カット・ザ・ワッフル

山谷感人

エセー

1,578文字

rip エディ・ヴァンヘイレン。

昨夜。凄く魘されたが痛快な夢を見た。
後ろからストラトキャスターを八千何百本くらい持っているロックスターのかぶきもの、から殴られた。そうして左手は背中に隠し、アグリー・キッド・ジョーのファーストアルバムのジャケットの模倣か、ビアを隠し持っていた。
十数年前。その時、同居していた友人と「とにかく、面白いヤツを探そう」となりmixiと云うネットワークに参加した。その友人も僕も往時、世捨て人を気取り、ジャンルは異なれど傍目にはブッ飛んでいる自意識を持つ存在で有ったから、そう々々、奇人とは出逢えなかった。生きる意味、恋愛問題に悩み精神的に病気です……、みたいな方と交流し失礼ながら「こんなモンだよ」と諦念を感じていた。そんな中、いきなり「ロック、ロック、こんばんわ。ヴィーン!」とした返信が来て、何の冷やかしかよ? と思ったのが彼とのファースト・タッチであった。
それから遣り取りをするようになり、自身と洋楽の趣味が合っていたから直接に電話番号を聞いて、話すようになった。とにかく、会話の内容は狂っていた。良い意味で。そうして言葉のセンス、ユーモアがずば抜けている人だなあ、と感じた。ちょうど、同居していた友人がWeb文芸誌を立ち上げる、と動いていたから彼にエッセイでも書いて貰おうと提案した。「是非。いいね」となり彼に電話した。その時の事を思い出す。
「~と云う訳で、何か書いてよ」
「ふんふん。ロック的なヤツでいい?」
「勿論。はじけてよ」
「……どのくらい、やっちゃていい?」
「AC/DCの例の、ギネスブックにも載った騒音ライヴくらいで」
「いいよ、了解。カット・ザ・ワッフル」
結論から云うと、僕が彼と会話したのは、これが最後になった。いま思えば「疲れるなぁ……」などの台詞を引き出せれば良かった、しかない。
作品をアップして呉れて、僕が「イイね! ブッ飛んでいるよ。ブラックサバスを初めて聴いたくらいの衝撃だ」と、ロックネタで称賛しようとしたが、彼は電話に出なかった。やがて彼の携帯番号は解約されていて、ネット世界からも姿を消した。その時は何故なのか判らなかった。やがて感情は憤怒に変わった。所謂「僕が発掘した宝石なのに。逃げやがった」
それから暫くして、僕の携帯電話に無言電話が頻繁に鳴った。法を犯した事はないが、ドヤ街のルンペン連中と呑み歩く日々を過ごしていて、その中で常識的な他人との口論等で「お前を決して認めない」など疲れるくらい、お叱りを受けてた故、最初は流していた。ネットワークのmixiにも自己紹介スペースに自身の電話番号を記載していたし、やむを得ないと考えていた。
無言電話の主が「ロック、ロック、こんばんわ。ヴィーン!」の彼だとは途中で気付いた。何故なら携帯電話、受話器の向こう側からヴァンヘイレンの曲が耳に届いたからだ。だが然し、僕は「誰だよ?」と叫び続けた。また彼と、つるみたかったから。事実としては一年くらい無言電話は続き、僕が東京を引き払う折、パタリと終わった。
僕は「ロック、ロック、こんばんわ。ヴィーン!」の文章が好きだった。だが然し、僕が彼の才能を余計に「世に出したいなあ」と自身、底辺なのに動いた為、彼は「カット・ザ・ワッフル」になったのだろう。誰しもが、有名になりたい訳じゃない。
「ロック、ロック、こんばんわ。ヴィーン!」と、しがない、電話をしていた往時、好きなギタリストに就いて語り合った。僕はサザンロック好きだから無論、ディエン・オールマンと述べたのを憶えている。彼は「エディ・ヴァンヘイレン」と云った。僕が「え? 大スターじゃん。ベタだなあ」の吐き言葉に対し「カット・ザ・ワッフルじゃない音色、だよ」

僕は、のうのうと生きている。だが然し、無言電話が最早、夢でしか鳴らないのは辛い。
rip エドワード・ヴァンヘイレン。
とにかく、泥酔している。

2020年10月11日公開

© 2020 山谷感人

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"カット・ザ・ワッフル"へのコメント 2

  • 投稿者 | 2020-10-26 15:22

    この辺に造詣が深くないのであれなんですけど、ただでも、一つだけ言わせていただきたいのは、いいなあこういうの!っていう事です。こういう文っていうか。こういう連なりのものが書けたら色があっていいなって。ほんと、こういうのいいなあ!って思います。思いました。

    • 投稿者 | 2020-10-26 16:47

      コメント、サンクス。
      事実を書いただけの下らないエッセーでしかないけど。
      それより小林さんの作品、面白いなぁと読んでいるから、どんどん破滅派に投稿して呉れたら、嬉しいな。

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