真犯人はサイドストーリーの中に

名探偵破滅派『観測者の殺人』応募作品

高橋文樹

エセー

1,232文字

2024年4月名探偵破滅派『観測者の殺人』参加作品。本書へのネタバレを含むので、未読の方は注意されたし。

本書は「鬼界」を名乗る謎めいた殺人鬼からの指示を受けた代理殺人として物語が進行する。それぞれ「追跡者」「観測者」などの章題がついており、語り手の視点が切り替わる構成だ。出題範囲までにわかっているのは以下の通り。

  1. RedBirdは観測者である須崎猟で、実行犯でもある。
  2. 鬼界の正体は不明だが、若い男であり、タチバナという女の助手がいる。
  3. 須崎は鬼界にはめられて死にかけており、実行犯であることを認めている。
  4. 一真はすでに死んだと須崎は主張している。

ここでいったん各章の主要人物とその役割を分類しよう。

章題 視点人物 役割
観測者 須崎猟 犯人による犯行の様子を詳述する
追跡者 今津唯 メインストーリー進行
部外者 月浦一真 鬼界に関する情報補足(月浦兄妹は鬼界について詳しい)
変革者 鳥飼仁 主要な舞台となるSNSクォーカーの舞台裏を描く

さて、こうした複数の視点を織り交ぜていることから、いくつかのことが推察される。

  • この章のどれかに出ている人物が鬼界である。
  • 「変革者」で開示される情報を「追跡者」の登場人物はすぐに知ることができない。よって、それがストーリーの進行に深く関わっている。

まず本書では「観測者」と「追跡者」の2つが対になってストーリーが進んでいき、「部外者」がその補助線となっている。一方で、けっこうなボリュームがありながら、必ずしも必要ない章が「変革者」である。登場人物同士の関わりが間接的にしかないにも関わらず、連続殺人事件と並行するように「サッカー部で起きた暴力事件のビデオ」の件が語られるからだ。したがって、犯人はこの章の中にいると考えて良いだろう。

筆者の推理は次の通り。

  1. 鬼界は今津唯の父、今津正であり、「伝言役」が六本松拓郎である。須崎が会った「中性的な若い男」は六本松のこと。ちなみに、タチバナは仁の上長、相生である。
  2. 鬼界についてのネット記事「石城アキオの仄暗い部屋696章」にある「696ろくろ」から、執筆者は六本松。おそらく、その経緯から鬼界である今津正と接触を持つようになり、「伝言役」を引き受けるようになった。
  3. 仁に「この動画フェイクじゃない?」と問題提起したのは六本松だが、そもそもその動画を作ったのは六本松だった。六本松は息を吸うように自作自演している。
  4. 今津正の倫理観は仁と真逆(P.229)である。人の「デバリングシステム」、つまり匿名性を守り人間の善性を信じるアプローチとは真逆なので、悪人を暴き必ず罰するという考えの持ち主である。これは今回の鬼界の行動規範と合致する。
  5. 鬼界は「フェールセーフ」というプログラミングシステムの実装に関する用語を使っていることから、クォーカーに近い人物である。クォーカーの内部にいる人間ならQオブザーバーなどなくとも犠牲者を見つけることができる。

最後、六本松は捕まるが、鬼界は姿を消し、唯がクォーカーの社長に就任して再建を誓う。一真は一命を取り留める。鬼界との戦いは自作以降に引き継がれ、月浦兄妹によるバディものとして展開されるはずだ。

2024年4月21日公開

© 2024 高橋文樹

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