混詩 「フィヒテの悪夢」

混詩集 (第12話)

応募作品

Juan.B

1,315文字

※合評会2020年11月応募作品
※書きかけてあった未公開詩を、改稿したものが含まれる。

俺は大書店の本棚でいくつかのキーワードを探す

 

足元の土塊に惑わされぬことよ

見知らぬ異邦人の足跡に続くことよ

血とは何かよ

ただ新しい理想よ

 

21世紀にあって19世紀のような書架は答える

バラバラの文化は悪だと

バラバラの言葉は悪だと

バラバラの愛執は悪だと

バラバラの脳髄は悪だと

 

人生に説明書と言うものがあったとしても

混血を説明するページは無い

俺は「その他」のページに希望を持って捲ったが

そこには精神病院の電話番号が書いてあった

 

八割が眠る世界史の授業で

俺ばかりは熱心に教科書を眺め

あるはずもない居場所を探した

無論すでに教科書に売地は無い

 

全てがこう言っている

個人の個人たる足場は今や存在しないと

なあ

 

俺は訳も分からず

この西洋的Nationalismってやつを破壊したい衝動に駆られている

誰が言い出した?

 

俺は不自然な美貌の近代製女神を一人残らず穢してやりたい

あの大仏を眺め並ぶ女神たちに本当の破壊を教えてやりたい

ブリタニアにマリアンヌにゲルマニアにコロンビア

人を争わすだけ争わせ都合の良い時だけ一つになりたがる連中

偽りのノスタルジアで支配する連中

 

鼻メガネをかけた各国の忌々しい大臣や教授たちが揃う議場

その机の下で女神たちは連中のペニスをフェラチオし

ゆらゆら動く足の間で徴兵名簿と国境線を書いてやがった

そして田園風景を称えた側から農夫たちを次々と人殺しに変えていき

勝手に書いた国境線を人々にがなり立てた

 

人々は互いを恐れ始め自分の血を気にし始め終いに混血を憎み始めた

遥か古代から美徳を体現している様な面をしてそのくせ近代の機関銃を撃ちまくる

そんな偽りのノスタルジアの中でヒトたる存在にさらに条件が付け足されて行く

 

そして議場に日本からアマテラスとか言うバカ女がやってきた

「こいつァアジア人にしちゃ悪くないね」

目の隅を引っ張ったブリタニアがヘッと笑い他の女神たちが頷いた

悪くないね!

悪くない!

嬉しいアマテラスもフィヒテに東洋的フェラチオを始めた

精液を顔に塗っても白くはならないのに

 

そして議場にこぼされた誰かの精液のシミと誰かの経血のシミがぶつかった隅から俺は生まれた

元々みっともないオタマジャクシなのはどいつも変わりないのに

俺もお前もかつては親父の睾丸のオタマジャクシであったということにノスタルジアとロマンチックさがないばかりに

 

そしてそれでも自分を誇れるのだと俺は確信も無く唱え続けている

それは折衷ではない

それは妥協ではない

AとBの間で

0と1の間で

右と左の間で

天と地の間で

海と陸の間で

普遍と逸脱の間で

オタマジャクシは蛇行している

 

やがて女神たちの財産も尽きる頃

一つのウイルスが地球を覆った

そして女神たちは再び争い始め

終いには女神の体のあちこちがバラバラに争い始めた

羽はもげ剣は錆び盾は朽ち

終いには大臣の骸骨の周りで女神達は咳込んで動かなくなった

そしてその日あるオタマジャクシ達は地球儀に引いてある線の意味を疑い始めた

 

俺はベンチで日向ぼっこしていた

結局本屋じゃ何も買わなかった

俺が本を書くんだ!

2020年11月16日公開

作品集『混詩集 』最新話 (全12話)

© 2020 Juan.B

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"混詩 「フィヒテの悪夢」"へのコメント 12

  • ゲスト | 2020-11-17 07:00

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  • 投稿者 | 2020-11-18 06:06

    精神病院という単語を久々に見たような気がします。「議場」の描写は圧巻でした。

  • 投稿者 | 2020-11-19 09:02

    下から上がってくるような感じの感情というか。瞬間湯沸かし器的なものではなく、電熱器の様なもの。こう、若いころなんでもなかったと思っていたのに後年それが原因で死ぬみたいな感じの病気的な。そういう感じ。なんかそういう感じ。

  • 投稿者 | 2020-11-19 23:39

    「マイノリティになる覚悟がないなら、創作なんてするべきではない」という覚悟を先日決めたつもりでしたが、既にマイノリティであったが、何か? と突きつけられたようです。
    不思議なもので、Juanさんの作品は卑猥で過度に性的ですが、言い換えれば強く生命的なんですね。だから不毛さをあまり感じることがないのかもしれません。

  • 投稿者 | 2020-11-20 12:00

    ちょっとラップで聴きたいやつだった

  • 投稿者 | 2020-11-20 23:12

    怒りが痛いほど伝わって来る詩です。
    ――人を争わすだけ争わせ都合の良い時だけ一つになりたがる連中
    偽りのノスタルジアで支配する連中――ここは本当に素晴らしいですね。あと、個人的には世界地図に売地がないという言い回しが好きでした。

  • 投稿者 | 2020-11-20 23:47

    国民国家という想像の共同体に対する反発と地位ある女性を凌辱することへのポリティカリー・インコレクトな欲求が二重写しにされる。文フリの準備で忙しかったために執筆にあまり時間を割けなかったという事情以外にこの作品が詩でなければならない必然性をあまり感じられないし、この内容ならば掌編小説のほうがもっと読み応えのある作品になったんじゃないかという気もする。でも、いつものJuan.Bらしくて安定している。

  • 投稿者 | 2020-11-21 11:17

    自分がなぜ文章を書くのか、が、整えられた物語以前の、詩という形で断片として曖昧に漂い、それが最後の一文に帰結するように読みました。僕も世界史に惹かれ、大学では西洋史を専攻しましたが、だからこそ過去を振り返るときに「整った物語としての歴史」から逃亡する態度が、この語り手の回想自体に表れているように思いました。素敵でした。

  • 投稿者 | 2020-11-21 17:37

    「21世紀にあって19世紀のような書架」と本文中にありますが、フィヒテは二百年前に死んだ人物だし、国民国家が現れてから悲惨な戦争を繰り返しているにもかかわらず、この詩が少しも陳腐に感じられないところに、私たちが属している人類の病理があぶり出されていると思いました。Juan.B氏の彷徨と咆哮はいつまで続くのか。そうだ、本を書け!

  • 投稿者 | 2020-11-21 22:08

    皮を剥いでも剥いでも自己が出てくるような、そんな強さを感じる詩です。
    自己の表出をいかに表現として昇華できるか、ということを考えさせられる作品です。

  • 投稿者 | 2020-11-22 00:27

    ひとつひとつの言葉のなかに筆圧の強さを感じました。

  • 投稿者 | 2020-11-22 11:36

    小説を書いている人でラストが刺さらない人はいないんじゃないかと思いました。刺さりました。
    「精液を顔に塗っても白くはならないのに」
    がその通り且つ、民俗的な部分やそこにまつわる感情が感じられて、私はすごく気に入っています。

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