綾瀬は天下を取りに行く

巫女、帰郷ス。(第7話)

吉田柚葉

小説

3,212文字

破滅派史上かつてなく最高の主人公、現る!

「島崎、おれはこの夏をエルハゲに捧げようと思う」

一学期の最終日である七月三十一日、下校中に綾瀬がまたくっさいことを言い出した。さいきん綾瀬はくっさい。世間一般に流布している説によれば中二男子だからということになるだろうか。この「くっさい」という表現もくっさいのでやめたいのだが、綾瀬自身がネット上のあれこれを指して「くっさい」とくさすので、ぼくはそのカウンターとしてつかっている。まあ、「くっさい」という表現を使用しているひと全員が、「じぶんはカウンターとしてつかっている」と思っているのだろうが。

「なに? エルハゲ?」

ぼくはしかたなく聞いてやる。

「毎日エルハゲのコメント欄に書きこむ」

綾瀬の言わんとすることはわかる。大学生YouTuber(という表現をエルハゲは嫌っているのだが)エルハゲの動画が投稿されるたび、コメント欄では大喜利合戦がくりひろげられる。「~~な男」という定型文があり、「~~」の部分で大喜利をするのだ。大雨の中、パンツ一枚のエルハゲが奇声を上げながら土手を転げまわる動画であれば「全力で風邪を引きにいく男」、ある失言が元で炎上したために大学から停学処分を受けたことを報告する動画であれば「停学歴を手に入れた男」という具合だ。

「八月になったら『うんこまん』というユーザー名でステハゲの動画に毎日コメントするから、島崎にはそれをチェックしてほしい。良かったらグッドボタンをおしてほしい」

ここで言うグッドボタンは綾瀬のコメントにつけるものだろう。「良かったら」というところに、大喜利に臨む者の矜持を感じる。そこは素直に感心する。

2023年11月22日公開

作品集『巫女、帰郷ス。』第7話 (全29話)

巫女、帰郷ス。

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© 2023 吉田柚葉

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