ノスタル川

小林TKG

小説

3,241文字

今月の合評会のノスタルジアの提出作品、キュアか川かで迷いました。

「県境のあたりに天然の洞窟があるんだってさ、行ってみようぜ」

知り合いの長崎海星が突然家に来て、私の予定など一切関係ないといわんばかりに言った。まあそういう人だからなこの人。だからまあ、仕方ないんだけどな。

 

「行かないです」

洞窟とか。別に。うん。私特に興味ないんです。仕方ない人で行くと言ったら聞かない人で、だから抵抗なんて意味ないんだけど、でも一回くらいは抵抗する。私も。一回くらいは抵抗したいじゃん。抵抗してもいいじゃん。

 

「ほら早くしろ!」

でもまあホントに意味ないんだけど。

「日が暮れるぞ!」

ほらもう、そうだもん。こうだもん。

「立てほら!」

うるせこいつ。

 

「なんでも最近発見された洞窟らしくてな人気スポットになりつつあるらしいぞ」

そんなところに先んじていけるんだ。いいだろう?長崎はそういうと運転している車の窓を少し開けて、煙草に火をつけた。恩着せがましかった。でも、こういう人だから仕方ない。

 

煙草、私も吸おうか迷ったけど、でも長崎が吸い終わるまで我慢した。二人して煙草の煙をぷかぷかしてるっていうのもなんかちょっとなあって。あと長崎の煙草と自分の煙草のにおいが混ざるととても気持ち悪いにおいになるから。

 

「なんだあれ、ブログか、まだやってるのか?」

しかし荒い運転だなあ。長崎相変わらずだなあ。

「いやもうやめたよ」

「そうかあ」

嘘だけど。まだやってるけど、飽きもせず黙々とやってるけど。でも長崎にはやめたって言った。だってまだやってるって言ったらこれの事書けっていうに違いないから。

 

「じゃあ、今日はこのことが書けるなあ!よかったなあ!」

くらいのことは言ってくるからこの人。

 

「しかし楽しみだなあ」

そうだねえ。私も私でそれくらいのことは言えばいいのに、なんか言わなかった。自分のことながらそれもまたどうかなって思った。

 

山道をうねうねと走って到着したそのなんとか洞っていうのの駐車場は広く、だだっ広く、コストコとかイオンの駐車場くらい広大だった。

 

「誰もいない」

他の車はほぼほぼ止まっておらず、なんというか新しいスポットという割には全然無人に近かった。広い。それにしても広い。広く感じる。すごく広く見える。

「まだまだ、有名スポットになってないんだろ。先取りでいいじゃないか」

 

入場口の近くに車を止めて降りた。

 

天気は曇天。風はないが、少し肌寒い。やはり山間だからだろうか。

 

「お二人ですかぁ?」

入場口脇の料金案内所の受付の人は週刊女性を読んでいた。

 

「俺が払うよ」

「いい。馬鹿。自分の分は自分で払う。その代わり帰りにご飯おごってください」

 

支払いを済ませて脇にあった案内パンフレットみたいのを掴んで入場ゲートの中に入った。

 

『光沢共鳴洞』

と書かれたパンフレットでようやくその洞窟の名前を知った。

 

「そういうのになんか面白いこと書いてあるのか?」

 

「いや別に」

こんなものにそれほどの期待を寄せてるわけじゃないよ。ただまあ、なんとなく。こういうところに来たっていう印。

 

パンフレットには自然が作り出した造形美とか、至上のノスタルジックとか、記憶を呼び起こす世界とか、日常を忘れる旅へとかそういう言葉が並んでいた。それにしては受付の人日常を忘れてないようだけどなあ。週刊女性読んでたけど。

 

「お、一番奥に川があるんだな」

「ああ、そうみたい」

洞窟の最後には川があり、幻想的で夜はライトアップもされるみたいなことが書いてあった。ライトアップいるのかな?それこそ無粋なような気がするんだけどな。どうなんだろう。

 

「楽しみだなあ」

まあ、ホストがこういってるんだったらいいか。

 

「さあ、いよいよだ」

長崎を先頭に整備されてドアの付いてる入口を入り階段を降りて、さあ、いよいよここから洞窟です。足元にお気を付けください。写真はフラッシュをたかないでください。ごみを捨てないでください。みたいな注意書きの書いてある場所を通り、ようやく洞窟らしかった。

 

洞窟自体は大したことがなかった。

 

入ったらまずブラックライトが照射されてる空間があって、なんというか別に自然とかじゃなかった。

 

「靴反射してるほら」

まあ、長崎が楽しんでるからいいんだけど別に。でもなんというかな、台無し感。中盤からそういう変わり種とかだったらわかるけど、いきなりこうですか?

 

で、その後も、ずっとそういう感じの場所が続いた。

 

天井が広くて涼しくて開放感がある場所では微量にエンヤが流れていたり、水がぴちょんぴちょんと滴ってる場所にも、ゆるキャラの看板が立ってたり、自然の造形美って岩のとがったところには顔はめパネルがあったり、共鳴石みたいなのがあるところには自販機があったりした。

 

別にいいけどさ。とは思いつつもなんかこう、釈然としないというか。

 

「ほらみろこれ」

しかしそれでも長崎は楽しそうだ。まあ、私もある意味楽しいけどさ。

 

そうしてそのまま、何かこう釈然としないまま洞窟は終わった。

 

「終わった」

ええ?終わっちゃったよ。ええ?

