それから、タカハシは目を覚ました。広い洋間にいて、ベッドの上だった。横にはバスローブを着た山田がしくしくと泣いていた。記憶が前後していた。
山田に聞くと、タカハシはあのあと、グラッパという臭い酒が気に入って、何杯も続けて飲んだらしかった。アルコール五十度の強い酒だったから、そのまま意識を失った。三人は寝れそうなベッドの脇を見ると、ゴミ袋にゲロが入っていた。
「俺吐いたの?」
「死んじゃうかと思った」
山田はそういうと、再びわっと泣き出した。よく覚えていないが、悪いことをしたらしい。意識を失うまでは丸毛のいる会社で働くかどうかの話をしていたはずだが、その結論がどうなったのかはわからなかった。
「ところで、この部屋なに? 凄い広いんだけど」
山田に聞くと、スイートルーム、という答えが返ってきた。頭の中に、五桁以上の数字が持つごりっとした感触が甦る。こういうホテルのスイートルームは、二〇万ほどするはずだった。
「金は? 俺、もしかしてカード使った?」
「社長が払ってくれたよ。入社祝いって言ってた」
タカハシは顎に手をやった。もしかしたら、丸毛に一服盛られたのかもしれなかった。が、タカハシの疑いはいつも長く続かなかった。まあいいや、となるのだ。
「ところでカントくんは? 先帰った?」
「いるよ。向こうに」
身体を重たく感じながら、リビングに行くと、カントが床に座っていた。身体が沈むほどのソファがあるというのに、床に座り込んでワインを飲んでいた。
「ああ、タカハシくん、悪い、飲んじゃったよ。冷蔵庫のこれ、下手に開けたら、五千円とか書いてあった」
カントは机の上においてあったメニューを渡して見せた。タカハシはそれを五秒ほど眺めると、すぐに尋ねた。
「昨日さ、なにがあったの? 俺、全然記憶ないんだけど」
「ある意味、男だったよ。ボンゾみたいに死ぬかと思ったけどさ」
「誰それ」
「ツェッペリンのドラムだよ。ある意味、スイートルームで寝ゲロして死亡ってのは、最高にロックだからね」
「ホントにここスイートなの?」
「そうだよ。あの社長がカード切ってたけど、十六万だってさ」
「そう……。山田、コーヒー入れてくんない」
タカハシはソファに腰をかけた。すると、それまで床に座っていたカントが向かいのソファに座った。北千住の四〇一号室にいるような既視感に、タカハシはくすりと笑いを漏らした。
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