死出のタービィ

小林TKG

小説

6,075文字

一月の合評会の初○○で考えてました。タイトルは星のカービィからインスパイアされて。

死んだ。

 

僕は死んだ。

 

これがなろう系だったら99%異世界に行くけども、破滅派だからなのか普通に死んだ。

 

しかし死んでもふと気が付いたらとかそういうのがあった。実際そうだった。ふと気が付くと僕は薄暗い所に立っていた。外だった。下が地面だ。もう実家の秋田にしかないような土の地面だ。

「おわあ、なろう系?」

辛い。

そんなの辛い。

せっかく死んだのに。死んでまでまた何かさせられるのかと思うと辛い。そんなの辛い。本当に辛い。死んだら終わりだろ。死んだら終わりだと思って今まで頑張って来たのに。なろう系だったら辛い。本当に辛い。死んでも意味ないじゃんそんなの。

「ライツー」

辛い。

 

ただ、なろう系ではないようだった。

 

『死出の旅へようこそ』

 

薄暗いその場所に目が慣れてきたのかうっすらとそういうのが見えた。中央の額縁みたいのにそう書かれており、その周りは学園祭の時の校門みたいになっていた。手作りの花が色とりどりに飾り付けられて、アーチの様になってて。

 

「あ、死出?」

死出の旅路?じゃあいいです。デーシービーターだったら。それなら全然。はい。

 

子供の頃母方の祖母が無くなった時お葬式に出た。で、誰も救えない事で有名な金田一耕助が事件に遭遇するようなガチものの田舎だったのでそれなりに親戚とか近所の人とかで溢れた。んで、当然僕はその当時まだまだ子供だったので葬式なんてつまらないの極みだったし、お経の時は眠くなるし、正座で足は痛くなるし。ただ焼き場、あれ、なんていうんだっけ?BBQ?あ、斎場!斎場でばあちゃんがマジシャンが抜け出したくて仕方ないような木棺に入れられてぼーぼー燃えてる時、何度もお供えの水を変えてたらあっちの一族の一番長男(ガチガチの田舎のなんか嫌な感じマシマシの。酒癖も悪い。偉そう。自分がなんか言っても悪いと思ってない。森喜朗会長みたい。うちの一族はみんな嫌い)が、

「何度も水換えてくれてありがとうな。ばあちゃんもあついだろうから感謝してるぞ」

って一万円くれた。正直意味わからなかった。死んだのにあついも何もないだろう。って思った。でもまあ、そんなの言うと変な空気になるだろうから、曖昧な顔のまま頷いたけど。あとその一万円でゲオでゲーム買った。それはよかったと思う。

それからお坊さんのお経は苦痛だったけど、でもその後お話、童話?冬の童話祭?説法?があって、

「人は死ぬと死出の旅路に出ます。その道のりは暗く長く険しいです。しかし皆さんが故人の事を想い手を合わせれば、それが死出の旅路を歩む個人の足元を照らす光になります。ですから・・・」

なんとかかんとか。あと覚えてない。それが凄く面白かった。

 

「これがそうなんだ」

で、僕もまさに今それの最中にいるんだと思うとなんというか、

「んーっ」

と、体全体で大の文字を作って伸びをしてから、ああいいねえこれはいいねえ。と歩き出した。アーチをくぐった。まるで何か祝福さているようで紙吹雪でも舞えばもっといいなあと思った。

 

極楽まではあと800里

 

アーチをくぐった先には青看板があって、そう書かれていた。また少し先の所にも同様の青看板が見えた。どうやら極楽まで道に迷う事はないようだ。あと道中にはローソンもあった。んで、ポケットを探ったら財布も持っていた。で、中身も死んだ時と同じ額あった。

「ああ、生きてる時は何の幸福も無かったからなあ」

死んだらちょっとついてるんじゃないですかこれは?試しに一番くじひいたらA賞当たった。竈門炭治郎のフィギュア。やったー!知らないけどやったー。姉にあげよう。いや僕死んでるじゃーん!

