道鏡和合泰平記

応募作品

Juan.B

小説

4,753文字

※破滅派オリジナル作品。2018年2月合評会参加作品。

~1~

 

 

御簾の向こうに影が揺らめくのを、童子は黙って見つめていた。

 

「あああ、禅師……」

「しっかり捕まってなされ」

「うう……」

 

ニュグッと奇妙な音がするのにも、童子は慣れた顔をして、御簾の上の方を見ている。大きく頂点が丸くなった影は、そのまま前のめりになった。

 

「我が君、今日も御健康な様で……」

「ああっ、禅師のおかげですわ……」

「弥栄に御平安あれ……フフフ、ホトが良く締まります」

「もう、何も考えたくない……みんな、私に何の立場を求めるのです……ああ、貴方だけが本当の私を知っている」

「我が君、ご安心下さい、全て私が受け止めます、本当の姿を御見せ下さい……!」

 

ググニュッと、普通では考えられない粘液質な音が響く。その時、御簾の向こうから男の声がした。

 

「これ、童子……水を」

「はい」

 

童子は部屋の恵方に恭しく置かれた金の御椀を持ち出し、御簾の近くに掲げた。

 

「こちらにございます」

「よろしい……」

 

御簾の向こうから、ぬっと図太い腕が飛び出し、椀を掴んでまた引っ込んでいった。御簾の向こうで何が起きているのか、童子は大して関心が無かった。すすきを持って犬と戯れる方が楽しいのだから。

 

「暑苦しいですな……」

「どうせもう都合の悪い者は誰もいません……御簾を開けてしまいましょうか」

「これ、童子、御簾を上げよ」

 

童子が御簾を上げると、裸の法王道鏡禅師と、女帝称徳天皇が絡み合っていた。

 

「ああ、涼しい」

「フフフ」

 

道鏡の股間からは丸太の様に太いホコが立ち上がり、女帝のバックリと裂けたこれも巨大なホトに突き刺さっている。童子は何事もなかったかのように傍に控える。

 

「我が宝塔と君のまほろばたる空が交わる、三千世界に類を見ない陰陽の和合を見せて進ぜましょう、ワハハ」

 

道鏡は女帝を抱えたまま立ち上がり、すっくと立ちあがって見せた。その振動にまた称徳は震えた。

 

「ああっん」

「我が君、御自分から動かれて見なされ、私が全て受け止めます」

「ああ、思えば涅槃経を焼いてしまうと言う何とも愚かなことをしでかし、罰としてこの様なホトと体になって幾年……それも禅師に会えて救われました……」

「仏は全て良き様にお計らいし、私達を巡り合わせてくれたのです」

 

童子には二人が何を言っているのかもわからなかった。それに、口には出せないが、二人のちんことまんこは黒ずんていて気持ち悪い。だが、そのまま道鏡が歩き始め、道鏡より二回りも小さい称徳が胸を揉まれつつヒョコヒョコと腹ずって動くのを見ると少し面白くなってきた。

 

「ああ……あ……」

「煩悩なぞ全てここから吹き飛んでいきますよ……」

「浄土が見える……!」

 

平城京の夜は更けていく。

 

 

~2~

 

 

「宇佐神宮への勅使ですか……」

 

称徳女帝に私事として物々しく傍まで呼ばれた法均こと女官和気広虫は、その場で皺の多い面を下げ、物思いに耽った。傍らでは弟の清麻呂が平伏している。

 

「何も迷うことはないのですよ、行って確かめるだけのことです」

「恐れながら健康が優れないもので、この重大な責務を果たせるかどうか……」

 

長旅になる、老いつつあり病弱の自分の体はそう持たないだろう。だがそれだけではない。前代未聞、国史上初の、臣下への禅譲……法王道鏡の天皇即位を求める神託の確認を行う勅使となるのだ。長旅だけでなく政争のやり取りまで背負わされればもう体が持つ訳がない。だが明らかに道鏡に禅譲したいらしい女帝の機嫌を損ねる訳にもいかない。

 

「我が弟清麻呂を代りに行かせてはいかがでしょうか?」

「え……」

 

清麻呂は平伏したまま思わず声を上げてしまった。しかし称徳もそれでは仕方ないと言う態度をとり、清麻呂の方に声を掛けた。

 

「清麻呂、どうか」

「……謹んで拝命致します」

 

この時から、和気清麻呂は新たな政争の中心となった。毎日毎晩、道鏡の手の者から付け届けが届いたかと思えば、反道鏡の臣達に挙って“神託を正しく聞き取るように”と迫られる。清麻呂もこれは病弱の姉に務まる気はないと思った。だが同時に、先の廃帝の件や、称徳女帝……と言うより道鏡に楯突いた皇族たちの死を思い浮かべると身震いがした。

 

「嗚呼……」

 

宇佐への出発を数日後に控えた夜、清麻呂の手には、道鏡から直接届いた“道中の健康を祈る”手紙が握られ、清麻呂自身は中空をただぼんやりと見つめていた。その視界の下の方には冠が見える。道鏡の弟で高位に就いていた、弓削浄人だ。手紙を渡しにわざわざ押しかけて来たのだ。