 

「よし、川行こう川」

洞窟から出ると、あたりにはムッとするほどの自然があって、若干霧がかっていた。でも、もしかしたらこれもスモークとかたいているのかしら?って思った。もうどっちだかわからない。

 

山道を歩いていくとやがて霧がかった場所にうっすらと川が見えてきた。

 

「ああ、これだ」

「・・・」

いつの間にか少し山を上ったのか、私たちは崖の上みたいなところに出て、川はその下を流れていた。

 

「・・・」

霧がかってきれいっちゃきれい。でもまあ、

 

こんなもんだろうかなあ。

 

そうして眼下に流れる川を眺めていると突然、ほんと突然、昔の記憶がよみがえった。昔の、

 

すごく嫌だったころの記憶が。

 

そしてなんの脈略もなく、兆候も前触れもなく、何もなく、

「うべええべえ」

私はその場にゲロを吐いた。

 

「・・・うええ、なんだこれ?」

なんだ、なんか有毒なガスでも出てるのか?

 

「俺・・・」

すると隣に立っていた長崎が急に、

 

「俺、俺の人生こんなんじゃなかった!」

叫んだ。

 

「俺の人生こんなんじゃなかった!子供のころはもっと、もっと立派になりたいって思ってた。もっとすごいことしてやろうって思ってた。こんなんじゃなかった!こんなの違う!全然違う!」

棒立ちの状態で叫んだ。

 

「何だこれ!意味ねえ、全然意味ねえ、何だこれ!」

そしてそのまま、止める間もなく走って崖から飛んだ。

 

少しして水に何かが落ちる音がした。

 

あっという間だった。

 

あっという間に。

 

長崎がいなくなった。

 

「・・・」

それでどうしようか迷ったが、私はまた黙って来た道を引き返した。

 

後で聞く所によると、私たちは洞窟を出て川に向かうまでの道を間違えて、山の中に迷い込んでしまったらしい。

 

あと、長崎のことは、警察には足を滑らせて崖から落ちたといった。

 

なんだろう。なんとなく。

 

至上のノスタルジック、記憶を呼び起こす世界、日常を忘れる旅へ。

 

確かにそうだったな。と思う。

 

私は昔の自分が嫌だったから、ゲロ吐いただけで済んだけど。長崎はそれでは済まない程だったんだろうなあ。

 

多分。

 

いや本当のところはどうだろう?もう長崎もいないから聞くこともできない。

 

あと帰り苦労したし、晩御飯おごってもらってないし。

2020年11月18日公開

© 2020 小林TKG

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"ノスタル川"へのコメント 2

  • 投稿者 | 2020-11-19 01:57

    つい先日。
    ロックバンドAC/DCがメンバーの諸々なトラヴルを乗り越えて新作を出した。四十年くらい前に出したアルバムが現在でも世界で三番目に売れている数字が残っているグループだが、何故か日本では金太郎飴と云う評価が定着していて、さほど人気がない。要は、どの曲を聴いてもワンパターンの声が多い。
    この作品の筆者も、どちらかと云うと作風がワンパターンだと思う。然し、それは筆者の人生経験等を如実に絞り出したスタイルを確立が出来ていると好印象を受けている。「次は、ちょっと違った側面を見せたい」など語り、色々なジャンルに手を出す書き手よりも物語が伝わってくる。あくまでも僕は。
    今回、モチーフにしたのは現在、僕が住んでいる部屋から徒歩十五分くらいの私立カトリック系学園で起きた事案であろうが、天領時代から一部の特権者だけで仕切っていた歴史がある土地柄であるし坂口安吾は「長崎ちゃんぽん」と云うエセーで「ハイカラで明るいイメージなんてとんでもない。閉鎖的なトコロだ」みたいな事を書いている。まあ、それを長く語るのは蛇足として、この作品も徹底したワンパターンさを愉快に拝読させて頂いた。

    • 投稿者 | 2020-11-19 06:56

      感想ありがとうございます。
      今回の合評会においては、ノスタルジアというお題でして、この一個前のノスタルキュアとノスタル川と、まずタイトルから決めて、で、どっちの方が私的に合評会に出すだろうかと思いましたところ、奇抜なのはキュアの方だなと思いまして、合評会をキュアにして、でも川の方もある程度考えていたんで、このように書かせていただきました。はい。
      で、折しもちょうどその時、川に落ちる人の名前をどうしたもんかと考えていたところ、長崎でのことがニュースになりまして、
      「これを名前にしたら悪趣味だろうなあ」
      と。で、だれかが気が付いてくれるかなと、気が付いてくれなくても仕方ないものとして名前にさせていただきました。だからもう、ほんとそれに気が付いてくれてありがとうございます。まずそれです。
      ええ。
      あとはもう、いつものですよね。ええ。とにかく出てる人にゲロ吐かせたい。ゲロって面白なって。それだけでした。はい。

      感想ありがとうございました。これからもこれで行きます。

      著者
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