 

んで、ローソンではコーヒーとかサンドイッチとかタバコとかを買った。あと袋は3円じゃなかった。

「あの世なんで」

ああ、なるほど、生きていた頃とは違うんですね。あと、

「タバコ吸ってもいいですか?」

いや、ごめんなさい。ダメですよね。ローソンの前に灰皿とか無いですもんね。

「いや別に大丈夫ですよ。あの世なんで」

「そうっすか!?」

マジっすか?生きてた頃は世界全土禁煙区域化でしたよ。

「でも、体に悪いですよ?」

「死んでるじゃーん!」

もう死んでるじゃーん。死後ギャグ。

 

ローソンを後にしてから、エレカシの赤い薔薇の歌詞の最初みたいに歩いていると、前方に山が見えてきた。死出の旅路でもそういうのがあったような覚えがある。まず山を越えて峠を越えてとかって。

「うえー」

ダルビッシュ。

 

しかしトンネルがあったのでとりまそこを抜けた。と、もう目の前に川が、三途の川、サンズリバーが広がる光景があった。え?もう?え?ドッキリ?でも、

『三途川』

って看板があるし、看板の下の方には国土交通省河川課って書いてるし。

 

あ、そうなんだ。じゃあまあ。

 

しかし、ここで一つ疑問が。

「そういえば、親より先に死ぬとあれなんだよな。賽の河原で石積みがあるんじゃなかったっけ?」

あの永遠に終わんねえって言うサワウの。積む横積む横からニーオ―にぶっ倒されるっていう話の。なんかタワマン建築があるんでないでしたっけ?

 

いや、がっつり死んでるじゃん親より先に僕。

 

「あわ、あわわ」

そんな感じでその場でローソンの袋をがさがさ言わせながらキョドっているといつの間にか鬼みたいなビジュアルの人達が周りに集まってきていた。あとその中にはババアもいた。ジジイもいた。あれが脱衣婆と懸衣翁っていうやつだろうか。

 

「おい」

そんでその中にいた牛みたいな大きな鬼が僕のもとにグイっと、パーソナルスペース無視で一歩、ぐいっと来た。

 

「はひ、はひい」

はいもうだめでーすもうだめでーすだめでしたーしにまーすしんでまーすしんでまたしにまーす。

 

「写真一枚いいですか?」

え?

 

それから鬼の人達と脱衣婆と懸衣翁とみんなして衣領樹(人間界での罪の重さを計る木)の前で写真を撮った。あとサンズリバーをバック(これはバックでいいよね?)にしたやつも一枚撮った。

 

「写真、あとで送るから」

「あ、ありご、ありがとうございます」

終始、このように噛むほど緊張して居心地は悪かったけども、だってニーオ―の人達の金棒に毛髪とか赤黒い汚れとかついてたし。脱衣婆と懸衣翁とか爪がデルモくらい長かったしあと尖閣諸島くらい尖ってたし。コナンで爪を凶器にした人とか見た覚えあるし。

「お前やったなあ」

「は、はあ」

ただ、とにかく何とかなったみたい。その後サンズリバーの見えない程向こうの対岸からこちらの川岸に船がやって来て、それがまた箱根駅伝の時に芦ノ湖に浮いてる船みたいにでかい豪勢なやつで、

「いや、こんなの乗れないです。六文銭も無いし」

「いいからいいから」

ってみんなに押されてそれに乗せられた。んで離岸の際にサイカワの皆さんに、

「ばんざーいばんざーいばんざーい」

って万歳三唱された。恥ずかしかった。ズイハー。紙テープも投げられたりした。超ズイハー。

 

「・・・ふー」

船内は一人だった。自分一人。マジで一人。船の操舵は勝手に右左にくるくるしていた。

 

やる事も無いので、ローソンで買ったサンドイッチとコーヒーを飲みながら川を眺めた。それが終わったらデッキっていうの?デッギ?デッキ?とにかくそこに出て煙草を吸った。あの世は終始いい天気で水面はキラキラと輝いていた。風も気持ちいい程度。波も穏やかだ。四万十川みたい。行ったことないけど。

「イメージと違うなあ」

全然違うな。あと親とかが祈ってくれてるにしてもこんなに明るいかなあの世って?お坊さんの話と違う。一人一人の祈りの光量どうなってんだ?一人一人の祈りの力業務用バッテリーか何かなの?

