理想的な娘

十六歳

小説

1,153文字

教祖にお褒めの言葉を頂いた話。とても短い近未来風。おはなしだけで、文学的な美しさとかの追求はまた今度。元の題名は「赤ちゃん求人」

そうそう、そこをそうして、うん、黒髪でお願い。目の色?あぁ、そんなでいいわ。黒髪には黒い瞳でしょう?爪は丸型が可愛いわよねぇ。

ぶつくた言い連ねる妻。僕は意見のひとつも口に出さない夫。僕に似せる部分が唇と髪色と爪だけであることが少々気になるのだが。でもどうってことはない。生まれてくる子がどんな姿でも、愛し慈しむのが親というものだ。大きなカプセルの中、水色の液体に浮かべられた裸の女の子。イエス・キリストが十字架に掲げられたように両手を広げたこの少女は十五歳のサンプルである。ぷくぷくと、僕に似せた薄い唇から泡が溢れている。白い肌に黒髪、すらりと細い四肢、小ぶりで形の良い乳房、均整の取れた顔。完璧、理想的、美しい娘だ。

あなた、妻はサンプルに満足すると言った。

「求人のほうはもう出してきたの、女の子は有り余ってるからすぐに見つかるだろうって先生が。」

そうか、嬉しそうだね、と答える。妻は厚めの唇の端を上げてふふん、と笑う。けれど彼女が箇条書きにした求人広告は日本一厳しいものなのではないか。いち、女の子に生まれること。に、あまり食べないこと。さん、バレエを習うこと。し、素直従順であること。ご、恋をしないこと。エトセトラエトセトラ。

 

十二年前、この世界と天野公園は繋がった。胎児になる前の天使たちが集い、育まれる天野公園。そこに求人を出すシステムは一年前取り入れられたばかりである。広告を出し、条件に合う天使を、胎児として子宮に宿すのである。また、技術革新が起きたのは二十三年も前の話。夫婦それぞれのゲノムから、子供の容姿をパーツごとに選択して、受精卵をつくり上げる。その受精卵と募集した天使を組み合わせると理想的な子供が生まれてくるというわけである。従来の方法で以って妊娠出産を行う夫婦は圧倒的に多い。性行為なしに、両方の方法を取る夫婦はまだ極めて珍しい。

妻は、三年前までプリマから上がったプロのコンテンポラリーダンサーだった。僕との結婚を期に引退した今も、指導者として名を馳せる女性である。意識もプライドも、理想も高く掲げていた。照明の僕との結婚を承諾したのは気まぐれではないかと疑っているくらいで、子供が欲しいとこの提案をしてきたのも彼女だ。きっと夢見ていたのだ。自分と同じように、ステージの上でスポットと歓声を浴びる、自分によく似た美しい娘。

 

娘が生まれる。それも完璧、理想にぴったりの。喜ばしいことではないか。

「考え直す気、ないの」

「ん、なにが?」

豊かな唇を震わせて、頬を紅潮させて言う。それは嬉しくて仕方がないのだろう。

「いや、なにもないよ。完璧だ。」

納得するしか、ないのだな。

 

娘が生まれる。それも理想にぴったりの。

 

2016年1月23日公開

© 2016 十六歳

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