「僕に任せて。必ず迎えに行くからね」黒色インクと白色インクの含有率を調整して、作家は文章を書き始めた。作家はあるたった一人以外のすべての人物のために、あるたった一人の、と呼べる人物の物語を書き始めた。それはあらゆる季節のなかでも一番もぐら穴の多い日の、とある公園が舞台だった。ある人物は、きちがいだった。きちがいは週に二度しか食事を取らなかった。二日じゃない、二度だ。ヘルパーの来る月曜と木曜の昼。ヘルパーはたくさんたくさん保存のきく料理を作ってくれたが、きちがいは腐る強迫観念に駆られて、彼が(ヘルパーの性別は男性だった。ただしおかまだった)帰ると週に二度の食事をその都度すぐに皆食べた。もぐらは――もぐらのことを書く時、作家は黒色と白色の含有率を変えてもぐら色にした――もぐらはそんなきちがいを知っていた。もぐらたちはきちがいが公園のベンチに座ると隣に山となって集まった。三十匹はいただろうか。もぐらは言った「僕らに任せて。必ず迎えに来るからね」もぐらは地下に巨大な穴を掘っていた。ミミズを貯蔵していた。きちがいをいずれ招待して、死ぬまで面倒を見ようと思っていた。きちがいが死んだら肉と骨と内臓を別けて自然に返して弔うつもりだった。いつまでも、いつまでももぐらはきちがいを愛すだろう。面倒を見るだろう。のびたら爪を少しずつ齧ってやるだろう。作家はここまで書いて、少し悩んでからこう結んだ。きちがいはもぐらを胸から取り出したハンマーで一匹ずつ潰していった。時に二匹ずつ潰していった。最後のもぐらが潰される時、彼――最後のもぐらも男でおかまだった――は言った「それでも迎えに来るからね。あなたが」もぐらは潰された。きちがいはベンチに座り続けた。脇にはもぐらの死骸の山。彼女は――きちがいは女だった。おなべではなかった――この街を愛していた! もぐらのことだけは愛していなかった、それだけのことだった。作家はここまで書くと黒色インクと白色インクの含有率を調整し、白インク一色で一から文字を消し始めていった。そして作家の姿も端からじょじょに消え始める。皆消える。そして作家ときちがいともぐらは何もない公園で出会える
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