友里子の初恋

フィフティ・イージー・ピーセス(第8話)

Fujiki

小説

2,021文字

作品集『フィフティ・イージー・ピーセス』収録作。第90回時空モノガタリ文学賞入賞。

日美子の遺体が見つかったのは翌朝だった。長い黒髪を静かな波にたゆたわせ、仰向けの格好で防波堤に打ち寄せられていた。最後の息を出しきった口もとは緩み、薄く開かれた目は青白い空を反射している。はだけた薄紅色の浴衣の衿からは白い乳房が顔を覗かせていた。

旧盆の時期に海に入ると成仏できない霊たちに足を引っ張られると言われている。帰省中の娘の死に日美子の両親が言葉を失う中、年寄りたちは首を振りながら「ほら言わんことか」とばかりに古い迷信を持ち出した。友里子は、人目もはばからずに嗚咽をあげる大輔の背中をさすってやることしかできなかった。

日美子が着ていた浴衣は高校時代に友里子とお揃いで買った物である。日美子が内地の大学に進学して以来互いに連絡を取りあう機会こそ少なくなったものの、以前はよく一緒に遊んだ仲だった。性格は正反対で、内気な友里子と違って日美子は活発で誰にでも好かれた。共通点のない日美子だからこそ嫉妬や競争心ぬきで仲よくできるのだと友里子は思っていた。

エイサー祭りで再会した日美子は懐かしい浴衣姿に加えて美容室で髪を華やかに結い上げてきており、出店を冷やかして回るだけで男たちの視線を集めた。着古したTシャツとジーパン姿の友里子は並んで歩くのさえ気恥ずかしく思えた。

2018年4月29日公開

作品集『フィフティ・イージー・ピーセス』第8話 (全50話)

フィフティ・イージー・ピーセス

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© 2018 Fujiki

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