 

「清麻呂殿?」

「あ、あ、いや、何とも大きな責務のことを考えておりまして」

「そう気負わずに良いのですよ……行って聞くだけ、ハハハ」

「ハ、ハハ」

「清麻呂殿の行いは国史にしかと記されましょう……ただ、どちらで記されるかです、しかと神託を聞き、正しきことを伝えたか、否か……」

「!」

「兄上も清麻呂殿のことを良く気にかけております、正しきことが成った暁には清麻呂殿も然るべく扱いを受けるでしょう……」

 

露骨と言うべきか。清麻呂の視線は中空をさらに泳いだ。

 

「ううむ……」

「ああ、いや、こう言うのもまたなんですが、おつかいする稚児が言われた買い物をしっかりこなし褒められる、その程度のことと心得れば宜しい……ああ、そろそろ失礼」

「あ、いや、これ、誰か明りを……」

 

門まで見送った清麻呂は、浄人の影が見えなくなるまで立っていたが、ふと周りを見回すと、塀の隅に人影が現れた。

 

「清麻呂殿、良くお考えなされ、天地開闢来のこの神国を今、股間の毒蛇盛り立つ怪物が穢さんとしているのですぞ」

「ど、どなたです」

「……」

 

声の主は素早く去っていった。清麻呂は身震いしながら屋敷へ戻ると、夜空を見上げ静かに溜息をついた。

 

 

~3~

 

 

習宜阿曾麻呂に先導され、清麻呂は宇佐神宮の本殿に入った。音もなくしんとした広い空間に台が据えられ、人の頭ほどある銅の鏡がぽつんと置いてある。

 

「後は、よしなに……」

 

習宜阿曾麻呂や神官たちが退出し、清麻呂が一人部屋に残された。ふと、急にウトウトしてくる。長旅の疲れだろうか。

 

「どう確かめろと……ふああ……まあ夢告ということだな」

 

自分で理由付けをしながら、冠を外し衣装も気にせず清麻呂は横になった。眠さがさらに深まった時、ふと鏡が光ったかと思うと、清麻呂は宙に浮いている感覚を覚え、もがいた。

 

「な、なんだ」

 

その時、方々から大声がしたかと思うと、すっきりとした青空と夜空が目の前でぶつかり合い、更に方々から巻物がそのまま飛んできてバラバラと弾けた。そして天照大神や神武天皇、厩戸皇子や物部守屋ら先人達が雄叫びを上げて躍り出たかと思うと、かなり遠くの方にそれでも巨大な蕃神がそびえていた。その蕃神は一つの生き物と言うより、多くの怨念が集合しているようだった。双方が口を開く。

 

「道鏡を即位させよ、天下泰平なり」

『止めよ!皇統冒すべからず!』

『穢れた前例を作ってはならぬ!』

『神国この方神道のみを信ずべきだった!あのような男が現れたのは仏教を招いた私の責任だ!』

『今言っても遅いぞ!』

 

厩戸皇子と物部守屋が互いを罵りながらも共に蕃神に切りかかったが、それよりも大きな声が清麻呂の脳裏に響いてきた。

 

「聞け清麻呂!今、己の力、それも陰陽を和合させる力で地位を築いてきた男が、頂点に立とうとしている!これが何を意味するか分かるか!?」

「……いや」

『無道の者除くべし!』

「その血筋だけで地位を固めてきた遅れて澱んだ力が、新しくなる機会なのだ!それも、殆ど血を流さずに!新しい時代に乗り込む機会が今、あの道鏡と言う男に掛かっているのだ!」

『耳を貸すな!』

『神国がどうなっても良いのかーッ!』

 

蕃神の後方から明るい光が差し、笑い声や明るい声が響いてきた。

 

「道鏡を即位させよ、天下泰平なり、泰平なり、泰平なり……泰平なり!真のまほろばは公に陰陽の和合する所にあり!」

『キャーッ!止めてーッ!』

 

力尽きた神武天皇を口に咥えた蕃神は天照大神を踏み倒し犯した。あっ、と声がしたかと思うと、天照の目鼻口、穴と言う穴から蛮神の精液が溢れ出、飛び出た目玉が清麻呂の足元に転がった。

 

清麻呂は目を覚ました。窓口から入る光はやや傾いたが、辺りは少し前と全く変わっていない。清麻呂はふっと息をついたが、つき終わる頃には、今、夢を見ていたような気がして、だが何とも思い出せなくなった。部屋はしんとして、何の声も答えも出ない。ただ、銅の鏡がこちらに向いている。

 

「銅の鏡か……あ、銅鏡……道鏡!天皇は道鏡で良し!神託終わり!早く帰ろう、こんな田舎嫌だ」

 

 

~4~

 

 

明りが灯った殿中で、落ち着いているが大きな声が響いた。

 

