本日はよろしくお願いします。本日のゲストは大木芙沙子さん(以下、大)と斧田小夜(以下、斧)さんです。
大&斧 よろしくお願いします。
対談のきっかけは大木さんに誰か対談したい人はいないですかといったら斧田さんを指名したことなんですが。
斧 光栄です。
作家を志したきっかけ
大木さんはkaze no tanbunでプロ作家としてデビューすることになったわけですが、作家を目指すきっかけを教えてもらっていいですか?
大 小説は小学生の頃からお話みたいなものを書いていて、小学校の卒業文集でも将来の夢を小説家と書いてました。当時は小説家に当然なるだろうと思っていましたが、なかなかなれなくて……去年、西崎憲さんから「惑星と口笛ブックスで短編集を出しましょう」というお話をいただいて……。
斧 突然ですか?
大 突然ではなくて、私が「読んでください!」と送ったところ、「じゃあこれを短編集にしましょう」という話だったのですが、そのときたまたま西崎さんがkaze no tanbunを準備中で、私の名前を挙げてくださったようです。ぜんぶタイミングがよかったんですね。
なるほど。破滅派に参加するようになったのは、合評会ですよね?
大 そうです。参加したのは2019年で、私はそれまで人と何かを創作することをやっていなくて。文芸部とか同人誌とかにも参加したことがなかったですし。一度どこかに出してみようと思って。
新人賞とかには出してたんですか?
大 はい。でも全然だめで、箸にも棒にもひっかからなかったんです。色々ネットを探したら破滅派が作風にあってるかなと思いました。
なるほど。斧田さんの書き始めたきっかけはいつですか?
斧 私も小学校の頃には絵本作家になりたいとか言ってたんですが、中高ぐらいはすっかり忘れてて、大学・社会人になってからもずっと忙しくて。で、はてな匿名ダイアリーに書くようになって、そこで「小説とか書いたら」っていうコメントをもらってから小説を書くようになりました。書き始めて二年後ぐらいに東京創元社のSF短編賞で二次ぐらいまで残って、「あ、いけるのかな」と思ったんですけど、ハヤカワの最終に残ったときに、「なんか合わないのかな?」と書くのをやめようと思うようになって……。ただどうしても一個だけ書きたい短編があって、それをどこかに発表しようと色々探したら破滅派を見つけて、それを書いたら高橋さんから「電子書籍にしませんか?」と声をかけられて。
大 へー。
そうですね。僕の選球眼が光りました。ちなみに増田(※はてな匿名ダイアリー)でコメントをくれた人って、会ったこととかあるんですか?
斧 いや、全然知らない人です。でもそういう応援コメントを何個かもらいました。
じゃあ、実は増田出身作家なんですね。そういう意味で二人ともなるべくして作家になったというわけですね。
デビュー作について
大木さんのデビュー作はkaze no tanbunというアンソロジーです。
大 はい。私はほんとにラッキーだったというか、ものすごく光栄なお話でした。
どんな感じですか、デビューした心境というのは?
大 なんか……私は「みんなお仕事をどうやってとってきているのかな」というのが不思議ですね。破滅派のみなさんはどうしてるんですか?
あ、将来の心配ですか? そんなにみんな仕事とってきてるんですか? 斧田さんはどうですか、デビュー後の戦略とか。
斧 そうですね。私は受賞時にゲンロンSF創作講座に参加していたので、けっきょく編集者に送らないと載せてもらえないんだなとかわかっていたので……。
賞をとっても送らないと載せてもらえないですかね。
大 あれっていきなり送っていいんですか?
斧 まあ、面識がある人なら。名刺交換とかしていれば大丈夫です。編集者からいきなり来ることもありますし。このあいだ小説すばるに載ったものは、NOVAを読んで感想をいただいて、それからという感じです。
大 高橋さんがホームページを作った方がいいとおっしゃっていたので、私もホームページを作りました。高橋モデルを踏襲して英語のページも作ったり。
そうですね。「お仕事はこちら」って書いた方がいいですよ。
斧 Twitterもやってるんですよね?
大 はい。でもフォロワーが少ないんですね。
フォロワーの数は関係ないですよ。斧田さんはどうですか、先輩として心構えは。
斧 いやー、編集者との関係は大事ですよ。
破滅派ならすべての編集者に嫌われた後でも出せますよ(笑)
大 私は新人賞をとっていないので、そこにちょっと引け目を感じるというか……。
いや、大丈夫ですよ。原稿料が発生していたらプロです。
斧 ヌルッと出てきてる作家っていますよね。なんでかわからないけどずっといるみたいな。
大 あー、そういう人になりたいですね。
新人賞をとっても本が出ないことはありますよね。
自分のジャンル認識
斧田さんはSFですけど、大木さんのジャンルはなんなんですか?
大 私はジャンル迷子ですね。いまかぐやプラネットで「かわいいハミー」を出してるんですけど。それはいちおうSFの短編なんですが、私はあまりSFに詳しくなくて……。がんばってSFを書いたのですが、書いてみてSFというジャンルに行くのは怖いなと思いました。
斧 まあ、SFは怖いファンもいっぱいいますからね。
大 斧田さんはもともとSFを書こうと思っていたんですか?
