食材ロス0の為の

小林TKG

小説

2,333文字

こういう話を書きたいんです。どうしても時々書きたいんです。あとようつべとかでも食べ物で遊ぶな的なのを見ると、こういう人が居たらいいのにって思います。

電車から降りてホームへの階段を下りた。トイレに行こうとしていた。階段を降りると改札とは反対側にトイレがある。
「急ぐな急ぐな」
ここまで我慢してきた。もうすぐだ。焦るな。焦るな焦るな。トイレはトイレの事を想像した瞬間、現実のものとなる。意識と現実の狭間に留まる。それがトイレを我慢する術である。

それでも若干小走りになる。しかし間に合う。間に合った。トイレに入る。一番奥の個室をあけて飛び込んだ。ここが一番危ない。緊張と緩和。緊張の緩和。事故多発箇所。なんてことないなだらかなカーブ。意外とそういう所に魔物が潜んでいる。

「はあー」
しかし結論から言えば諸々何とかなった。大きな鍋で大量に作った煮っころがしやカレーとかみたいにうまくいった。本当にここまで様々な問題を抱えていたけどなんとかなった。色々と帳尻があった。よかった。紙もあるし。

「ふー」
ただ、本当は家まで持つと思っていた。家のトイレが世界で一番安心して出来る場所だから。致せる場所だから。だもんで本当は家まで我慢したかったんだけど。でも、予想外に駅のトイレまでしか持たなかった。これが理想と現実の違いだ。

それに、これをモチベーションに家まで帰りたいという気持ちもあった。駅から家までは15分ほど歩く。タクシーを使うのもばかばかしい。が、歩いて帰るのは、特にこうして駅のトイレで致してしまった以上は億劫である。駅前のプラザホテルに泊まりたい。馬鹿かとは思うけど、でも家に帰るための一切のモチベーションも今こうして白い陶器で出来た専用の水洗容器に出してしまった。

「あー」
参ったなあ。

そんな感じでトイレの壁を眺めていると、誰かが入ってくる気配があった。足音がした。

「・・・」
なんとなくいるのがその手合いにばれたくなくて気配を殺していた。メンタル的にはクワイエット・プレイスの感情。

そうするとやがて、
「う、おうう」
洗面台のあたりで止まった足音から狼男のような唸り声が聞こえてきた。
「おおう、うおおおおう」
まさか、狼男に変身するのか?駅のトイレで?今日満月?そうだっけ?

「おおううぶぼお」
それが最初異国の言葉なのか、あるいは異世界の言葉なのかわからなかった。何だったらアメリカ映画とかでよく出る乗用型の芝刈り機のモーターを回転させたのかと思った。

「おぼろおおろおあおあおあ」
でも次の瞬間、吐瀉物の音だとわかった。その手合いは駅のトイレで吐瀉しているんだとわかった。長年乗っていなかった車、オイルもどろどろの車のエンジンをかけたようなその音は、その謎の手合いの吐瀉音だった。

吐瀉に向かう音、行進。前段音、全体止まれ構え。水分の多い一波、トリガーに指を置く。そして半分形を残している第二波、発射、発砲、射撃。

その手合いの吐瀉はまるで射撃隊が拳銃を構えて撃つまでの動作のようにきびきびとしていた。

「おぶろぶぉろろお、おぼおろおおおお、おれれらおあおおお」
そして信長軍の鉄砲隊のように、一度始まったそれはとどまることを知らずに出続けているようだった。まさに三段撃ち。始まったら敵が壊滅するまで止まる事を知らない。

「おるううるる、いれえれれれ、ふろろろろろ」
「・・・」
聞いていて他人事ながら中身が全部出る、出てるんじゃないかと思えた。心配になった。中身が全部出るだけならまだしも、もしかして裏返って内側と外側が逆になってるんじゃないかと思う位、吐瀉音が続いている。

ゲロを吐く時の辛さは私にも経験がある。口の中が不快だ。酸っぱ苦い。胃がこぶし大になってるような気がする。食道が出てくるような気がする。涙が出る。涙活と言えば聞こえはいいけども、そんなもんじゃねえ。

「どるるるるるる、ぶらららららら、ごるうるうらああら」
心配になってそっと個室から顔を出して、そっちを、洗面台の方を伺った。

「きゅろろろろろ」
吐いている人は吐きながらじっとこちらを見ていた。目があった。

「わああ!」
ってなった。

「驚かせてすいません」
その人は名前を中沢カラメル色素と言った。名刺をもらった。

「はあ、どうも」
私達二人は駅前のファミマでコーヒーを買って近くの花壇のヘリに座っていた。もらった名刺には肩書もあって、
「あとでスタッフが美味しくいただきました係」
と書いてあった。

「あ、そういうのあるんですか?」
「そらあります。そうしないと食べ物で遊ぶなっていう苦情が来るじゃないですか」
中沢さんが言った。確かにそうだ。そらそうだ。

それに加えて中沢さんは吐瀉物アートというのもやってるんだという。

「吐瀉物を写真に撮ってpatronでアップしてます」
patronで?あのあれだ、patronってあれだ。あの。あれだ。うまく言えないけど。名刺の裏にはそこのURLも載っていた。

「頑張ってください」
応援してます私。うまく言えないけど。でも応援してますから。後でスタッフが美味しくいただきました係もそうだし、patronも帰ったら見ます。

「ありがとうございます」
そうして私達は別れた。私は家に帰るためのモチベーションを得た。

家に帰ってパソコンで調べてみると、確かに中沢さんはpatronでそのような活動をしていた。汚らしいゲロ。汚らしい。本当に汚らしい。

とんでもない。酷い。なんてことだ。

でも私は苦労してpatronに初めて自分のクレジットカードを登録して、中沢さんのページを支援した。
何でだろう?一言で言えば、私はその汚らしいものの中に自分を見たような気がした。あの中に、私の本来の姿があるような気がした。見続けていると気持ち悪くなってシンクに吐いた。汚らしい。とても汚い。それなのにそこに自分は存在しない。これではない。

中沢さんのそれの中に、私は私の姿があるように思えてならない。

2020年10月12日公開

© 2020 小林TKG

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