漢方人間

小林TKG

小説

3,372文字

冷静になってみるとこれの一個前のエセーの類みたいなのは私にはまだ早いし、そんなにやってないし。あとああいうの気持ち悪くないですか?何言ってんだこいつって思いました。

昨今、急激に寒くなったことで肩とかが凄い凝る事態になった。

「さすがにもう床で寝るとかは無かったか」

夏の頃、暑さにたえれず玄関からすぐのフローリングに直で寝ていた。で、晩秋になってもその文化がまだ残っていた。時勢の急性とも呼べる変化に対応できていなかった。でもお酒飲んだら枕とちょっとした毛布あればどこでも寝れるしなあ。

「屋外で風が無ければどこでも寝れるんだものなあ」

私。そういうシステムでやらせてもらってるしなあ。

しかしまあ、体は正直だという事だろうか。

肩が痛い。団体客御一行様が乗ってるんじゃないかと思うほど肩痛い。このコロナの時分に随分な密集具合じゃないですか。もう濃厚接触でないですか?

 

とにかく今のこのままでは創作活動もままならない。ままならないどころかパパならないしあねならない。首回らない。肩回らない。リボルティックフィギュアよりも今の私の方が自由効かない。

 

「もうこの際何でもいいから」

何か家の近所でないだろうか。ゴッドハンド的なもの。何でもいいから。最悪若干のいやらし系も許す。セクシー系でもよい。仕方ない。ギチギチなんだ。今の私。これを解消したい。解消されるならいい。急に指とか入れられても騒いだりしないから。

 

そうして藁にも縋る思いでネットで調べていくと、最寄り駅の近くに漢方&按摩局というのがあるとGoogleで出た。

「保険は?」

大丈夫らしい。おお。いいのではないか?

 

ただしかし、

 

しかし漢方。

 

漢方ってどういう感じ?知らないんだけど私。苦い?いやそもそもが西洋医学も東洋医学も知らない。これまでずっとシュレー・・・ジュレ―?シュなんとかの猫よろしくやってきた。健康だと思う事で健康を維持してきた。三年峠的の感覚で。

 

「何かとんでもないものが出たらどうしよう」

どろどっろのなんか。真っ黒のやつ。真っ黒の汚ったならしい何かビロビロしたものが出たらどうしよう。悪性の塊みたいなものが出たらどうしよう。あるいは創作の源みたいなものが出てしまったらどうしよう。それによって何も出来ない、もう何も思いつかないことになったらどうしよう。健康で健全なる精神と肉体は必ずしも創作活動にプラスになるとは限らないぞ。

 

寧ろ悪性のものを依り代にしてこういうことをやっていた可能性も、

「あるのではないか?」

 

可能性ありますよね。そういうの。

 

「いっぎいいいいい」

しかしその瞬間、定刻にセットしていたスマホのアラームが鳴るみたいに肩から首にかけて電撃が走った。

「わ、私はピカチュウじゃないっ!」

勿論コイルでもないし、ビリリダマでもない。サンダーでもないしサンダースでもないしエレブーでもねえ。電気が走っても嬉しくもなんともねえ。

 

そう思ったときにはもう財布とスマホと家の鍵をもって、マスクして家を出てた。あともうこれ以上アンメルツとかバンテリン的なものを塗って皮膚溶かしたくないし。まあ、一回ダメ元で行ってみよう。それでもし無理なら、肩とってもらう手術する。そんでレゴブロックみたいに脱着可能にしてもらう。

 

「ええー・・・」

なかなか目的地が見つからないで駅前をぐるぐると何周もした後、ようやく件の漢方&按摩局というのを発見した。

 

「怪しい」

こうしてみると、抜群に怪しい。特に&が怪しい。しかし頼れる場所はもう他にない。いや、あるにはあるんだろうけど遠い。でも一応店の前で確認で電話してみた。

「はアーい」

電話口には女性が出た。怪しい。はアーいって怪しい。アが怪しい。

 

「あの今から行けますか?」

「予約シてる?」

「いや、そのー」

「̪シてないの?」

「はい。無理ですか?」

「イつ来るノ?」

「もう店の前に居ます」

「何ソれ、アハハハハ」

壮大に笑われた。普段だったらちょっとにやにやしてしまうかもしれないけど、今はそういう余裕も無かった。寧ろ笑い声が耳から肩に伝わって電気が走りそうでドキドキした。

「ドウぞいいヨ」

声が近いなと思って店内を確認すると中から女性がこちらを見ていた。目があった。がっぷり四つで目があった。そんですぐ微笑まれた。だから私も微笑み返そうとしたけど、肩の爆弾が爆発しそうで怖くてただ毒飲んで死ぬ前の痙攣みたいになった感じになっただけだった。

