勒野宇流の投稿一覧 49件

  1. でぶでよろよろの太陽 (5章 の1) でぶでよろよろの太陽 / 小説

    • 勒野宇流
    • 6年前
    • 2,170文字

       (5章の1)      わたしのすい臓はがんで、さらにはステージⅣだった。これはもう、治療のしようがないくらいに進行しているという状態だ。    ある日担当医は、点滴で元気になったわたしを…

  2. でぶでよろよろの太陽 (5章 の2) でぶでよろよろの太陽 / 小説

    • 勒野宇流
    • 6年前
    • 2,405文字

       (5章の2)      告知を受け、わたしはすぐさま会社を辞めた。働いている意味がまったくないからだ。一人暮らしで家族はいない。どうして余命が半年なのに働かなくてはならないのか。成し遂げた…

  3. でぶでよろよろの太陽 (5章 の3) でぶでよろよろの太陽 / 小説

    • 勒野宇流
    • 6年前
    • 1,446文字

       (5章の3)      点滴で意識が戻り、医者は、血糖値が急激に落ちたので意識を失ったと伝えた。もうわたしのすい臓はほとんど機能していないということだった。    それ以降は入院生活となる…

  4. 影なき小説家(ペイパーバック・ライター) 第7話 影なき小説家(ペイパーバック・ライター) / 小説

    • 勒野宇流
    • 6年前
    • 1,513文字

       (第7話)      新宿区役所前で友人と落ち合った依本は、信号を渡ってゴールデン街へと入っていった。 2区画歩いたが、どこもまだ閉まっている。この伝統ある猥雑な呑み屋街は、日がとっぷり暮…

  5. 影なき小説家(ペイパーバック・ライター) 第8話 影なき小説家(ペイパーバック・ライター) / 小説

    • 勒野宇流
    • 6年前
    • 1,910文字

       (第8話)      勤め人同士で呑む場合と、自由業同士でのそれかで大きく違うのは、相手の基本的な背景を知っているかどうかということがある。    勤め人同士、それも同じ会社であれば、相手…

  6. でぶでよろよろの太陽(6章 の1) でぶでよろよろの太陽 / 小説

    • 勒野宇流
    • 6年前
    • 2,034文字

       (6章の1)      そこに、一人の男が現れた。    男は、元々関係の薄い、そして今ではほとんど付き合いの切れている友人の名を出した。その紹介で訪ねて来たのだという。    あいつか。…

  7. 影なき小説家(ペイパーバック・ライター) 第9話 影なき小説家(ペイパーバック・ライター) / 小説

    • 勒野宇流
    • 6年前
    • 1,947文字

       (第9話)      松江は以前から、依本の落ちていく様を聞いても、同情や慰めの言葉を吐かなかった。依本が書けなくなり、仕事が減り、そしてなくなり、収入が激減すると同時に離婚もし、寂れた一…

  8. でぶでよろよろの太陽(6章 の2) でぶでよろよろの太陽 / 小説

    • 勒野宇流
    • 6年前
    • 1,634文字

       (6章の2)      その頃わたしは、病院から退院を迫られていた。身内のいないわたしを長く置けば、いずれ病院はやっかいを抱え込むことになる。まだ多少は動くことができるここらがチャンスと見…

  9. でぶでよろよろの太陽(6章 の3) でぶでよろよろの太陽 / 小説

    • 勒野宇流
    • 6年前
    • 2,014文字

       (6章の3)      特別サービスについて、根を詰めてとうとうと話されたわけではない。もはや敵地に乗り込んでのそれなので、相手は強引にでもいい加減にでも、もっと言えば強制してでもできたは…

  10. 影なき小説家(ペイパーバック・ライター) 第10話 影なき小説家(ペイパーバック・ライター) / 小説

    • 勒野宇流
    • 6年前
    • 3,015文字

       (第10話)      伸びをした拍子に、店をぐるりと見回す。拘らないようにしているのだが、つい、あの女がいないかと探ってしまう。    女はいない。依本は落胆する。一目見れば、明日からま…

  11. 影なき小説家(ペイパーバック・ライター) 第11話 影なき小説家(ペイパーバック・ライター) / 小説

    • 勒野宇流
    • 6年前
    • 1,841文字

       (第11話)      詠野説人。こう書いて「えいのぜっと」と読む。謎の作家で、プライベートな部分はほとんど知られていない。昭和30年代の生まれ、東京都出身、血液型A型、男。公式な情報とし…

  12. でぶでよろよろの太陽  (7章 の1) でぶでよろよろの太陽 / 小説

    • 勒野宇流
    • 6年前
    • 2,119文字

       (7章の1)      病室から部屋を移され、機械が隙間なく並ぶ部屋で『業者A』の人間に囲まれることになった。いろいろな線を、そして管を、とっかえひっかえ体に付けられた。これが夢の世界に行…

  13. でぶでよろよろの太陽  (7章 の2) でぶでよろよろの太陽 / 小説

    • 勒野宇流
    • 6年前
    • 1,751文字

       (7章の2)      契約を交わしたとき、夢の中ですごす環境を考えておいてくれと言われた。ようは、3日間を生きる世界のことだ。地域も時代も問わないという。さすがに他の星や深海など、およそ…

  14. でぶでよろよろの太陽  (7章 の3) でぶでよろよろの太陽 / 小説

    • 勒野宇流
    • 6年前
    • 2,249文字

       (7章の3)      翌日、点滴注射を受けているときに沢田が来た。腕の血管に取り付けた管にセットした大型の注射器を、医師が親指でゆっくり押す。赤味がかった液体が管を伝ってわたしの中に入っ…

  15. 影なき小説家(ペイパーバック・ライター) 第12話 影なき小説家(ペイパーバック・ライター) / 小説

    • 勒野宇流
    • 6年前
    • 2,649文字

       (第12話)      謎の人物は伝説も生まれやすい。詠野Zにもいくつか噂があったが、その一つを抜き出すと、このようなすさまじいものだった。    それは詠野Zが、まるでタイピストが原稿を…

  16. でぶでよろよろの太陽  (7章 の4) でぶでよろよろの太陽 / 小説

    • 勒野宇流
    • 6年前
    • 2,121文字

       (7章の4)      わたしはまた、ふと思いだす。以前に一度、夕日を見つめていて思ったことを。    もしかしたら自分は死ぬとき、夕日を見たくなるのではないだろうか。きっと死ぬ間際になっ…

  17. でぶでよろよろの太陽(8章 の1) でぶでよろよろの太陽 / 小説

    • 勒野宇流
    • 6年前
    • 2,499文字

       (8章の1)      わたしはずっと歩いている。「汗よ乾け」と念じていないので、全身汗まみれだ。この時代のシャツは吸水力が悪く、流れ落ちる汗でパンツまでもベトベトになっている。    小…

  18. でぶでよろよろの太陽(8章 の2) でぶでよろよろの太陽 / 小説

    • 勒野宇流
    • 6年前
    • 1,690文字

       (8章の2)      こんなにも感覚や意識がしっかりしている世界が夢だというなら、もしかしたら、現実の世界だって夢なのではないだろうか。わたしは自分の末に、一縷の希望を持った。このあと間…