2015年9月2日、縄文小説ワークショップが開催された。一日目の内容は下記の通りである。
ワークショップの趣旨説明
まず、よくわからない状態で来た参加者のために、会の進め方を説明した。趣旨は次の通りである。
縄文時代を書くべき理由
- 自分の知らないものを書く能力は作家に不可欠
- 縄文時代は「先史時代」なので、情報が少ない
- ゆえに最も難しい縄文時代を書ければなんでも書ける
誰でも人生で3度は小説が書けるというが、優れた作品を物すためには調査・取材が欠かせない。時代劇や犯罪ミステリーの書き手が全員侍や警察官ではない事実を鑑みても明らかである。
進め方
ワークショップの進め方は次の通り。
- まずは予備情報なしで縄文時代小説を書いてみる
- その後、ワークショップで調査・議論・執筆を重ねる
- 修行が終わった頃にもう一度書く
スケジュールとしては、2週間に1回の開催を予定し、全部で半年の期間を設けている。半年後には優れた縄文小説が何作も残るという目算だ。
やるべきタスク
執筆
なにはともあれ、書いてみないことにははじまらない。このワークショップでは、「どう書いていいかわからない」というような泣き言は基本的に聞かない。ある程度すでに書けることが参加条件だ。
先行作品の調査
縄文時代を舞台にした文芸作品は、近現代や中近世と比べるとはるかに少ない。このため、その調査も目的は「かぶらないため」ではなく、「他の作家はどのように工夫してきたか?」という点にある。
また、先行作品は縄文時代を取り扱った作品の他、先史時代を取り扱った外国語文学作品も視野に入れる。
縄文時代文献の調査
作品とはまた別に、縄文時代について書かれた歴史書などのリストも作成すべきだろう。たとえば、山川出版『詳説 日本史』などは高校の教科書レベルだが、概説などから入るのにはうってつけだ。また、トピックごとに参考にすべき書籍もリストとしてあるべきで、ワークショップに参加しているうちに分業体制でこのリストを充実させていかなければならない。
この文献には先行作品調査と同様、国内外のものがありえるだろう。「無文字文化だと思われていた文明に高度なコミュニケーションがあった」という発見はいかにもありえそうだが、こうした事例から、無文字文化であるはずの縄文時代におけるコミュニケーションを想像する一助になる可能性がある。
基本的には上記のタスクをこなすことでワークショップを消化していく。
作られる成果物
ワークショップを完了したのち、参加者の手元に残っているはずのものである。
- 優れた縄文時代文学作品
- 縄文時代を書くにあたっての参考文献集
- 縄文時代を書くにあたってのノウハウ
ノウハウというのが少しわかりづらいかと思ったので、補足する。
まず、禁則事項である。縄文小説を書くにあたり、「やってはいけない」ことがなんなのかを体系立てて置くことは重要だ。菊地秀行『青い森の国』では、なんすか「超音速(マッハ)の銃弾と化して」って
という星2つのレビューが付いている。これはおそらく、やってはいけないことなのだろう。余談だが、ワークショップ中に参加者(名前を決めていないのでなんと書いて良いかわからず)によって「菊池成孔は菊地秀行の弟である」という話を聞いたのだが、こうした雑談にワークショップの醍醐味があろう。
そして、上記に付随するのだが、「縄文時代らしい表現技法」である。仮に参加者達の研究がなにがしかの高みに達したとして、縄文時代の口語をほとんど再現できたとしよう。それで果たして読者は読むことができるだろうか? ある程度のリーダビリティを確保しつつ、自然に読ませる技術は執筆にあたって重要なノウハウとなるだろう。
最後に、調査する手順。情報をかき集めれば素晴らしい文芸作品ができるというわけではないが、それでも情報を調査することに慣れているかいないかは雲泥の差だ。特に、プロのライター仕事などをやったことがない人はこの勘所がわからないだろう。その意味で、「調査する手順を知る」というのは、もっともありふれていながら、もっとも汎用性の高いノウハウだといえる。
以上、ワークショップを行うにあたって我々に残る成果物について述べた。この説明のときに使用したスライドがSlideShareに上げてあるので、興味のある方はご高覧されたし。
フリーディスカッション
上記をふまえ、現時点で我々が縄文時代について知っていることをフリーディスカッション形式で列挙していった。以下、単語ベースで上げておく。クエスチョンマークは真偽が定かではない情報である。
- 土器、狩猟採集生活、
- ムラ社会(規模?)
- 文字はない。言語はある。
- 海面が高かった。思ったより、海辺に住んでいた。気温が高かった。日本全体が沖縄ぐらい。
- 酒はあったか? 草でラリってた?
- 縄文晩期(弥生時代とかぶってたころ)
- 服は貫頭衣?
- スポーツや娯楽の存在は不明。あったはず。
- 食べ物は、貝、木の実(ドングリ、くるみ)、釣り、狩り(イノシシ、シカ、牛?、クマ)
- 壁画があった
- 宗教的な儀式はあったにちがいない(太陽信仰は農耕をしない限り生まれない?)石ノ森章太郎の『まんが日本史』では祭が乱交として描かれていた?
- ペットはいた。(犬は狩猟のお供、猫は稲作で倉庫のネズミ退治がはじまり)鳥?
- 住居(竪穴式住居)山梨に中学生が竪穴式住居作ってニュースになってた
- 職業? 分業体制ははじまっていた。女は木の実を取り、男は狩猟をしていた。
- 地母神信仰(土偶・ヴィーナス)
以上が私を含めた参加者のもっていた知識である。真偽のほどは定かではないが、とりあえず私たちはこの情報をもとに小説を書いていく。
宿題
次回のワークショップ(9/30)では、小説の合評を行うため、9/23までに作品を書く必要がある。参加者はそれぞれ次の内容を宣言した。
- 高橋案: 兄弟(兄は優秀な狩人、弟は新米狩人)が対立する話
- 中村案: ペットの猫の飼い主とペットのいない人間
- § 案: 現代でいう野球のような手を使うスポーツの天才がいて、そいつは狩りができない穀潰しで、弟がいる話
上記の内容で4000文字〜8000文字の作品を破滅派に投稿することになった。なお、途中から参加されたい方は告知ページをご覧されたし。
作品を書かなくても、合評会には参加できるので、気軽に足を運んで欲しい。また、ワークショップなどの感想を破滅派にあげる場合は、「縄文時代」というタグをつけてもらえると私が発見しやすいので、よろしくお願い申し上げます。
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