 

「あー」

でも、いい。最高。連休の初日みたい。最の高。最&高。

 

その後デッキで伸びたり屈伸したりしてたらあっという間に対岸について、船降りたらそこにハイヤーが停まっていた。

 

「・・・」

生きてた頃は当然そんなもんに縁なかった。だから今回も関係ないだろうと思って横通り過ぎようと思ったら、軽くファンってクラクション慣らされてドア開いた。それでも無視していこうとしたら、お迎えに上がりました。って目の前に黒い影が立った。

 

「いやいやいや、ドレスコードとかあれですし、僕」

死んだとき着てたスウェットですし。スウェットとちょっとした上着ですし、コンビニ行こうと思ってただけですし。

 

「大丈夫です」

大丈夫じゃないよ。何が大丈夫なんだよ。と思ったが、信じられない程強い力で、女優霊の最後のシーンみたいに引っ張られてハイヤーに乗せられて、中ではシャンパングラス持たされてそれにシャンパン注がれて飲まされた。

「こ、これ?発泡ワインでしょ?」

「いえ、シャンパンです」

いやいやいや、やまやとかで売ってる一番安い発泡ワインでいいんだよ自分なんて。ろくに味わかんねえんだから。って言うかもう焼酎でいいよ。焼酎3、お疲れさんクエン酸サワー3、炭酸4でいいんだから僕なんて。大五郎とか大樹氷とかでいいんだから、トップバリュの焼酎4リットルとかで全然いいんだから。ジェーソンで売ってるもうすぐ期限切れる安いやつでいいよ。それで全然いいんだよ。酔ったら一緒だよ。

「シャンパーニュ地方で作られたシャンパンです」

何でだよ。何したんだよ。とんねるずの番組で時計とか車とか買ったのか?

 

「あとキャビアもあります」

いやいやいや。どこで買ったのこれ?成城石井?僕ルミネ10パーオフの時しか行かないよ?その時だって買わねえよ。せいぜいスモークサーモンとかサラダシュリンプとかですよ自分なんて。港区在住者とかじゃないんだよこっちは。

 

そんなん言ってるうちに、ドバイの人が住んでるみたいなでかい、敷地内にプールもあるみたいな建物に連れていかれた。

 

「やあ、待ってたよ」

そんで、その建物の前に閻魔って書かれた服を着た人が立っていた。

 

「この度は済まないことをした」

閻魔は席に着くなりいきなりこっちに頭を下げてきた。

 

え?何が?

 

頭を下げられるような経験無かったから。社会的弱者の方だったからドキドキした。そう言っておいていきなり拳銃で撃ってくるんじゃないかとかそう言う想像をした。

「私は許そう」

「だがこいつは許すかな!」

ってやつ。あれ。

 

「君があそこで死んだのは予定外の事だったのだ」

閻魔氏は顔をあげると悲痛な顔のまま言った。

 

え?あれが?

 

僕が死んだ理由は車に轢かれたからだ。走ってる車に飛び込んだ。年末年始コロナの影響で実家に帰省できないっていう感じになって、それで死ぬしかないと思っていた。実家で家族で箱根駅伝観れないんだったらもう生きてても意味ない。だから死にたいと思っていた。だから走ってる車に飛び込んだ。

 

飛び込んだ僕の体は車の下に潜り込み頭蓋骨はプレーンピザみたいにつぶされて中身はその辺にバケツで水撒くみたいにまき散らされて、左手は取れてどっか行った。残りは引きずられて地面とこすれてミンサー(ミンサーって沖縄の言葉みたい!)で挽き肉を作るみたいにその辺に散らばった。

 

それの何が予定外だって言うの?

 

「あの車は本来道の向こう側にいた小学生児童の列に突っ込むはずの車だったのだ」

 

へえー。1へえ。

 

「君がそれを止めたおかげで、未来のある小学生児童が30名助かった」

あ、そうっすか。そらよかったっすね。未来無い自分が生きるよりもそういう子らが助かった方が。え?いいでしょう?そら。

 

「というわけで君は運命の輪から外れたのだ。しかも沢山の子らを助けて死んだ」

あざーす!え?じゃあここまでの埒外な好待遇もそういう関係で?

