circuit

応募作品

小林TKG

小説

3,236文字

テーマのモータースポーツが取ってつけたみたいな感じになってると思われるかもしれません。大丈夫です。その通りです。

楽天トラベルで見ると一泊4000円のホテルだった。送迎車で現地に向かう間にスマホを使って内装紹介等を見た。普通のビジネスホテルの様な内装の写真が載っていた。リーズナブルでシンプル。まあ、不可思議なデザイナーズホテルとかに比べると落ち着くか。そう思った。以前そういう所に呼ばれたことがあったが、ペイズリー柄のタペストリーとか、天井で回るプロペラ、あと室内に若干のお香の匂いとかがあって、それが気になって気になってしんどかった。ペイズリーってアメーバみたいで気になる。天井のプロペラはインディージョーンズ/魔宮の伝説を思い出して気になる。お香なんかは私が匂いに弱い所があるので気になる。それからこういう所に呼んだんだぜ俺。という客の感じも面倒だった。何か言わなくてはいけない。

「わあ、すごーい」

とか、そういうの。

そういうのが無いシンプルなホテルでよかった。まあ値段がリーズナブルとは言えこうして楽天にも載ってるわけだし、そこまで粗末でもないだろう。あと気になるのはバスルーム。ホテルの料金的にトイレ一体型のユニットバスだろう。別にユニットバス自体は構わない。けどスペース的にギチギチだと面倒だよなあ。中には一緒に入りたいとか言い出す人もいる。お風呂。性行為が終わった後、緊張から解放されてそういう事を希望する人がたまにいる。んで、それもサービスかと、それで金払いがよくなるならと、やってみた事もある。広いスペースがあったら構わない。しかし狭いとただただストレスだ。もっとも期待なんてものは相手にも自分にも酷なのだけども。

「着きました」

送迎車のボーイに促されて車から降りると、寒くはないが少し風が出ていた。

 

ホテルの部屋に入ると相手の男性は明らかに緊張している面持ちだった。肩に力が入ってガチガチに強張っている。

「ま、待ってました」

それに若干声が上ずっている。いや、あるいは片言の様に聞こえるのか。こういうのが初めてなのだろうか。あり得る。そういう人も珍しくはないだろうな。そんなに知らないけども。

「ご利用ありがとうございます。今日はよろしくお願いします」

部屋に入ると、なんかそういうのを述べる。前口上。名刺を渡す。源氏名は郁美。いつまで経っても慣れない。それから、さっそく事を始めましょうと促す。時間には限りがある。中には、まずちょっと落ち着いてお酒でも飲んでから。みたいなことを望む人もいる。でも、こっちはさっさと済ませて帰りたい。ゆっくりなんてしてられない。落ち着くなら送迎車の方が落ち着くし。それにそうやって無駄に時間を浪費し、結局最後までたどり着かず後々になって、

「SEXできなかった。させてくれなかった」

とか店に連絡が入るとクレームとなる。そうなると店側からペナルティが加えられて稼ぎが減る。客に金を返すとかそういうのはない。謝るとかも当然ない。単に店にピンハネされる額が増えるだけ。でも、せっかく股開いたのにそれはない。非情だ。

「じゃあ、お先にお風呂失礼しますね」

さっさと済ませる事済ませよう。それがお互いの為だ。男は「はい。はい」と水飲み鳥の様にぎくしゃくとうなずいていた。

「お」

バスルームは予想通りユニットバスだったが、想像したよりもスペースが広くて思わず声が漏れた。

 

「・・・」

まるでロボットの様だったなあ。ぎくしゃくと、腰の動きがなんかなあ。油差してない機械みたいな。最後まで硬さが抜けなかったなあ。帰りの送迎車の中で男との行為を思い出していた。外は雨が降り始めたようだ。店になんかクレーム入らないかな。あんあんとかは言ったし、息を止めて力を入れてイッたようにも見せたから、やれるだけの事はしたつもりだけど。それに男だって最後までチンポは勃っていたし、ゴムの中に吐精もしたから、まあ大丈夫だとは思うんだけど。でもなあ。終始男の表情はこわばったままだった。ぺたんと貼り付けられたかのような顔。それしか表情を持っていないというような。

