常夜灯の向こう側

山谷感人

エセー

752文字

そこに、愛する猫がいるのさ。

或る事情から二日間くらいネットカフェに籠っている訳であるが、店員に「ビアを追加で……」と述べたら「お客様。当店のビアは、貴方が飲み尽くして最早、ありません」なるイーグルスのホテルカリフォルニアを越える、フレーズを伝えられた故、じゃあコンビニエンスストアにビアを買いに行くわ……で久々に外の空気を吸った。無論、ネットカフェ店員とは、一悶着あったけれども、持ち込みOKの外出、お散歩とのハナシに持ち込んだ。
明け方の、夜明け前の、凛とした匂いを感じながら深呼吸を、する。陳腐に素晴らしいと云う、ありきたりなフレーズが降りてくる。心地よいぜ、酸素が。
だが然し、それに浸っている時間は僕には、ない。ネットカフェの店員、怒っているから! コンビニエンスストアに急げ。ボブディランのライク・ア・ローリングストーン? の世界である。
最寄りのコンビニエンスストアは、僕が住んでいる雑居ビルの真横である。当然、そこに向かう。ビアを八本、購入して懇意にしているネパール人アルバイトにチープトークをされる。「まあ、でも今はミャンマーが大変だよね、ナマステ!」「ハハハ! ナマステ~!」愚にもつかない会話をし、店を出る。
そのコンビニエンスストアと、雑居ビルの間には、常夜灯がある。時間にしたらキッチリ三分、僕はそれを眺めていた。右に行けば愛する猫もいる世界。左に行けば困難だけれども自由な世界。選択は簡単であった。「猫よ、愛して愛してやまない猫よ。暫く待っていて、おくれ。必ず迎えに、行く。だが今はルンペンの巣窟でもあるネットカフェに戻る。左に行く。判って、呉れ」灯りが入ってない常夜灯の右から「ニャン。これ以上、語るな。了解しているから」とした鳴き声が、確かに僕には、聞こえたようで。ダッシュでひとまず、ネットカフェに行く。
アデュー。

2021年5月29日公開

© 2021 山谷感人

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