大滝瓶太『その謎を解いてはいけない』に収録された「読者への挑戦状」は暗黒院と小鳥遊のバディものであり、なおかつ小鳥遊の成長物語でもある。本作は既存作品のパロディ・オマージュに満ちており、四章まではわりとホンワカとして雰囲気で話が進み、長野が殺害されたことによって急にシリアスなムードが漂い始める。では、こうした物語構造によって提示されようとしているものがなんなのか、という疑問を頼りに謎を解いていきたい。
ミステリーではフーダニット(誰が殺したのか)・ホワイダニット(なぜ殺したのか)・ハウダニット(どうやって殺したのか)という三要素がよく語れるが、本作はホワイダニットものである。どのエピソードでも密室トリック(=ハウダニット)が演出されているが、オチとしてはホワイダニットが用意されている。そう考えると、最後の事件も「ホワイダニット」が核心となるだろう。
ここで、3章までの事件の動機を振り返っておきたい。
- 変な名前をつけられたことに激昂して殺した。
- 編集者が作家に小説を書かせるために殺人事件を演出して自殺した。
- 天才双子がちょっとしたすれ違いから天才数学者を殺した。
徐々に深刻さが増していくが、犯人がサイコパスじみているのは、第一章のディスティニィ・佐清だけである。他は感情のすれ違い、それなりの理由があって事件にいたっている。そうなると、最後の最後で「犯人がサイコパスでした」ということはありそうにない。たとえ「めちゃくちゃ悪いやつが犯人でした」というラストであっても、それなりの理由、つまりホワイダニットが開陳されるはずだ。
以下、私の推理を述べる。
- いったん綾野が容疑者としてあげられるが、犯人は相生であることを小鳥遊が見破る。
- LINEの記録がないのは、長野と直接話すことができるから。密室トリックについては小鳥遊の推理の通り。
- 動機は渡辺との恋愛を成就させつつあった綾野に罪をなすりつけること。
- 暗黒院は小鳥遊の兄であることがわかる。
- 周りを傷つけないために推理しないようにしていたが、小鳥遊は最終的に周りを傷つけてでも正義の探偵となることを選ぶ。
"俺は純文生まれ、ミステリ育ち、イタそうな奴は大体友達"へのコメント 0件