七月になると僕の町には薄荷ねずみが発生する。薄荷の強い香りを嫌がる普通のねずみとは違って、薄荷ねずみはミントの葉ばかりを好んで食べる。ハーブの園芸家や庭のある家に住む人たちのあいだでは害獣として毛嫌いされていた。
薄荷ねずみの駆除にはミントの葉を詰めたねずみ取りやミントを練り込んだ毒入り団子を大量に仕掛ける。毎年夏になると町のいたるところからミントの芳香が漂ってくるのはそのためだ。薄荷ねずみは頭の悪い生きものだから、ミントに惹かれる本能に逆らうことができずにたやすく罠に引っかかってしまう。
僕が見つけた薄荷ねずみも誰かが置いたねずみ取りにかかって身動きが取れなくなっていた。いつものように真夜中に近所をジョギングしていたとき、キーキーと鳴くか細い声が聞こえてきた。側溝の暗がりを携帯の画面で照らすと、純白の薄荷ねずみがティッシュの箱ほどの大きさの鉄の檻の中でじっとしていた。衰弱しているのか、ばねじかけの入り口を開けてやってもいつまでも出てくる気配がない。朝になって人に見つかったらすぐにバケツの水で溺死させられてしまうので、檻ごと持ち帰るほかなかった。
害獣という言葉に似合わず、薄荷ねずみは無邪気な顔つきをしていた。柔らかい毛を指でなでてやると、手のひらの上で気持ちよさそうに腹を見せて寝転がった。餌となるミントは雑草みたいにどこにでも生えているわけではないから、ねずみ取りの中におとりとして詰められた葉を取ったり、ミントを育てている家の庭に忍び込んで摘んできたりした。鉢植えが軒先に出ているときは植木鉢ごと持ち帰った。家の外に出るのは常に両親が寝静まったあとである。警官に見つかって補導されないように気をつけてさえいれば人目を引く心配はなかった。
ミントを与えると薄荷ねずみは小さな葉を次々と口に押し込んでいった。ふくらんだ薄い頬を通してミントの緑が透けて見える。ミント以外のものは何も目に入らない様子だ。噛みつぶされたミントの葉の香りが部屋に広がった。それは圭太先輩がよく吸っていたメンソールのタバコのにおいを思い出させた。
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