフトポイント弾を選んだ。

「ちょっと聞きたいんだが」と、弾を籠め終えた少佐が尋ねた。「俺を最初に山猫と呼んだのは誰だったかな?」

「さあ? あんたのことは山猫として知ったからな。他に通り名でもあったのかい?」

大尉は答えないまま、飾り窓にライフルをかけた。

「こんな遠くから当たるのかい? 信じられんな」と、神父は祈るような仕草をした。「学校が間にあるだろう? 邪魔じゃないのか?」

「大丈夫だ。心配するな。下見はしてある」

「あんたのライフルは壁も貫通するのかい?」

「まさか。教室の窓をあらかじめ開けてあるんだよ。そうすると、ここから広場の演説台まで一直線だ」

神父は、ほお、と声を上げ、それからまた祈るような仕草をした。

大尉はスコープを覗いた。白いカーテンがかかっていた。何かの拍子で止め具から外れたらしい。風は無く、動く気配も無かった。標的は見えなかった。

二時間ほど待ってから舌を鳴らすと、大尉はライフルを片付け始めた。組み立てる時と同じ、眠る前の少女が身支度するような仕草で。

「なんだ、やめるのか?」

息を止めて見守っていた神父が無念そうに尋ねた。それから、祈るような仕草をした。

「ああ、うってつけの日だったんだがな。まあ、長い戦争がほんの少しだけ長くなっただけだ」

大尉はそう呟いた。そして、自分の徒名の由来を思い出そうとしながら、鐘楼を降りていった。

——了

2015年6月16日公開

© 2015 高橋文樹

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