斧 私は理系というか、工学系の人間なので、もともとSFの方が書きやすかったというか……。最初からSFだけというわけではないです。
破滅派で最初にフックアップしたのはファンタジー(春を負う)ですよね。すごい昔か、すごい未来か、原始的な生活を営んでいる人たちを描いたものでした。
斧 あれは未来の話ですね。
あ、そうなんですね。大木さんは「自分はこのジャンルに行きたい!」みたいなのはあるんですか? 好きな作家とか。
大 好きな作家……。でもいまって難しくないですか? 色んな作家がいろんなジャンルに書いているというか……。ちなみに高橋さんはいまSF作家なんですか?
いや、別にそういうわけではないです。
大 純文学とか?
世界文学ですね。僕は純文学を特に好きというわけではないので。文芸誌も読んでないですし。対談とかは面白いと思いますが、要するに大江健三郎が文芸誌出身なので純文学の賞などに出しただけで、特に純文学が好きなわけではないです。人に説明するときにはめんどくさいので「純文学です」とは言ってましたが。斧田さんはどうですか?
斧 私はエンタメよりですね。ファンタジーとかSFとか。
大 私は『飲鴆止渇』を読んだのですが、宮内悠介さんの選評で「志が高い小説だ」というのがあって、たしかにテーマがしっかりしていると感じました。
斧 それは私がインターネット出身の書き手だからですね。ネットではテーマがしっかりしてないと読んでもらえないんですよ。
じゃあ、増田が育ててくれたというわけですね。
斧 そうです。増田文学です。
それはわりと公言してるんですか? 「増田文学」という言葉はありますが、増田文学出身のプロ作家というのはあまり聞かないので。
斧 してませんね。今後は言っていこうかな?
今後の挑戦
お二人が今後挑戦していきたいジャンルってありますか?
大 私は「かわいいハミー」を書いた時にもっとちゃんと調べてSFを書きたいなとと思いました。一つのテーマにじっくり向き合って勉強して書いてみたいなと思ってます。
斧田さん、なんかアドバイスないですか?
斧 そうですね。SFは論文を読んで書いたりする人もいますし。けっこう深いですよね。
大木さんは歴史物とか向いてそうな気がします。なにか、「自分はこれが譲れない!」みたいなものはありますか?
大 私はもともと近現代日本文学を研究していて、学会とかにも所属してやっていたので。芥川とかあの辺の時代の。といっても、歴史というほど昔じゃないんですけど。
斧 それだけ前なら十分歴史物じゃないですか? アメリカとかなら150年前で十分歴史物ですよ。
激戦区ではありますよね。
大 そうなんですよ。なので誰もやっていないところを見つけたいですね。
斧 私も歴史物は書きたいです。いま中国史SFが流行っていて。中国以外の歴史SFにチャレンジしてみたいなと思ってます。
中国史SFって具体的になんですか?
斧 あれですよ、孔子が出てきてSFになるみたいな。
なるほど、『流れよわが涙、と孔明は言った』のような作品ですね。斧田さんは蘇童や閻連科などが好きで中国文学に詳しいですが、なぜなんですか?
斧 私は小説を書き始めたとき、日本の文学があまり好きじゃなくて海外文学にいったのですが、装丁が綺麗だったというきっかけで中国文学を読むようになりました。その流れでだんだん詳しくなっていたという感じですね。ちょっとした言い回しを含む描写がわからなくて調べるうちに詳しくなりました。私が書くなら東南アジアの小国とか、日本ではあまり知られていない地域のSFを書きたいですね。
大 それは長編ですか?
斧 うーん、長編だと調べるのが大変なので……。他にも色々書きたいものがあるんですよ。技術ネタとか、ジェンダーとか。
女性作家として考えること
そういえば二人とも奇しくも女性作家ですが、ジェンダーについて書きたいものってなんかありますか? アトウッドとか最近「再発見」されましたが。
斧 私は最近のジェンダーSFとか好きではなくて、なにか新しいものを書きたいですね。
大木さんはなにかありますか?
大 私は百合というより、色恋があまり絡まない女性同士の話を書きたいですね。私は『ドラゴンボール』の悟空とブルマの関係が好きなんです。悟空とブルマが結婚しなかったのがすごくいいと思っていて。そういう二人の話を女性同士で書きたいですね。ドラゴンボールを集めなくてもいいんですけど。
ドラゴンボール集めたほうが売れると思いますよ? ところで、もともとこの対談は大木さんが斧田さんを指名したのですが、なぜなんですか? やはり女性同士親近感があるのかなと思いましたが……。
大 合評会に「金子さん」で参加したのですが、それを斧田さんに褒めてもらえたのが嬉しくて。ショーン・タンの『セミ』とかも紹介してもらって。「あ、これは斧田さんとお近づきになりたい!」と思いました。でも、なかなか機会がなくて……。『飲鴆止渇』では最初の方で主人公が褒められるじゃないですか。それが主人公はずっと嬉しいというエピソードがあるんですが、そこを読んで合評会の体験を思い出して! 「私の体験が書かれている!」と思いました。
どうですか、斧田さん。
斧 そこまで強烈な印象を与えていたとは思いませんでしたけど……。でも、私も褒められて書き続けたタイプなので、その嬉しさはわかります。
そうですね。新人作家というのは特に仲間がいないものなので、仲良くしてもらったらいいと思います。なにか言い残したことはありますか?
大 あ、そうだ! 私は今日、『kaze no tanbun 夕暮れの草の冠』色の服をきているので、ぜひよろしくおねがいします。ほんとうに装丁も素晴らしいので。
後日、二人によってトウキョウ下町SF作家の会が結成された。
※このインタビューは東京都に緊急事態宣言が発令された2021年7月12日より前に収録されました。
コメント Facebookコメントが利用できます