サヨウナラ、山谷先生。

山谷感人

エセー

1,662文字

僕が他界するのでは、ない。ルーツがなくなるので、ある。山谷のヤドで即興で書く。

疎開地から飛行機に乗り、その時は最早、ベロンベロンだったのだが、女性乗務員から「お客様の席は、非常口横な故、万一の場合は御協力をば」と云われ、え? 俺に云うか? と思ったのだが、偽善者でもある私は「オフコース!」と、気持ちが良い発音をして、サムズアップをした。

やがて、私が人助けをした、なる劇的な事もなく、羽田に着いた。そうして、浅草行きのバスを探した。

車内は、混雑していた。東京スカイツリーの影響なのだろう。私が六年前、浅草界隈を主戦場として、闊歩していた頃は、そんなモノなかった。所謂、貧民であり、貧民窟を愛する私は、まずもって、そこで躊躇した。

高速バスの添乗員は、張りのある声で『隅田川』を唄い始めた。なんの茶番か、と私は、呑んでいたビアを、溢してしまった。

道程。三十分くらい遅れ、バスは浅草ビューホテル前に停まった。私は、一人の呑み仲間と合流し、夜の街に繰り出した。そこでの、かぶきもの的なハナシは、原稿用紙にすれば八千枚は越えてしまう故、即興エセーにならないので泣く泣く止めておく。

ベロンベロンが一周して、マトモな意見を吐いたり、呂律が廻らなくなって、明日と云うフレーズも、上手く言えなくなっての帰路。

予約していた山谷のヤドにタクシーを拾い向かう中、私は運ちゃんに「出身は、東北かい?」と述べた。運ちゃんはニコリともせず「埼玉です」と返してきた。私は、そこは合わせて、嘘で良い、東北です、リンゴが大好きです、と語るべきだと思った。所謂、情緒。六年前、私が識っている界隈、山谷は、そうしたユーモアがあった筈だ、タクシーの運ちゃんでも、と考えた。やがて「ここで良いですか?」と聞かれ、そうした思考に耽っていた私は、安易に「うむ」と、応じた。降りた瞬間、場所が違うリアルティに気付いたが、運ちゃんは消えて行った。ファンタジーの欠片も、なかった。

そこは、予約して、六年前に懇意にして、住んでもいたヤドへ、半里ほどの距離があった。

無論、最早、千鳥足の私にはロング・アンド・ワイディングロード、だった。どれだけ酔っていても、かぶきものを演じる私は、ポールマッカートニーの唄を吼え、歩いた。考えた。歩きながら考える、とは、馬鹿らしいと感じたながら。 然し、フラッフラな身体はついて来れず、路上に倒れた。 要は、ルンペンの出来上がりである。

倒れても、頭は冴えている故、私は周囲を観察した。六年前、この界隈で、塵芥のように存在していた、同胞は、同胞が、見当たらない。

それだけではなく、まず、人が歩いてない。時刻は午前四時。いや、ドヤ街とは、この時間がメインである。ドロボウ市は、どうした?

往時は、私のような路上に倒れた弱者を狙い、財布を漁ろうとするプロもいたモノで、此方も慣れているから「駄目だよ、起きているし」と台詞を吐いたら「こちとら、江戸っ子で手が早くてね。悪かったね」なるユーモアを働く輩もやってこない。

路上を挟んだ向こう側を見遣ると、二十四時間営業の、カフェがあった。そう、客席から、外が眺める造りの。若い女性が、私を観ていた。その時の気持ちは最早、ここで書かなくても判るで、あろう。

どうにか立ち上がり、あのヤドに着くまでは、あのヤド、私の追憶の部屋。素敵な仲間がいたトコロと一歩一歩進み、漸く、そこへ着いた。然し、そこの玄関には、「昨年以来、女性客やビジネスマンの利用が多く、門限を設けております」の文言があった。

力尽きた私は、その前でうつ伏せになった、本当に。

午前八時くらいにヤドのスタッフに起こされ、私は、今、起床した。そうしてこの雑文を殴り書きしながら考える事は、サヨウナラ山谷、である。別れた女性を、出来るだけ悪く言いたくないように、これ以外、新しい姿は要らない。この界隈とも、潮時の時間である。

まあ、そのヤドの窓からビアを呑みつつ、東京スカイツリーを味わっている私でめある故、真意は判らぬ。

 

いつものように、推敲もせず、即興で書いたエセーな故、誤字や文章のスタイルに着いてのクレームは、受けない。アディオス。

2017年1月25日公開

© 2017 山谷感人

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