ロックスターの牛乳、写真家の散財、人々の怒り

メタメタな時代の曖昧な私の文学(第13話)

高橋文樹

エセー

6,365文字

最近、ある作品がその質とは別のところで批判される例がいくつかあった。ミュージシャンであるU2と、写真家大橋仁である。彼らの言い分や作品の質については論じない。ただ一つ、重要なことは、彼らが自分たちの思いもよらないところで裁かれたという点について、インターネット上で創作活動を行う人間が知っていなければならないことについて、私は語ろう。

私はよく、七つの大罪の一つ、憤怒イラへと思いを馳せる。私がこれまでの人生で出会ってきた数々の怒りの正体についてである。私はなぜあのときあんなに怒ったのだろうか。なぜあの人は私のことをあんなに怒ったのだろうか。怒りの多くには原因がある。私が無神経だった場合もあれば、あの人が私に単なる八つ当たりをしただけの場合もあるだろう。それによって怒りの正当性を問うことはできるのかもしれないが、もし怒りという罪に対する徳を挙げるとすれば、それは一言「ケシテイカラズ」である。

聖なる人間は怒らない。少なくとも、自分のためには。それはつまり、怒りというものが私やあなたのように特に尊くもない人間が当たり前のように抱えている悪徳であるということであり、その怒り自体にいいも悪いもないのだ。もし正解があるとすれば、それは「怒らない」しかない。

いまから私が語るのは、人々の悪徳、憤怒に関する考察である。

富士山、ビートルズ、雀荘

今年の夏、私は友人と二人で富士山に登った。御殿場口からの最長ルートを歩き、辿り着いた八合目の小屋で身体を休めた。6時間弱というコースタイムを山小屋の人々に褒められたこともあって、ペットボトルに入ったバーボンを少しずつ飲みながら、未明の出発に向けてそれなりに楽しく過ごしていた。

と、友人がとつぜん「ビートルズなんとかなんないかな。むかつく」とつぶやいた。私は少し驚いた。その山小屋では小さな音量で音楽が流れていた。たしかに、ずっとビートルズが流れていたかもしれない。山小屋に来る様々な年齢層——それも、とりわけ中高年が多い—— を考えると、なるほど無難な選曲ではある。水のペットボトルに500円の値をつけ、見ず知らずの人と30cmも離れずに寝る山小屋という環境では、CDが数枚しか選べないということもありうるだろうし、それが結果的にビートルズだったとしても、まあそうだろうな、という程度のことだ。それが許せないという友人のことを私は驚いた。

この会話の後、彼が眠り、静かな時間が訪れたとき、私は十数年前に訪れた西千葉での雀荘を思い出した。そこでは有線が流れており、当時流行っていた奥田民生の曲などが流れていた。私たちは『マシマロ』という曲が流れるたび、その歌詞をもじって「振り込んでも気にしない♪」や「満貫でも気にしない♪」などと楽しく過ごしていた。「役満でも気にしない♪」「いや、それは気にしろよ」などと。私が大学生だった頃だ。

夜中の2時ぐらいだっただろうか、同じく徹マンに挑んでいただろう隣の卓の青年が、「すいません、チャンネル変えてもらえますか?」と店員に頼んだ。ほとんど眠りこけていた店員のおばさんは、「どうすればいいですか」と聞き返した。青年は洋楽にしてくれ、と頼んだ。少し雀荘の時間が止まった。「こんなダサい曲聞いてられないよ」と青年は呟いた。その声はもちろん私たちの卓にも届いた。ご機嫌に歌いながら牌を切っていた私たちは、少し落ち込んだ。

とはいえ、彼にも理由があるのかもしれなかった。たとえば、洋楽以外を聞くと死ぬほど殴ってくるミュージシャン崩れの父親に育てられたとか。

いや、理由などなんでもいい。おそらく、雀荘の青年や富士山に登った友人は音楽が好きなのだ。少なくとも、私よりは。だから、怒るのだ。私のiTuneライブラリは70GBあるのだが、その多くはどうでもよい曲だ。その中で本当に好きな曲はそれほど多くない。いって数百曲だろう。それでも私は選曲してiPhoneに音楽を入れ直す面倒臭さから、選ぶことを放棄した。たとえくだらない曲が流れようと、それは私の選択なのだ。しかし、音楽を愛する彼らにとって、自分のチャンネルに彼らの好きではない曲が流れることは許し難いのだ。

2014年12月29日公開

作品集『メタメタな時代の曖昧な私の文学』第13話 (全22話)

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© 2014 高橋文樹

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"ロックスターの牛乳、写真家の散財、人々の怒り"へのコメント 8

  • ゲスト | 2014-12-29 11:05

    <違う。批判者達が怒るのは、大橋氏の写真が彼らのタイムラインを汚したからだ。>

    たとえばもし誰かが人を殺して、その写真を上げて、それを見た人たちが怒ったら、その人たちはTLを汚されたから怒っているわけだ? 偉大なる高橋文樹様のお考えでは?w

    <あなたはただ許せなかったのだ。自分のタイムラインに男女のセックスを断りなく表示されたことが。>

    それってあんたみたいな「ネット気違い」限定の考えだと思うけど?w

    <いずれにせよ、それらの写真は私に十分なインパクトをもたらした。盗撮めいた手法についても、私は特に批判しない。それによって彼が犯罪者として捕まろうと、無辜の売春婦をいたずらに明るみへと引き出す暴力的な人間だろうと、ただやったことへの責任を取ればいいだけだ。>

    その売春婦に向かって同じ科白吐いてみたら?
    というかもし仮にそれが自分の娘だったら、あんたはやっぱり同じ科白吐くわけ?w

    (関係ないけど日本人てタイとかドイツとか親日の国々に対して
    どうしてわざわざそういうことばっかするんだろうね? 頭腐ってるのかな?)