 

数日後、本職の無許可でやってるケアセンター兼託児所で洗い終わった洗濯物を、ここの利用者が使うタオルとかを知らねえ男のチンポ握ったのと同じ手で畳んでいる時、突然何の前触れもなく気持ち悪くなってゲロ吐いた。

「うぶろおろえ」

その時畳んでいた木村茂子さんの介護着が運悪く犠牲になった。それでゲロ受け止めた。残業代の出ない違法残業の最中で、ちょうど誰もいなかったのが幸いだった。すぐに水道でゲロ落として洗濯機で洗い直した。無認可で経営難気味で残業代も出ないけどまさか洗剤の残りまではチェックしないだろうと多めに洗剤をぶち込んでお急ぎモードで洗濯乾燥機を稼働させた。当然それを待ってる約40分も残業代は出ない。ただ、なんでか知らないがそこではドラム式の洗濯機を採用しており、待つ間それを眺めていれば退屈はしない。それだけはありがたかった。全行程が終わるまでその場に座り込みグルグルと木村茂子の介護着が回るさまを見ていた。

「・・・」

しかしその終わりがけ、また不意に喉奥に込み上げてくるものがあった。まあ今度は洗面台も近いし、と余裕をもって移動して吐く態勢になると、まるでカチッとスイッチを押したように吐瀉物が出てきた。えれれ、えれれれれ。

「え?」

その中にねじ。ねじがあった。小さいねじ。機械部品。それに驚いて体を起こすと洗面台の鏡が視界に入る。後ろに男が立っていた。こないだの男。張り付いた表情の。あの。

「きゃあ!」

吐瀉したばかりの濯いでもいない口から声が出た。自分の声にしては可愛らしい声。咄嗟に肘が動いて男の顔に当たった。刹那、肘に電気が走ったようにしびれた。鏡の中の男の顔の皮がめくれているのが見えた。面皮がめくれ所からターミネーターが覗いていた。それからすぐ、ものすごい力で目も鼻も口も塞がれた。それであっという間に私の意識は暗い所に沈むように落ちた。

 

意識がはっきりしない。目を覚ましたのに覚ましたような感じがしない。まだ半分寝ているような感覚。でも青いライトが閉じてる瞼を透過して視界に入ってくる。眠い。ずっとろくに寝てなかった。寝かせてほしい。青いライト消してほしい。

「着床ヲ確認シマシタ」

無機質な機械音声が聞こえ目をあけた。

「オハヨウ」

面皮のめくれた男が立っていた。男は何か機械を持っていた。私の体は歯医者の診察台の様な台に寝かされて固定されていた。体をよじったがろくに動かせない。それにここはどこ?見たこともない場所。SF映画に出てくるカプセルホテルの様な場所。

「見テ僕ト君ノ子供」

男が腹に手に持っていた得体のしれない機械をくっつけた。非接触型体温計の様な機械。その瞬間空中にウィンドウが現れてエコー写真の様なものが映し出された。それが私の腹の中の映像なんだと言われた。映像ではピンポン玉くらいの大きさの玉が何個か楕円形の枠の様なものをグルグルと止まることなく回っていた。磁石と金属の玉で作った永久機関の様に。グルグルと。

「僕ラノ子供」

子供な訳ない。玉だ。ただの玉。

「郁美ニ僕ノ子ヲ産メル体二ナッテモラッタカラダヨ」

そのために内臓とかなんもかんも溶解処理した。そう言われた。僕ノ、機械の子供が産めるように。そう言われた。

 

まず映像に映っている複数の玉を産む。あれがコアなんだそう。人間で例えると心臓とか脳みそとか。そういうものらしい。心とか。それから次のパーツを製造して、産む。それを完成まで繰り返す。ディアゴスティーニみたいに。

