詩「デスネー鼠」

藁食む兎(第7話)

多宇加世

921文字

ハムスターだとかスナネズミだとかデスネー鼠だとか、自分はあの形態の生き物の奴隷で、昔からこんな詩を書くのではないのかと思う。

川に架かった鉄橋の先は緩やかにカーブしていて列車は駅に帰るたびブレーキの軋みをこの部屋まで届けてくる。川に沿って届けてくれるのは音だけで、車内の暖房シートや、濡れたコートや男女の整髪剤の匂いは届けない。今の季節、橋は凍り、風はさらに冷やされ、そのかわりにこの部屋の中は、あたたかい。でももうじき灯油がなくなるデスネー。そうだ、そこに潜ってデスネー鼠の話をしよう、私のベッドだよ。デスネー鼠は、彼は(彼女でなく彼なんだ)、この世で一番強い酒をかけて火をつけて炭にしなければ死なない。濡れ鼠から焦げ鼠。デスネー鼠に本棚を齧られてごらん。なぜ人は彼を退治をしなければならないのか。それは彼に本棚を齧られると、とある衝動に駆られて狂ってしまうからなんだ。三段階。まずデスネー鼠は本棚を見つけて標的にするとそのどこかに射精する。それは普通の人なら匂いで分かる。メロンソーダの上に乗って溶けかかったアイスの匂いだ。射精することから「彼」だと分かるよね。そのタイミングでそれを拭き取れば間に合う。彼はマーキングの後を見つけられずどこかへ。だがそれを逃せば第二段階、本棚の一部を齧る。それは分かりやすい所かもしれない。それに気づければいい。ゴミの日に向けてバラバラにノコギリで解体すれば。早い話、最終的にどうなるかというと、デスネー鼠にやられると誰もいない虚空に話し始めることになる。冬。電車のブレーキ音を聞くと。いや、みんながそうじゃない。私の場合のきっかけはそれだった。私の場合は電車のブレーキ音だった。そして冬だった。きっかけはその人によってなんだか分からないという。アルコール依存症の「作話」という症状にも似てるという。デスネー鼠もこの世で一番強い酒で殺せる。きっかけはもうどうしようもないともいうし、何も起きず一生を終えることもあるという。とにかく、きっかけがあると、その人は、こんなふうに泣きながらでも、誰も傷つけず静かにだとしても、架空の誰かを抱きしめながら、ベッドで話し始めるというよ。その話が誰かの輪郭をなぞり始めるのだけど、それがかたどられて実体化する頃、デスネー鼠はそれを端から食べていくというよ。ほらチューイ、チューイ。ほらチューイ。

2021年3月1日公開

作品集『藁食む兎』第7話 (全9話)

© 2021 多宇加世

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