 

「そうしないとこちらも体裁が付かないからな」

あーそうなんだーあー。

 

「君には選択肢がある。現世に戻るか、もしくは最速で輪廻転生してまた新たに生まれ変わるか、あるいはここで、この世界で暮らすか」

は?

 

「・・・」

そんなの。

 

ここで暮らすに決まってんだろっ!

 

誰が現世に戻りたいんだよ。誰が生まれ変わりたいと思うんだよ。

 

給料安くて、税金払って、年金払って、毎日ぎゅうぎゅうの電車に乗って、コロナになったら人外っていう扱い受けて、元首相が女性蔑視発言とかして、常に隣の国とは揉めてるような世界に誰がまた行きたいんだよ。誰が戻りたいんだよ。

 

「まあ、そうだろうな」

閻魔氏は薄く笑いながらそう言った。ああ、よかった。この人は形式としてその質問をしただけなんだと思った。安心した。

 

 

その後、Minecraftで作ったみたいな家で、まあ一応祖母の家を模して作った。そんでちょっとした畑と、田んぼでお米を作りながら暮らしている。あと家にネットもつないだし、スマホも買いなおした。

 

ローソンがあったように、死後の世界にもドコモやNTT、イオン(祖母の家から秋田の御所野イオンが近かったので)がある。あと現世ではドコモの長期契約者だったのでこっちでもそのまま継続の会員年数で使わせてもらっている。毎月10日にポイントも入ってきてウハウハ。更に他人助けて死んだポイントも入ってきて、それはもううれしい。うれしみパない。だって一人につき15000ポイントだぜ。30人×15000ポイント。うほ!

 

あと、インターネットの世界にもアマゾン(死後ゾン)とか楽天(死後天)とかヤフー(Shigooo)とかライブドアニュース(あの世door)とかあるし、死後に小説家になろうとか死後のアメブロ、死後ブロとかあるし、死後の即興小説トレーニングもあったし、死後のpixiv、死後シブもあるし、死後の破滅派、死滅派とかあった。だからそこで相変わらずお話を書いて生活している。

 

楽しい。

 

すごく楽しい。

 

本当に楽しい。今が一番楽しい。

 

「生きてる人に手紙とか出せないですか?」

ある日、閻魔氏に相談した。

「誰に送りたいの?」

「まだ生きてる家族に手紙を送りたくて」

「なんて書くの?」

 

早く死ねって。

 

だって、こっちの方が全然いいよ。マジで。SHIGYのBRAVIAのでっかいインチのやつドコモポイントで交換したからさ。だからそれで死後根駅伝見たよ。すごい迫力だった。

 

でもやっぱり家族みんなで見たいよね。

 

だからさ。

 

早く死ねって。

 

ホントに。

 

死んだほうがいいって。

 

2021年2月11日公開

© 2021 小林TKG

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"死出のタービィ"へのコメント 2

  • 投稿者 | 2021-02-11 13:36

    死生感を敢えてユーモラスに描いた作品。
    途中のアルコールに関する描写は作中、鬼やコンビニが出てくるので、鬼ごろしを買って、ビビりを含め手の震えを抑える為にストローでチュウチュウ呑んだ、なる部分などあらば秋田県警から飲酒・他界問題に取り上げられれ更に傑作になったのかも、識れぬ。

    • 投稿者 | 2021-02-12 20:21

      感想いただきましてありがとうございます。
      死出の旅路って言うテーマで話書きたかったのと、あと最後に親に死んだほうがいいって言いたくて。はい。死んだらこんなに最高。だから死んだほうがいいって生きてる人に手紙を送るのって破滅派っぽいなと。そのような想いで書き始めまして、このような話になりました。ぶっちゃけ間はどうでもよかったんですよね。それなりに文字数が合評会仕様になればなんだってよかったくらいの感じです。という訳で、船に乗ったくらいで4000字になったんですけども、でも合評会じゃないしなと思いまして、とりあえず最後まで走りましたね。はい。鬼殺しとかはもう全然考えませんでしたね。あったら書いてたなあ多分。鬼殺しを鬼にかけてみたりしたかもしれないです。はい。惜しい事をしましたね。ええ。ありがとうございます。

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