 

空中に現れた画面の中では相変わらず複数の玉がグルグルと回っていた。止まることを知らないように。まるでサーキット場だ。そう思った。ル・マン24時間レースのようだ。そう思った。

 

なぜ自分の心が壊れないのか不思議だった。脳みそも機械になって余計な事は考えなくなったんだろうか。そうかもしれない。それはそれで便利な気さえする。

2021年3月22日公開

© 2021 小林TKG

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"circuit"へのコメント 18

  • 投稿者 | 2021-03-24 17:48

    ぶっとんでるなあと思いながら、あっという間に読み上げてしまいました。
    しかし、モータースポーツとポルノを絡める人が多い。傍目からだとそれなりに親和性を見出せるものなのだろうか

    • 投稿者 | 2021-03-25 19:19

      感想いただきましてありがとうございます。
      今回の合評会のは今までで一番自信が無くて、ちょっと鬱っていたんですけども。でもこうして感想いただきまして。ええ。また何とかできそうです。ありがとうございます。

      著者
  • 投稿者 | 2021-03-27 22:23

    展開はSF映画によくある題材に感じますが、色々な、現代日本の背景を加味した文章として読んでみると、その外宇宙の生命体に種づけされるという設定が、妙に自然な受容を促す説得力を持つように感じます。
    何よりも最後の主人公の諦念のような感覚は凡百のハリウッド映画には到達できない境地でしょう。惜しむらくは、テーマからやや離れていることでしょうか。

    • 投稿者 | 2021-03-28 14:43

      感想いただきましてありがとうございます。

      すいませんほんとに。テーマをとってつけたようにしたんです。自覚あります。それくらいモータースポーツに興味なくて。でも合評会には参加したくて。はい。

      あと書いてはみたものの、なんか自分が思ったものにならなくて、はい。でも感想もらえてうれしいです。もうそれだけでありがとうございます。しかも諦念まで褒めてもらえて。ほんとあざすです。

      著者
  • 投稿者 | 2021-03-28 15:34

    ホテル検索からの導入で旅かと思ったのですが、デリヘル嬢語り手のちょっとJ文学っぽいやつかなと読み進めると、まさかのSFでいろいろ裏切られました。もう少し分量があると、さらに世界観が広がって良いかなと個人的には思います。

    • 投稿者 | 2021-03-28 15:56

      感想ありがとうございます。

      旅と見せかけて、J文学と見せかけて、SFで無駄に目と思考を散らせてしまってすいません。

      でも、ホントそれで。分量が足りないというのは自覚がありました。あともう少し考えもあったんですけど、ただその段階でもうあまりにも自分の理想と内容が乖離していて、ぶっちゃけ諦めました。

      はい。

      期限日当日でもう如何ともしがたかったし、あとテーマについても不十分で、はい。今回はもう反省が多かったですね。ええ。反省しかないですね。次は余裕をもって望みたいです。

      著者
  • 投稿者 | 2021-03-28 20:50

    アンドロイドに恋をされて、身体を改造されアンドロイドの子供を産めるようになる……これだけで長い小説が書けそうですね。素材はとても良いのでは。
    確かにモータースポーツとの関連はほぼありませんでしたが、楕円形の周りをぐるぐると回る玉はギアの比喩かと勝手に想像しました。また、いろんな職業を持っている主人公のことだから、レース場でアトラクションのお姉さんとかやっていてもいいかなと思いました。

    • 投稿者 | 2021-03-29 16:27

      感想いただきまして、ありがとうございます。
      正直、皆様が今回の合評会に話を提出され始めた頃、
      「うあ、みんなすごくモータースポーツを題材にしているっぽい。どうしよう。私のモータースポーツとってつけた奴だけど、どうしよう」
      というのが凄く不安になってきて、こんなものを出したら怒られるんじゃないかと、そんな風に思ってました。はい。でももうこの話を思いついてたし、期限まで時間も無いしで、もうほんとにあれでした。

