手付金十万円だと言ってその初老の男は柴田正樹に封筒を渡した。あとの四〇万円は引越がおわったら振込むという。いかにも純喫茶といった佇まいの店内で、やけに雰囲気のある初老男性からあやしげな封筒を差し出されると、映画のワンシーンを切り取ったみたいだ、と柴田は興奮した。しかしそれは自分を買いかぶりすぎというもので、柴田はいかにも苦学生らしい風貌と見た目で、スクリーン映えするような要素はひとつもない。詐欺の再現映像と言われた方がしっくりくる。
「部屋なんですけど、たとえば壁に釘をうつとか、ペンキを塗るとか、そういうことしてもいいですか」
と柴田は問うた。
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