しがいいがいつがい

多宇加世

1,617文字

第4回笹井宏之賞落選作です。

大学のある盆地出て駐屯地前通り過ぎ故郷へ帰る

 

孤立するために捨てたるドアノブの落札通知iPhoneは鳴り

 

一度そうなってしまうと死ぬんだね手紙に書いたそのあと消した

 

食いしばるプリンシパルは未経験 自慰で達する 雪かきの音

 

捕虜たちに給餌をしろと頼むなら私がなにか混ぜぬか見てろ

 

雨どいの中に巣作る小鳥かな私の赤子流れちゃってた

 

鶴を折る気怠いさなか泣く君の乳首の硬さ姉と同じだ

 

片手上げ夜中に誰か渡る川あれが父ではないかと見逃す

 

犬の毛を乾かす往路出会う人 復路に家を通り過ぎキス

 

洋梨を廃墟で拾う不気味さは視線伴う 我が家に来ても

 

洋梨の肩のあたりに火傷痕私にもある家においでよ

 

前線で迎えたエンドロール後の薄明かりぶん見えない身体

 

この缶が火傷の皮の蔵うばしょ土に還してなるものか 我

 

我だけが想う解放戦線はつまり我だけ救わると知る

 

長すぎる線引いていて心配だ二度目は威嚇だけで済まない

 

見晴るかす、花投げた空。灰色の。石膏のそれ、粉々撃たれ。

 

我が洞に何も言わずも集光す我が分身の夜光虫たち

 

未来とは此れ見よがしに搾取する物だからこそ私はいらぬ

 

困るのは蛍光ペンが強調す世界が我を無視せぬことだ

 

亡き冬よ最後の灯油買いに出る私以上の無邪気さは何

 

夜の窓我が身を写す不安感皆は電車で慣らしているの?

 

二等辺三角形の定規落ちああきっとまた誰か生まれた

 

春よ尾が椅子で踏まれているのかい顳顬にあて撃たれてしまうよ

 

晩冬に焼く脊椎の三十個まったく春まで一個足りない

 

我が部屋は箱舟らしい今日もまたつがいの私の死骸出たから

 

循環す名付けようとは思わない小さき球に満ち満ちる水

 

寄港する陸もないのでつがいらのカットかからぬ映画 方舟

 

夜明け前(かあか私よ)トイレかな(かあか私のかあかあなのよ!)

 

笛吹きの開襟シャツを売ってくれ笛の吹かない笛吹きになる

 

母の喜ぶ歌の一つも覚えたら遭難した時さみしかろうに

 

水玉のように見えたが目凝らすとすべてが部屋で私が住んでる

 

広げたらチェーンのように手繋いだ私現る飾り ひとりの

 

ゆらゆらさせて掌の上子供と自転車ついつい倒す遠慮せず泣け

 

大人になった者から部屋を出るように 最後の一人は歌い続けよ

 

どんな家もトラックに内臓剥き出しにされたら同じ深夜のニュースのようだ

 

いち、に、さん、いいですね。母が隣室で何かされてる、そのうち違う母になるのだ

 

白々しい己が寝付きの確かさをこの括弧内どうまとめるか

 

お風呂場の赤い湯の娘は助かるが助けぬくかは考え中だ

 

自由にしたあとで私の後悔が遠浅の夢を見せるので 牢

 

練乳のごとき色したテディベア遠きあの日はかき氷だった

 

誰の声も聞きたくなくてノイキャンをつけてもいいか君に訊いてる

 

夏の朝刻一刻溶ける青見つめ初めて薬飲んだ日

 

昆虫は辱められるためにいる虫眼鏡という責め具によって

 

犬が言う天国はねなかなかにいいところだよ洪水時代我が家にもきた

 

幼少期私のことが好きな子とペアルックになったの未だに親達疑って

 

たたたいの部屋で私は待ってますカ行の言えぬ子供のままで

 

一日のどこかで起こる転調は例えば誤嚥の咳だったりして

 

脱衣所で髪を切ったの知らぬのは去年の私が伏せた写真だ

 

私二人で私のつがい 守るべき母は父とでつがいだからね

 

おくらみやん、おくやらみんと言っていた。お悔やみ欄に載るのはいつか

2021年11月25日公開

© 2021 多宇加世

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