      しんどかったです。

      題材はよいという事で、誠にありがとうございます。何ですけども、しばらく見たくないですね。ええ。

      著者
  • 編集者 | 2021-03-28 22:52

    面白かった。女性がどう思ってるか知らないが、これも一種の混血である。生身の日々の体調管理と、機械の日々のメンテナンス、どっちが楽なんだろうか。とりあえずおめでとう。
    テーマというと、俺の作品だってあんまりモーターモーターもスポーツスポーツもしていない、かも知れない。お互い、全てを観客に委ねようではありませんか。

    • 投稿者 | 2021-03-29 16:31

      感想いただきましてありがとうございます。

      私としては機械になった方が、メンテナンスしたり、部品交換したり、オイル交換したりした方が楽なんじゃないかと思ってこの話を書きました。
      「そっちの方が後腐れないというか、わかりやすいよね」
      的な感覚で。

      あとはもう。ええ。モータースポーツは、はい。しばらく見たくもないし、考えたくないですね。

      著者
  • 投稿者 | 2021-03-29 12:13

    いつもの漫然とした一人称の語りで始まったので、てっきり今回も私小説もどきかと思って読んでいたら、女性視点の妊娠パラノイア小説でびっくりした。SF要素はすべて主人公の妄想だと解釈して読んだけど、長編に話が膨らませられそう。

    • 投稿者 | 2021-03-29 16:37

      感想いただきましてありがとうございます。

      妊娠パラノイア小説っていいですね。言葉が最高です。ああ、そういう感じにもっと振り切ったらよかったかもですねえ。考えもしなかったですねえ。

      「モータースポーツモータースポーツ」
      って泡吹きながら書いてましたからねえ。

      著者
  • 投稿者 | 2021-03-29 16:20

    本当に取って付けたモータースポーツでした笑 風俗嬢の日常を描く話かと思っていたらやはり小林さんでしたね。ぶっ飛んだSF展開にやられました。個人的に腹の中のピンポン玉の形容がルマン24時間ではなくてインディ500のオーバルレース(楕円形のコースをぐるぐると走る)だったらなおよかったです。

    • 投稿者 | 2021-03-29 16:40

      感想いただきましてありがとうございます。

      ほんとにはい。とってつけた奴でしたww

      ルマン24時間レースですら、自分からしてみたら、
      「よく出た!」
      って言う感じなんですよ。ええ。

      全然知らなくて。でも何とかモータースポーツ感を出さなきゃ。怒られるって思ってたんで。ええ。

      インディ500のオーバルレースっていうのがあるんだあ。へえー。次のテーマがモータースポーツ2だったらそっちにします。あるいはもうモータースポーツは無理かもしれません。ゲロ吐くかもしれません。

      著者
  • 投稿者 | 2021-03-29 19:32

    めちゃくちゃ面白かったんだけどなんなの

    • 投稿者 | 2021-03-29 20:21

      ありがとうございまーす。今回はそう言ってもらうだけで泣きそうでーす。

      著者
  • 投稿者 | 2021-03-30 14:04

    ああ、本当に取って付けたみたいですね。とまあそれはいいです。
    個人的に秀逸だと思ったのは「ディアゴスティーニみたい」のところです。
    主人公が冷静すぎるなと思ったのですが既に機械にされているのなら仕方がないですね、と納得しました。

    • 投稿者 | 2021-03-30 20:53

      感想いただきましてありがとうございます。

      ディアゴスティーニの所は、あのーあれなんです。私よく使うんです。ディアゴスティーニか!みたいなの。ディアゴスティーニで何か買った事は一度もないんですけども、ただでも、私が子供の頃よくディアゴスティーニのCMとかやってて、初回だけお安くしてだますつもりか!?とかよく思ってたんで、はい。そういうのが大人になっても離れず頭にあるんでしょうね。

      ありがとうございました。

      著者
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