海底菩薩

小林TKG

小説

2,470文字

海がテーマだから、こういうのも考えていたよ③。タイトル先行型。

潮のが流れによるものなのか、地形によるものなのか、何なのかわからないがとにかく堤防から海に落ちた後、気が付いたら洞窟、洞穴の様なところにいた。上半身を岩場の岸に乗せて下半身は未だに穴の中。穴の中には海水が満ち満ちている。故に下半身にだけ海水の流れを感じた。

 

「うええええ」

意識を取り戻したらすぐに鼻腔内に刺すような痛みが発生して、それと連動するように胃がぎゅうっとこぶし大になったような感じがあって、自分の意志とは関係なく口から水が滅多矢鱈に潮流となって出てきた。

「げええええ」

吐き戻す苦しみで涙も出た。胃液の混ざった海水が次から次に口腔から出た。口だけではなく鼻からも。蛇口が壊れた水道の様に。水道局が元栓を締めなくては止まらないんじゃないかと思えた。たまにある。道路が割れて裂け目から水があふれ出てくる奴。あれを想像した。自分がそうなったのかと恐怖した。

 

永遠にこのままかと思うほど、散々、意志とは関係なく好き勝手に吐き戻すとようやくそれが落ち着き、しかしそれでもしばらくそのままの状態でいた。まだ周りに気を配るとか、周りを伺うとかそういう余裕が無い。無かった。散々に吐き戻した後だ。高設定ジャグラーに貯留しているメダルを吐き戻したように出した。

 

海に落ちて、死ぬかと思って、もう死ぬんだろうなと思って。やがて考えることも出来なくなって。口から鼻から水が入ってきて、胃と言わず肺もなんもかんも水で満たされるような気がして、天井を探して。訳が分からなくなって。いつの間にか刈り取られるように意識が途切れて、気が付いたら、洞窟のような、洞穴のようなところにいる。居た。

 

死後の世界かと思ったが、そうでもないような気がする。

 

そこまで考えたのち、とりあえず水に浸かったままの下半身を陸にあげた。力が残っておらず膝とかがガンガン岩の突起にぶつかったりしたが、あまり気にならなかった。痛みも感じない。まだその辺のセンサーがつぶれたままなんだろうな。それからはうつぶせの状態のまま短く寝るみたいな、寝たり起きたりを繰り返すみたいに何度か意識が無くなったり、はっと恐怖で起きたりを繰り返した。耳朶に自分が入ってきた穴の岩壁に触れる波の音がする。自分を溺れさせようとしてきた海の水。海水。波の音。しかし反面それがゆりかごの様に意識を奪ってくる。そして意識を失う度、それに溺れた、殺されかけた恐怖心が降ってくる。サンタが殺しにやってくるみたいに。その辺のセンサーは機能してるらしい。不思議なことだと思った。

 

そして何度も何度もそこで意識の行ったり来たりを繰り返した後、光源が無いはずの洞窟がなぜうすぼんやりとでも見えるのか、視界がきくのかというのが気になりだした。

 

その洞窟、ちょっとした講堂の様な大きさのその場所、洞穴。どこかにつながってるような感じはない。しない。その奥に、どんつきにある何かが光っているのだった。

 

その場で慎重に立ち上がり、下半身ががくがくして立つことだけでも一苦労だったが、とにかく立ち上がり、ゆっくりと奥まで進んだ。どんつきまで。

 

「仏様」

そこには不釣り合いなほど、立派な御仏の像。仏像。釈迦如来。如来像。菩薩様がおられました。

 

その御仏様の仏像が、鈍く、金色の御色を、御光を放っているのでした。

 

なんと立派な仏様。

 

どうしてこんなところに?

 

いや、今はそれよりも。

 

その場に膝をつき、己が手のひらを合わせ、擦り合わせ、御仏様に祈りました。

 

どうかお帰しください。私の事を地上にお帰しください。

 

目をつむり、一心不乱に祈りました。

 

しかし、目を開けてもそこにいる。相変わらずそこに。洞穴の中。薄暗い洞窟の中。

 

そんなにうまい話があるわけないか。

 

故に次は代わりに、

 

仏様、御命を助けてくださってありがとうございます。

 

そう祈りました。

 

すると洞窟の中が少し明るくなったような気がしました。仏様の光が増したような。いや増したのです。実際に。祈りによって仏様のくださる光が増したのです。

 

仏様の御尊顔についた汚れを自分の服で拭い綺麗に致しました。させていただきました。

 

すると自分が入ってきた海水穴の側から音が聞こえました。

 

近づいてみると、魚が三匹、そこで、岩場に打ち上げられて跳ねていました。

 

どうかお帰し下さい。

 

それを祈ると、洞窟内が暗くなりました。仏様の光が弱まるのです。

 

ありがとうございます。

 

そう祈ると洞窟内はにわかに明るくなり、更に魚が、食べ物が洞穴の中にもたらされ、更に祈ると、生きた女が穴から自分と同じように打ち上げられました。

 

女を犯そうと跳びかかると、必死の形相で抵抗にあいました。

 

その時、声が、心の中、頭の中、に声がもたらされました。

 

「殴れ」

優しくもしっかりと通った御声でした。

 

今まで生きてきて誰かを殴ったことなどありません。親指を中に入れるのかどうかもわかりません。しかし、手のひらをぎゅうっと握り、固くして、それで女を殴りつけると、一発で静かになりました。

 

「ありがとうございます」

仏様に祈りを捧げ、女の濡れたまんこに自らのちんぽを入れました。女は鼻血を出しながら泣いていましたが、もう抵抗などはしてきませんでした。

 

それからはもうずっと。ずっと。

 

真水が無い事も女と自分とでお互いに汗を舐め合う事で解消できました。尿を飲みあう事も出来ます。

 

あともうすぐこの洞窟内に新しい家族が増えます。

 

ですから今は毎日、ボテ腹になった女の腹を撫でながら仏様に無事に生まれますようにと祈っているのです。

 

 

2021年7月30日公開

© 2021 小林TKG

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