娘と娘の恋人による復讐劇

名探偵破滅派『死と奇術師』応募作品

高橋文樹

評論

1,114文字

名探偵破滅派トム・ミード『死と奇術師』応募作品。ネタバレを含むので、未読の方は注意されたし。

本作における謎は以下の3つである。

  1. リーズ博士を殺したのは誰か?
  2. エレベーター係のピートを殺したのは誰か?
  3. エドガー・シモンズとは誰か?

まず、ピートのエレベーター密室殺人から。守衛のロイスはエレベーターの扉が開かなかったことを請け合っているが、何せ1930年代のことだ、この扉は「伸縮する格子状の扉を少年が押し開け」ないと開かない。したがって、エレベーターの扉が開いていないことは、エレベーターが上下階を移動していないことを担保しない。よって、ピートは上階で殺され、下の階に向けて移動させられたのである。また、ピートを考察したのはその締める力の強さから、男性であることが仄めかされている。また、ステンハウスとハロウ巡査を誘き出すためにドアベルを鳴らした人物もいる。この二人を追い出したあと、エレベーターを四階に上げ、少年をエレベーターに入れたのだろう。一階についたエレベーターは自動で開くことはないので、ロイスは気づかなかった。

リーズ博士の殺害は小説家クロード以外が可能である。「私を見て驚いていないようですね」と言っていることから、患者ではない人物であることが推察される。したがって、これはエドガー・シモンズだろう。シモンズの目的は博士からハウスマンの状態を聞き出すことにあった。博士から情報を聞き出すことができず、「チーク材の大きな収納箱」に隠れていたリディアが博士を殺害、その後彼女はシモンズと入れ替われる形で家を出て、何も知らないボウマンと合流。シモンズは俳優なので、博士を殺した後に博士のふりをすることができるため、ハウスマンからの電話で博士のふりをして必要な情報を聞き出すと、リディアからもらった鍵で部屋の内側に鍵を差したまま外から鍵をかけた。ちなみに、フレンチドアというのは観音開きである。

 

それでは、肝心の動機である。まず、シモンズは自殺した蛇男の娘の元恋人である。そして、ハウスマンはドイツ系の名前なので、ウィーンに住んでいたリーズ博士と近しく、蛇男と縁があったのだろう。「お父さん!」という父への異様なオブセッションもなんらかの関係を感じさせる。もしかしたら、蛇男の息子なのかもしれない。ハウスマンが持つ蛇男についての情報を取得するため、シモンズはハウスマンの家に潜入する必要があった。そこで、ピートを殺して潜入の機会を作ったのである。

リディアが父を殺害したのは、父親から性的虐待を受けていたからである。蛇男に感化された父によって慰みものにされた彼女は、シモンズと知り合うことで父親とハウスマンの殺害について協力することで同意した。オーストリアでの暗い歴史が生んだ復讐劇といったところである。

 

2023年6月20日公開

© 2023 高橋文樹

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