詩『最後通牒としての雪』など6編

詩集『最後通牒としての雪』(第1話)

眞山大知

1,278文字

箱根山にかかる綿雲をぼんやりと眺めながら浮かんできた詩です

  1. 最後通牒としての雪
  2. 高校三年生
  3. 紫陽花
  4. 新宿の目
  5. 溶解する論理
  6. 三保の松原

 

最後通牒としての雪

 

高層ビル群の谷間へ 夜空から静かに雪が降り始めました

街を歩く人達は目が血走っていて 飢えた獣の群れのようでした

手袋へ舞い降りた雪はあまりに小さくて すぐに崩れて虚無へ回帰しました

 

もし誰かがこの世界に向けて最後通牒を差し出すなら

こんな小さい雪に載せてそっと送り出すでしょう

 

 

少なくとも僕ならそうします

 

 

 

 

 

高校三年生

 

夕暮れの教室には

生温く陰湿な湿気が漂う

答案を書く数多の手は

あまりか弱い

将来を握るには

憐れなほどか弱い

 

窓の外は血潮のような紅い空

卒業したら僕たちはこの校舎から

ただ惰性的に ただ惰性的に

果てしなく広い社会へ放り出される

僕たちの存在は

この紅い空のように虚無へ流されていくのだろうか

 

 

 

 

 

紫陽花

 

水無月は

紫陽花が散りゆく

そういう無慈悲な時期である

 

地に墜ちた妖艶な花びらから

生きる者への恨みが漂っている

 

 

 

 

 

新宿の目

 

土曜の夜の新宿駅西口

久しぶりの東京はひどく静かだった

 

『新宿の目』を横切って歩く

奥の書店に入り待ち合わせの時間まで立ち読みをしていた

 

棚にある本のほとんどは生命をかけて書いたとは思えないシロモノで

流行りの単語をただ羅列して小遣い稼ぎをしようという目論見

こんな風にいつか沢山の本を出す立派な人になりたい時期もあった

だけど僕は所詮田舎出のイキったバカタレだった

東京で身を立てて立派な人間になりたいと心の底から本気で思っていた阿呆だった

 

東京から命からがら逃げ帰ったのち発見した法則は

生存競争に勝つためなら人は他人を誑し陥れる

という野蛮な自然淘汰そのものだった

 

そろそろ約束している時間だと気づき 書店の前に出て通路を歩く

スーツ姿の男が横から歩いてきた

 

見た目はおそらく同年代 仕事もできるタチとみた

美しい顔をしていた

しかし その瞳は恐ろしく黒く まっすぐに虚無と繋がっていた

 

人がますます恐ろしくなった 土曜の夜

『新宿の目』だけが輝いていた

 

 

 

溶解する論理

 

論理は燃えて煙になり天頂へ昇る

過去も 現在も 未来も

優しく融解して ひとつになる

 

心象へ浮かぶ愛によって

久遠ヘと飛翔する誘惑にかられる

 

 

 

 

 

三保の松原

 

―太古の昔―

遥か彼方 天空から天女が舞い降りた

天女は松原で舞を踊った

天女は天へ帰っていった

 

―二〇世紀―

遥か彼方 仏蘭西フランスの女が天女の舞へ心をひかれた

女は巴里パリで天女の舞を踊った

二年後 女は天へ昇っていった

 

―現在―

天女が衣を置いた松

女の髪が納められた石碑

松原の空と海は秘密を隠すように黙っている

 

2021年1月10日公開

作品集『詩集『最後通牒としての雪』』第1話 (全2話)

© 2021 眞山大知

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