十六年前

山谷感人

小説

962文字

即興コロナ問題へのショートショート。

八歳になった息子の時春が、素朴に私に聞いて来た。「パパ。僕が生まれる前は、マスクをしなくても外に出れたって本当なの?」真夏。時春の学校は最早、ない。昨年、世界が学校制度を止めたからだ。十六年前から蔓延したウィルスの所為。無論、私も八年前から無職。今は新型ウィルス生活保護と云うのを国から支給され、それでどうにか暮らしている。
「そうだよ。昔はね、マスクなんかなくてもよかったんだよ。ほら、窓から見えるだろ? 公園ってモノが有ってね。昔、一緒に散歩した事あるよね。いやあパパも、お仕事って……。判るかな? していた時……」 「識っているよ! 公園! 朝に行って、そこでマスクのオハナシをしたから!」と、時春は叫んだ。いや、現在、選ばれて労務をしている人間以外は、許可証がないと外に安易に出ては、いけない。ああ、しまった。昨夜、国から配給されたウオッカを呑み過ぎて昼間まで寝ていたからだ。泥酔していた朝、時春は勝手に公園へ行った。ちょうどテレヴィジョンは「国がウオッカを渡しているのは、無能な人間に早く他界して貰う為だ。」とキャスターは叫んでいた。何を、至極当然な事を……、いや待て時春。
「時ちゃん」
「なあに、パパ?」
「マスク、マスクねえ。つけなくても良い時代は確かにあったのよ」
「だから、識っているって! 公園で聞いたモン!」
「……パパと公園に行くぞ」
「え? 本当にイッエイ!」
私達は、家庭科で義務づけされている、フェイスガードを外した。それから堂々と外出した。「通報しますよ!」と何度か、特に老婆から怒鳴られたが無視して歩いた。てくてく、てくてく。三分くらいの距離だったけれども。
公園に着いた。私は時春に、聞いた。
「朝、パパがウオッカで寝ていた時、誰と遊んでマスクのハナシをしたの?」と訪ねた。時ちゃんは瞬時に「女の人!」と微笑んだ。
「何処?」
「ここだよ、パパ!」
右奥にある箇所に連れられた。そこは以前、花壇が有った場所だ。そうして今はコンクリートで固まっている箇所だ。
「ウオッカ……、ないかな」私は云った。時ちゃんは「ここでね、女の子が絶対、マスクしなきゃ! と言ったんだよ」と語る。
「そこはね、時ちゃん。以前、マスクをしなかった、ママ達が……、いや、もういいや。今日は補導されるギリギリまで遊ぼう。久しぶりだね」
僕等は、素っ裸に、なった。

2020年8月1日公開

© 2020 山谷感人

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