彼は第二編の一冊目となるノートにおいて、ある哲学者の言葉を引用することになる。前世紀の半ばに発されたその言葉は、その潔さにおいて、卓越している。その潔さを尊重するならば、もうこれ以上蛇足を重ねるべきではない。しかし念のため、彼の改稿癖について記しておこう。
囚人は無際限にノートを書けるわけではない。数量に制限があり、取っておきたい場合は「領置申請」をしなくてはならない。そして、彼がすべてのノートを申請することはなかった。
彼は捕われの身になってから、本当によく書いた。日記、短歌、俳句、書、そして、この書物のための膨大な草稿……。しかし、彼はその大部分を廃棄しようとしていた。というよりも、彼は処遇上、「領置申請」という事務手続きを経なければ、持ち物を取っておけなかったのだが、彼は自分の書いたもののほとんどを「領置申請」しなかった。
実際には、ある涙もろい看守の手が、彼の残そうとしなかったノートの一部を廃棄処分から救った。それは越権行為だったが、それによって彼の書いたものの性質がある程度浮かび上がってくる。
ノートの中には雑記帖のようなものがあり、彼の嫌った日記めいた記述が残っている。それによると、彼は第一編のノートを書き終えた後から第二編のノートを書き始めるまでに一年近い時間を費やしたこと、その間に書かれたのべ十六冊のノートはすべて草稿として廃棄処分を申請したこと、右腕の腱鞘炎と視力の低下に悩まされたこと、人差し指と親指は漫画家のようなペンだこができたこと、例の刑務官が彼の異常な専念を気にして三日間の執筆禁止を命じるよう処遇部長に進言したこと、などが窺い知れる。
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