    あとボノ様ね。
    <Q「アルバムを人のプレイリストに勝手にダウンロードさせるiTunesリリースは二度としないでもらえますか。図々しいです」

    ギタリストのThe Edgeことデヴィッド・エヴァンスが(この質問が来たか、と)ブッと吹き出す一方で、ボノの回答は、うーんと言葉に詰まりながらも、カメラを向けられると「…… Oops. Sorry about that.」(やっちゃった。すみませんでした)。続いて、やや言葉を選びつつ、(すべてのiTunes Storeユーザーのライブラリに直接届ける企画は) すばらしいアイデアだと思い、夢中になってしまった。アーティストにはそういう傾向がある。

    (無料配信を実施した理由は、数億人に届くという) 誇大妄想狂が少し、気前良さのつもりもちょっと、自己顕示もわずかにあったが、自分らが過去数年の人生を費やしたアルバムが聴かれないままになってしまうのでは、という深い恐れがあった。世間には雑音が多いから。だが、今回はわれわれのほうがその雑音になってしまったみたいだ。

    「touch of generosity」、ちょっとした親切や気前の良さの点については、リリース当初からボノ本人も明言しているようにU2にとっては無償ではなく、アップルからプロモーション企画について支払いを得ています。契約内容は非公開ながら、エンターテインメント業界紙 billboard が伝える複数のソースによれば、iTunes限定無料配信を含むキャンペーン全体で約1億ドル。

    配られた母数が iTunes Storeの全ユーザー約5億アカウントと桁違いに大きいだけあって、上記のような苦情も割合はともかく絶対数が多く、当のボノが謝罪するまでの騒ぎにはなりましたが、配信直後からU2の既存アルバムやシングルが各国で軒並みランキング入りするなど、プロモーションの効果はU2にとってもアップルにとっても大きかったようです。(http://japanese.engadget.com/2014/10/15/u2-itunes/)>

    同情する要素ゼロだと思うんだけど?w
    ちなみに個人的には有難く拝聴させて頂きましたけどねU2。

    最後にもう一度言うけど、<あなたはただ許せなかったのだ。自分のタイムラインに男女のセックスを断りなく表示されたことが。>、そんな考えをするのはあんたみたいな「ネット気違い」だけ。

  • ゲスト | 2014-12-29 11:33

    さっとさとコメント承認したら? ビッグブラザーさん?w
    というかそもそも承認制にする必要あるのかな? つまり都合の悪いコメントを黙殺するため以外に妥当な理由があるのかな、ということだけれど。

    • 編集長 | 2014-12-30 01:25

      コメントを承認制にしているのは、以前個人情報を勝手に暴露する悪意の第三者がいたことがあって(僕に向けられたものではなかったのですが)、それ以来ですね。それが「都合の悪いコメントを黙殺」であると言われたら反論しようもございません。

      著者
  • ゲスト | 2014-12-29 15:21

    何か言われるのが嫌なら、お仲間から褒めそやされたいだけなら、自分で書いて自分で読んで、部屋でオナニーしてなさいよ。

  • ゲスト | 2015-07-15 23:04

    失礼。このコメントは承認しないで読むだけにして頂けると助かります。

    わざわざ攻撃しに来る人(言い換えれば、マメにチェックしている〝コア〟なファン)への対処は何とも難しいですが、誠実に公開&レスするのも、少し考えなきゃいけないのかなとコメント欄を見て思わされました。

    本記事を読んで腹に落ちるものがあれば、私は付いているコメントまで読みます。
    他の方の意見や感想を「あわよくば知りたいから」です。
    でも、そこで「コメントと言うより、ただの攻撃。ただの暴言」があると、ちょっぴり気分が落ちてしまうのです。
    エスカレートさせないためにも公開等の対処はすべきだと思うので、自分で言っておきながら「なんて記事内容に沿った葛藤なんだ!」とも同時に考えて笑ってしまいました。

    第三者が口を挟んでも、所詮「火に油」でしかないので、このコメントは非公開のままでお願いします。
    もちろん、削除しても構いませんので――それでは。

    • 編集長 | 2015-07-16 00:36

      すいません、破滅派のコメントシステムは「まだ一度もコメントをしたことがない人」のコメントだけが承認待ちになります。なので、他の投稿でコメントをしている東方さんのコメントはすぐに公開されます。

      そもそも投稿へのコメントが他の人に読まれないものであるとか、コメントは必ず検閲を受けるものであるとか、そういうことはありません。

      したがって、東方さんのコメントは七光りちゃんがなんどもこのページを見ている場合は目に入ってしまいます。

      匿名でなんらかのメッセージをやりとりする機能をつけようとは思っていますが、まだそこまで手が回らず。なんかすみません。

      著者
      • ゲスト | 2015-07-16 22:03

        了解です。
        普通に投稿されてしまったので、削除するか否か少しだけ迷いましたが、まぁいいかなと。
        ……実際は消せないようですが。

        私だって物書きの端くれ。
        「見られて困るくらいなら、そも書くべきでないのだ」と思ってますから、こうなれば残置で構いませぬ。
        大変失礼いたしました。

        【追伸】
        匿名でのやりとりも良いですが、今回みたいな場合に「ひとまず著者にだけ見せる」チェックボックスでもあれば便利なのかなと思いました。
        その後で、コメントを公開するかどうかは著者判断でOKとか。

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