「もう、隠すこともあるまい」

 

天皇の金の冠を被った道鏡は壇上で椅子に座り、しかし素っ裸だった。そして、元の女帝称徳が道鏡の股間にむしゃぶりついていた。その様な異様な光景を前に、百官は平伏していた。最前列にはただ三人、太政大臣となって面を上げている弓削浄人と、破格の昇進を遂げても大した表情も浮かべていない右大臣和気清麻呂、やや右後ろには、あまりの光景に心臓が破裂しそうで口をパクパクさせている同じく昇進を迎えた法均がいた。

 

「朕……いや、余……でもないな、拙僧は、称徳女帝より禅譲され、法王に加え天皇に即位した、仏法僧そして陰陽の和合に基づいた聖法に基づき国を統治したいと思う」

「御祝賀し奉ります」

 

浄人が祝いの言葉を述べようとしたその時、臣列の中ほどにいた藤原百川他数名がいきなり立ち上がり、隠していた短剣を抜いて雄叫びを上げ道鏡に切りかかろうとした。

 

「この妖狐が!神の怒りを知れッ!」

「戯け」

 

道鏡はまるで人形の様に称徳をゆっくりと脇に除すと、丸太の様なホコを振りかざし、百川の頭部を粉砕した。残りの謀反人たちは戦意を喪失しそのまま取り押さえられてしまった。

 

「ひぎいっ」

「余計な血を流すのはこれで最後にしたいものだ」

 

道鏡は再び称徳と交わって胸部に抱き着かせたまま、騒然とする臣下の列の間をのっそりと進み、日の当たる禁裏の広場へ歩み出た。雲一つない空に、太陽が燦燦と照っている。

 

「この国の将来は明るい……」

「あああっ……もう、心配いらないわ……」

 

聖王道鏡は射精し、聖妃称徳のホトからボトボトと精液が零れ落ちた。

 

 

(終 大体4000字)

2018年2月16日公開

© 2018 Juan.B

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ホラー ユーモア 官能

"道鏡和合泰平記"へのコメント 6

  • 投稿者 | 2018-02-16 19:44

    時代劇で奈良時代が舞台となることはあまり多くないので、時代設定に新鮮味を感じた。朝廷に陰謀が渦巻いている感じも悪くない。しかし「罰としてこの様なホトと体になって」という台詞があるが、称徳天皇がどんな体になったのかよく分からなかった。もっとグロテスクさを強調するなどしない限り、この作品をホラーと呼ぶのは難しいと思う。

    第3節の台詞部分で誰がしゃべっているか分からず混乱した。言葉づかいで人物を書き分ける工夫が必要。せめて「~と****が言った」と話者名を入れるだけでもすっきりするのではないか? 一重かぎと二重かぎの使い分けは単なる作者の独りよがりで、あまり読者の助けになっていないと思う。

  • 投稿者 | 2018-02-16 20:13

    今回の合評会の中で難解だった作品に思えます。
    「二人のちんことまんこは黒ずんていて気持ち悪い。」という箇所が直接的すぎてクスリと笑ってしまいました。
    エロはわかるとして、ホラーの部分がどこなのか少しわかりづらかったです。
    話の大筋は掴みにくかったのですが、雰囲気的には作者様らしい作りだったのではと思いました。

  • 投稿者 | 2018-02-21 21:51

    オノマトペと説明調のセリフがあまり好みではないのですが、珍しい時代を描いた物語なので興味深く読めました。コミカライズするなら諸星大二郎かなー。

  • 投稿者 | 2018-02-21 22:10

    こういう視点から発するホアンさんの作品を久しぶりに読めてうれしかったです。朝廷の視点から朝廷を描いて皮肉る。ただやはりカギ括弧の使い方も気になりましたし何よりネット小説です!ていう体裁も気になります。ほとんど意味のない(ように見える)一行空きとか一度やめてみてはいかがでしょうか。そうしたことも考えてみたら、こういうシチュでもっとおもしろい作品が書けるのではないかと期待しております。

  • 投稿者 | 2018-02-21 22:25

    銅鏡だから道鏡でいいや、ってくだりが個人的にツボってしまって、大笑いしました。案外、歴史的大事件もそんなくだらないことで決まっているのかも、と思わされます。神武天皇とかアマテラスとか聖徳太子とか守屋とか入り乱れて罵り合っているのも楽しい。人間の頭を粉砕するナニとかも潔くて、ちょっと筒井康隆みたいです。
    皇統の権威をとことん認めないスタンスは見事ですが、高貴な女人を犯す淫靡な喜びが描かれていたら私のようなおじさんおばさん好みの作品になったのではと思います。和歌の一つもあればもっとよかったなと思います。「やすみしし、わご大君の、ホト照らす…」とかなんとか。

  • 編集長 | 2018-02-22 15:47

    日本のラスプーチンこと道鏡を題材にしたのは面白い着眼点だった。皇室への復讐心も相変わらずたぎっている。
    ホラー要素があまりなかったので、その分減点。

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