 

「どうゾ、じゃあココ、横にナって」

店内は程よく怪しく、何か曼荼羅的なものがあったり仏様的なポーズの像があったりした。それから象の像があったりもした。で、私はそんな中にある施術台に寝るんだという。

「あの、服は?」

脱ぐんですかね?

「上着ダけ脱グ」

電話で対応しれくれた女の人が、そのまま施術もしてくれるらしい。施術着の胸元にネームプレートが安全ピンでとめてあって、メールー・シャンと書いてあった。

 

「オわあ!」

んで、苦労して脱いだ上着を追いはぎのように奪ってから、施術台に横になった私の肩に触るとその方は大変に大きな声をあげた。

 

「な、何すか?」

「コれ何、死ヌ気?」

何すか何すか?別に死ぬ気じゃないですけど。

 

「これデ今まデ生活シてたノ?」

「はあ、まあ・・・」

「oh、Deadmanwalking‼」

 

あ、デッドマンウォーキング?スーザン・サランドンとショーン・ペンの映画?

 

その辺まではかなり危なげで私もハラハラしてて肩にも力が入っていたが、私の肩の状態を確かめたメールーさんがおもむろに腕まくりをして、そんで両手にぺっぺと唾を吐いて、え、ちょっちょっ!って思ったのもつかの間、

 

次の瞬間、彼女の手が触れた所を押された時、その時私は、

「ぎいいいいい」

ってなった。痛みじゃなくて、絶頂。絶頂に近い感じ。白目剥いてよだれ出た。

 

それからはもう記憶がない。

 

はっと、目を覚まして起き上がると、後ろの方から、

「オはよう」

メールーさんの声がした。

「馬鹿ミたいに寝てたネ」

「サーセン」

 

そしてその時同時に気が付いた。肩が凄く軽くなってた。取り替えました?って思う位。ミニ四駆で行ったら肉抜きしましたって思えるくらい。

 

「凄いですねえ!」

いやこれはマジで。ほんとすごいですね。

 

「まだダヨ。アト最後の仕上げ」

感動している私を前にメールーさんはおもむろに、部屋の後ろのカーテンで仕切ってあった所をしゃーっとした。そこからなんか怪しげなかき氷屋さんのシロップが入ってる風の瓶を取り出してきて、もちろん中の液体はかき氷のシロップの色とは程遠い。全体的に茶色い。

 

「え?」

それなんすか?

「漢方」

そういうとメールーさんは瓶の蓋を開けてその中にどぶんと手を入れて、

 

そしてそれを私の眼前に差し出した。

「舐めル」

とても嫌なにおいがした。刺激臭。目がしぱしぱした。

 

「え?え?」

「舐めル」

舐めるの?指?ええ?

 

「舐めル」

もうメールーさんは舐めルしか言わない。お使いを頼んで、断ってもまた選択肢が戻るドラクエの村長みたいだ。

 

「舐めル」

メールーさんの指から得体のしれない汁が滴ってる。ぽたぽたと滴ってる。

 

滴りが無くなると再び瓶に手を入れて、そしてまた新鮮な滴りを伴った手を目の間に差しだしてくる。

 

「舐めル」

メールーさんの手は日に焼けてるのか程よく茶色くて、あるいはこの液体に手を付けてるからこうなったのかわからないけど、でもとにかく、

 

それをじっと見てると、世界の山ちゃんみたいだなあって思って、思えてきて。

 

だから私はメールーさんの手をしゃぶった。

 

勿論メールーさんの手は世界の山ちゃんではないし、得体のしれない液体が気になるし、あとすげー苦いし。

 

でも、まあ、なんというか。

 

子供の頃風邪をひいたとき家のばあ様にのどチンコにルゴール塗られたときの事を思い出した。

 

「げええ、げええ」

あれは苦しかったなあ。でも苦しかったけど、終わった。それにもうばあ様も死んだ。

 

だからきっとこれもいつか終わるだろう。

 

 

2020年10月19日公開

© 2020 小林TKG

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