ぼくは煙草をやめたことになっている
おそらく妻にはばれているのだろうけれど
妻の前では吸わない ときおりパイプだけを吸うことになっている
玄関の脇には灰皿が置いてあって
そこにはもう吸い殻が追加されないことになっている
ぼくは夜こっそりと煙草を吸うと 灰だけを灰皿に落とす
吸い殻が見つかるわけにはいかないので 灰だけを落とす
吸い殻は家の中に持ち帰り 水道にさっと流して ゴミ箱の奥底にしまう
ぼくがついた嘘の分だけ 灰皿には灰が溜まる
隣のマンションの植え込みにさっと捨てる
どうせ灰なのだから いつか土に帰るさ
そんな気持ちで捨てる
ぼくだって辛いのだ
隣のマンションでは毎朝清掃の人が周囲を掃除している
側溝の溝やアスファルトに貼り付いたガムを懸命に綺麗にする
たまにはうちの前も綺麗にしてくれる
そしてぼくは灰を捨てている
清掃の人はかたす
吸い殻を捨てずにいるのがぼくの仕事
灰もついでにかたすのが清掃の仕事
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