おもいつき

かきすて(第13話)

吉田柚葉

小説

2,204文字

リードが何にも思いつきません。さらっと書きました。

「おせわになっております。わたくしですね、ことしの九月末までオンシャにつとめておりました、松本忠司ともうします。はい、おせわになります。それでですね、わたくしの退職後のてつづきにつきまして、少々おたずねしたいことがございまして。オソレイリマスが北島部長はゴザイシツでございますでしょうか。はい、ああ。でしたら、オソレイリマスが、おねがいもうしあげます。

 ……はい、わたくし、以前オンシャにつとめておりました……、はい、松本でございます。はい、おせわになります。北島ブ、北島さま、じつはですね、わたくしのゲンセンチョウシュウヒョウの方を……。あ、さようでございますか。でしたら、住所などとくに変更ございませんので、はい、そちらの方に。はい、おねがいもうしあげます。すみません、シツレイいたします……。

「……はい。はい、松本でございます。ああ川崎。なんだよ、どうしてるって。なんだよ、おまえ、仕事しろよ、マジで。てか、どこからかけてきてんだよ。ああ、昼やすみね。もうそんな時間か。いや、ね。ほら、おれ無職だから。わかんないのよ、時間間隔が。うん。で、おれさあ、ことしはカクテイシンコクしなきゃいけないじゃない。そう、しなきゃいけないんだよ、無職だから。で、最後の月のキュウヨメイサイとリショクヒョウは会社からはおくってもらってたんだけどさ、ゲンセンチョウシュウ……票っての、あれ、おくられてきたかなあ、とおもって。リショクヒョウといっしょにおくられてきてたかもなあ、うわ、すてたかも、なんてさ。そう、大あわてよ。あせるあせる。さがしてもみつからないし、再発行してもらわなきゃって。で、辞め方も辞め方じゃない。ウシロアシデドロヲ、なんて言われて。そうそう。うわ、ネットで見た例文といっしょだ、って。進研ゼミでやったやつじゃん、って。もう、押したり引いたりなんだけど、押すのも引くのも、どっちも定型どおりというか。横田リーダー、おまえもか、って。そんなにペラい説得されても、って。いや、説得っちゅうかなんちゅうか。そうそう。ああいうときって、もうこわすしかないんだなと、つくづくおもいましたよ。完膚なきまでに、こわす。うん、録音ね。まさにあの録音にたすけられた。まあ、ハッタリはハッタリなんだけど。でも録音してるってのが決め手だったのは確か。で、はなしもどすけど。いやあ、まいったな、でも電話するしかないよなあ、って。そう。でも、何度おもいかえしても、おくられてきてないわけよ。そんな大事なものを見おとすことはさすがにない。そう。優秀なおれが見おとすわけない。で、ネット見たらさ、退職後一か月以内に退職者におくらないとダメなんだって。よし、法律違反だな、と。死刑。会社ふっとばしてやる。倒産だ、と。うん、そうそう。だから、ここは北島部長お得意の『なんで?』ですよ。『なんで』攻めしてやろう。『いま作成中です』、『なんで?』、これだよ。これですよ。そうそう。でまあ、じっさいどうだったかと言うと……、はい、すみません、けっきょく何も言えませんでした。『いま作成中です』、『さようでございますか』。『さようでございますか』だよ。かっこわるっ。死刑ならず。倒産ならず。川崎勇気投手、ユカワ商事に残留。……うん、うん。えっ。ああ、なに、マジで。岡野が。あの岡野が。会社を。あ、会社じゃなくて社長を。社長だけを。へえ。いや、それはちょっとかしこいな。うん、かしこいとおもう。つまりね、会社を訴えるじゃない。そしたら、つぎの日から会社の人間ぜんいんを敵にまわすことになるわけ。そうそう。みんな敵。だから社長だけを訴えるってのは、やり方としてはただしい。ね。会社の金で社長の裁判を工面するってどうよ、っていう問題もあるし。うん、そこはまあ、うちの会社じゃ不問かもしらんけど。……でもやっぱりかしこいとおもうよ。社長だって、たぶん、訴えられたことないだろうとおもうし。なに。いや、ちがうよ。おれは岡野に何も言ってない。ほんとほんと。うん、マジでしらない。何だよ、社長、犯人さがししてんの。そりゃ岡野本人ですよ。ほかならぬ岡野の智慧よ。あなどってくれるな、岡野を。うちの岡野を。うん。岡野はやるやつよ。ってか、犯人っつったら、けっきょくさ、社長本人ってことになるんじゃないの。身からでたサビでしょう。そこは、だって、裁判なんだから。法廷で決着つけるよりほかに……、なに、おれが。おれが訴えるって。だれが言ってんの。いや、しないしない、しないって。川崎、おまえ、社長のスパイかよ。いや、しないよ。……、あっ、やっぱりするかも。うんうん。そうそう。しますします。訴えます。うん。訴えるかも。いや、訴えますって言ってたってつたえといて。このさい、ビビらせちゃおう。うん。『松本、社長訴えるってよ』。『松本も社長訴えるってよ』って。やあ、わるいなあ。わるいよ。これあれだからな、おまえがわるいからな。うんうん。そうよ。うん。はい、じゃあ、はい。はい、よろしく。うん、はい、またね。はい……。

「……はい。またかよ。こんどはなに。辞めた人間に週一で電話かけてくるなよ。うん。もういいかげんにきちんと袂を分かとうぜ。……で、なによ。うん。え、ほんとに。社長が。自殺。へえ。あの社長が。ほんとに。ドッキリじゃなくて。……はあ。そう。へえ……。なんで?」

2020年12月12日公開

作品集『かきすて』第13話 (全36話)

© 2020 吉田柚葉

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