方舟という宗教的なモチーフを題材にした本作は、地下の怪しげな施設を舞台にした連続殺人事件をめぐるミステリーである。ただし、第四章「ナイフと爪切り」までに発生した三件の殺人事件はどれも密室殺人ではない。一つ目の裕哉殺害は全員にアリバイがなく、二件目、三件目も同様である。
まず、消去法で犯人候補を絞る。
- 語り手の柊一と探偵役の翔太郎は除外。第五章だけで叙述トリックが成立する余地がない。
- 矢崎弘子と息子の隼斗は除外。初対面の裕哉を殺害する動機がないし、一家の長である矢崎は真犯人をつきとめるために殺害されている。
残る容疑者候補は以下の三名である。
- 糸山隆平
- 糸山麻衣
- 高津花
このうち、糸山夫妻は関係が冷え切っており、柊一と麻衣は連続殺人事件が発生している最中にキスを交わしている。隆平はその関係を怪しんでおり、夫妻は第一の殺人が発生してから部屋を変えている。ただ、柊一・麻衣・隆平の三角関係はそれ自体で完結しており、いまのところ既に発生した殺人に関わることはなさそうだ。
一方で、犠牲者を考えると、西村裕哉・野内さやかは大学のサークルメンバーであり、こちらは高津花と少なからぬ因縁がある。したがって、もう一つの三角関係の一端を担うであろう高津花が犯人である。以下、推理の理由になった要素を挙げる。
- 花・さやか・裕哉の三人は第一章で方舟から抜け出して外出している。このとき花が外出しようとしていたところに裕哉がついていこうとするが、それを花が嫌がっている。そこにさやかが助け舟を出す。この三人には柊一の知らない特別な関係があり、動機も男女関係のもつれである。
- さやかは花に「なにか黒っぽいもの」を渡している。これはウェスである。つまり、さやかは自分を殺すための道具を花に用意させられたことになる。
- 登山サークルのメンバーたちは、過去に携帯が圏外でも通話できる「トランシーバーアプリ」を全員が入れている。したがって、麻衣と柊一が通話したように、全員が通話できた。さやかが殺害されたのは、このトランシーバーアプリがスマホに入っていたからである。
- 同じ部屋にいた花とさやかが部屋をわけたのは花の提案による。
- 裕哉の爪切りを犯人である花が回収する必要性を感じたのは、裕哉の死体の爪に挟まった自分の皮膚の痕跡を取り除くためである。
- 花は一番嫌な死に方について話した時「もし、嫌な死に方ランキング作ったら、首を絞められたり、刺されたりして殺されるのって、意外とあんま上位じゃないんじゃない?」と発言している。これは裕哉とさやかの死因を暗示している。
最終章の展開を推理すると、次のようになる。
- 翔太郎によって花が真犯人であることが暴かれる。
- 激昂した隆平がその暴力性を発揮、花は拷問にかけられ、死んでしまう(もっとキツいの)。花が死んだことによって、脱出するために岩を落とす役割がいなくなる。
- 麻衣は責任を感じて隆平を生き埋めにして殺害する。罪滅ぼしのため、自分が残って岩を落とす決断をする。結果、麻衣は一番嫌な死に方である溺死をする。
- ノアの方舟さながら、生き残った四人(柊一・翔太郎・矢崎母子)が外に出る。
本作はこうした胸糞の悪いバッドエンドで幕を閉じるはずである。
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