いま私はバンコクへ向かう香港航空609便に乗ってこの文章を書いている。これは私が村上春樹ぶっているわけではなく、インターネットに接続して検索することができない理由を説明、つまり言い訳をしているのだ。したがって、固有名詞などについて間違いがあるかもしれないが、それはご容赦いただきたい。
さて、人民教会(ピープルズ・チャーチ)事件というのは実際にあった事件を明らかにモデルにしている。名前を少し変えただけだ。扉辞のジム・ジョーンズ(我々は自殺するのではない)がジム・ジョーデンのモデルだろう。カルト宗教が南米に教団施設を作り、700名近くが集団自殺をした実在の事件だ。インターネットで検索をすれば、その集団自殺の最中に録音された音源を聴くことができる。人々の呻き声と音の割れたスピーカーから響く説法が生々しい。
四日目でりり子が殺され、「不慮の事故説」が間違いだということがわかったところから推理を始める。
まず、イの死体の発見者であるルイズ・レズナーは遺体をパビリオンで発見している。その様子は第三者の視点(神の視点)で作中に述べられているので、りり子の推理「ルイズが事故を隠蔽するために遺体をパビリオンに置いた」は間違いである。
となると、この一連の殺人事件は人民教会による視察者の殺戮が明確に掲げられており、四日目までの部分でその目的は遂げられている。残すところ、大塒だけである。
まず、大塒はデント・ジョディ・イの3件の殺害トリックを暴く。その後、りり子殺害の犯人を告げる。犯人は彼女に懐いていたアジア系少年Qである。Qはりり子の数珠を盗んだ張本人であり、世話役のWと共謀してりり子を殺害した。
視察団の虐殺を終え、ジム・ジョーデンの指揮下による一連の殺人事件と視察団の虐殺について暴いた大塒は、ジムに贖罪を迫る。どういった論法によるのかはともかく、可愛い助手のりり子を殺された大塒は、神の信仰を試すため、毒入りジュースを全員が飲むことを強要する。大塒は殺害されるが(名探偵のいけにえ!)、ジムは集団自殺を決行する。
ここで冒頭のシーンに戻り、自決するジムの独白「自分はあの男に嵌められたのだ」の「あの男」が大塒だということがわかる。カルト教団による集団自殺ではなく、名探偵による壮大な復讐が教団の全滅という結果を招いた。
映画『悪魔のいけにえ』がそうだったように、おそらくこのシリーズは探偵が死ぬことがお約束として決まっているのだろう。中原昌也「犯人逮捕ののち登場人物全員死亡」というわけだ。前回の「方舟」に続き、なんとも後味の悪い終わり方である(まだ読んでないが)。最近はこういう終わり方が流行っているのだろうか?
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