ほたはかで泣かない奴なんて別に死んでもいい

小林TKG

小説

2,965文字

前回の合評会のテーマがモータースポーツの時に考えてました。でも、なんか別にモータースポーツでもないしなって思って。まあ、あげた方もモータースポーツじゃなかったんですけども。

隣の町が町おこしの一環として町自体をサーキット会場にしてレースをするとか、そういう事が行われるらしい。

「すげー、モナコみたい」

当然モナコのレースがどんなものか実物を私は知らない。レース系のゲームも得意じゃない。チョロQとかしたことない。子供の頃このチョロQのゲームにおいて海に落ちるチキンレースというのもがあった。それを友達とやった際、のろのろスピードをセーブしてとセーフラインに入ったら、周りからとても憤懣があがって、んで、チキンだとか、ガイキチみたいな事を言われて、それが納得いかなかった。それ以降もうレースのゲームはやらないことにした。ロマンとか死ね!粋とかいなせとかも死ね!くたばれ!

 

ただまあ、レースを観戦できるとか滅多に出来ない事だったので。隣町で開かれるとかそういうのが無い限り、あと鈴鹿に住んでるとかそういうのが無い限り、まずもっていかないだろうから、これは話のネタになると思って見に行くことにした。それに私が敬愛するハトヨメの漫画でもハトヨメがワニ子さんと一緒にレース的なものを見に行ってるシーンがあるし、

「ダンナが倹約しているのにラリーなんか見に来ちゃっていいのかしら!」

「いいのよ定額給付金だから!」

このシーンが出来る。出来るじゃん。あと当然と言えば当然だけど、私はラリーとかレースとかの違いを知らない。何がラリーで何がレースなのか知らない。でも、たまにヤフーニュースとかにラリー遠田っていう人の名前があるのは見る。コラムニストとかなのかな。知らないけど。

 

とにかくまあ、その車が町を走るやつを見に行くことにした。起きて雨だったらやめるつもりだったが、当日起きたら程よく曇りでまあ、出かけるにはよい気候だった。

 

「よし、よしよしよし」

隣町の自転車置き場をグーグルマップであらかじめ調べて起き、出かける前に最後指差呼称して大丈夫か確認して、家を出た。

 

豚汁とか配ってたりするだろうか?

 

糞みたいな北東北の田舎の出なので催し物と言えば豚汁とか甘酒の事とかしか考えられない。あとかき氷とか焼トウモロコシとか焼きそばとか。今のこのご時世だもの無理だろうかなあ。

 

そんな事を考えながら自転車を漕いでいると、進行方向の歩行者通路に人だかりが出来ていた。バス停である。そこに集った人達であった。そのバスは隣町まで行く。もしかしたら私と同じ目的なのかもしれない。私もバスにしたらよかったか。そう思った。でも今視界に入るだけでもあんなに混んでるし。それはもうソーシャルとか関係ないくらい混んでるし。

 

そんな光景を見ながら自転車漕いでたらちょうど自分の横をそのバス停にとまるであろうバスが、そして私を追い抜いたバスが、バス停に。

 

その時、バス停に集まっていた人たちの中から一人若い金髪の素行の良くない感じの男が、人を見た眼で判断するのはよくない事ですが、でも凡人の判断基準なんてそんなもんだよな。素行の良くない感じの男がバス停から飛び出た。飛び出した感じではなかった。飛び出た。後ろから押されたみたいに。

 

きゅぅいいいぃぃぃぃ

 

バスは咄嗟にブレーキを踏んだが、しかし車内を見るとそのバス自体も人が満載で。みんな隣町に行くつもりなんだろうか。満載で。そら容易には停まれんよなあっていう感じで。

 

射出された男の体がバスの車体の前に消えた。バスが上下に揺れた。ごんごんがんって音がした。

 

辺りは騒然となった。

 

私も路肩に自転車を止めてその光景を見ていた。それから停まったバスから運転士と思われる人が飛び出してきて、車体の下を確認して、救助活動みたいなことしてなんかどっかに電話したりして、

 

あっという間に警察と救急車が来た。パトカーが五台くらい来た。

 

私はその間に自転車を路肩に止めてバス停の近くに行った。

 

「・・・ひっ、ひっ、ひっく」

バス停には一人ギャン泣きしている女がいた。森ガールの様な格好をしている。髪は栗色で軽いパーマ。肩まで伸びてた。そんで周りの人がその人の事を、

「大丈夫大丈夫。大丈夫だから」

「あなたは悪くない」

「悪いのは男の方だよ」

って言って、慰めていた。

 

その辺りにブルーシートを張ってから警察が話を伺いに来た。すると例の女の人が手をあげて、

「私がひろくんをバスの前に押しました」

と言った。自供だ。初めて聞いた自供とか。自供マジやべー。マジ卍。草。

 

そしたら周りの人が口々に、

「確かに彼女があの男を押しました。でも悪いのはあの男です」

とか、そういう事を口々に述べて、なんで?なんで?って私も鼻息がふんふんなった。ちなみに警察の輪の中に顔の青いバスの運転手もいた。立ってた。

 

「だってあいつ、火垂るの墓で泣かないって言ってて」

え?

「火垂るの墓で泣かないどころか、あんなもの辛気臭いとか言ってて」

「あんなもんで泣く奴なんて、ホント信じられない」

「って、彼女を馬鹿にしてました」

「火垂るの墓で泣かないだけならまだしも、火垂るの墓で泣くっていう彼女の事も悪く言って」

 

何それ?え?何?え?

 

警察はしばらく無言で聞いていたが、

「じゃあ、しょうがないですね」

と言った。

「火垂るの墓で泣かないんですもんね」

バスの運転手も心無し顔の血色がよくなってた。

 

そのバスの運転手に対して女性が進み出て、

「この度は私事で大変なご迷惑をおかけしまして、なんといっていいか、とにかく申し訳ありませんでした」

と頭を下げた。深々と。ペッコリ45度と言いつつ、70度くらい。内村プロデュースの大竹さんの有給休暇の回の時くらい。

 

バス停のみんな、あと警察の人もみんな、周りの野次馬も、この事故で止められてる車の運転手の皆さんも、私も、その光景を固唾をのんでを見守った。

「いえ、そういう事なら」

 

その瞬間その場に拍手が起こった。

 

みんな笑ってた。

 

青春映画でみんなで協力して某かの大きな成功を収めた時みたいに。

 

みんな。

 

諸々済んで全部終わって三々五々解散したら、隣町に行く気も無くなって私は家に帰った。

 

家に帰り、ドアに鍵をかけて、家に他の誰もいないのをしっかり確認してから、

「ほー」

と、その場で息を漏らした。ディア・ドクターの時の余貴美子さんみたいにその場にへたり込んで、それからもしばらく自分の口から息が漏れてた。

 

火垂るの墓って泣くのが当たり前なんだって思って、ちょっとドキドキしてた。

 

高畑勲監督って言ったら私的にはホーホケキョとなりの山田くんが圧倒的だからなあ。ジブリの中でも一番です私は。で、次はおもひでぽろぽろだし。

 

だから、火垂るの墓とかあんまり印象ない。私が子供の頃の作品っていうのもあるかもしれないけど。でも正直そんなの見せられてもっていう感じ。

 

だから、ドキドキした。私もああいう目に合う可能性あるんだと思って。あぶねえ。超あぶねえ。泣けるようにしよ。しとこ。演技でもいいから。泣けるようにしておこう。

2021年5月9日公開

© 2021 小林TKG

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