疲れた大人のため息ほど臭いものはない

越小夜啼女

小説

812文字

タイトルのままです。超短編。3年前に書いたものを再投。

 

大雪で朝の電車が遅延して、通常時のしわ寄せみたいに人間がひと空間に詰め込まれていた。私という人間もそのすし詰め満員電車の中にがちがちに組まれている。友人と、それと比にならない程多くの他人と共に。
「本日乗車率二百パーセントを超えております千人を越えるお客様が乗車されております中詰め乗車にご協力お願い致します」

まくしたてられて満員電車に慣れていない地方都市の田舎者共は、やっと残されたわずかなパーソナルスペースを強制的に詰めることになる。

脳みその水分を奪う代わりに頭痛を拭いつけていく暖房の風と、インフルエンザの乾いたにおいと、ヒトの頭のにおいが充満していて不快だ。乗り物酔いと人酔いに拍車がかかる。友人が私の前に背を向けて立ちはだかって一人黙々とゲームを始める。その友人は、あと二人と私を隔絶する壁に撤する。私は乗り物酔いと人酔いに集中するしかなくなる。これも不快だ。

始めて電車に乗ったのは休日で、よく晴れていて、人が少なかった。窓の外に流れていく景色は田舎の数少ない良い所を集めて詰め合わせたように見えた。電車とは非日常の代名詞で、穏やかの関連語だった。今では高校に通うために、毎朝電車に乗っている。電車の中は既に社会のにおいをふんだんに醸していて、多勢の客はみんな疲れていて、狭いな、苦しいな、と思っていて、帰りたいな、と思っている。それらで調和が保たれている。気楽な態度の何者かによって簡単に乱される嬉しくない調和だ。

終点に着いて人々が降車する様子を空想する。何ヶ所も切られて体液を溢れさせている太ったミミズの姿をたちまち連想する。そうか、この電車は死に向かっているのだな、と、思う。

誰一人降りない無人駅で無意味に扉が開いて、なんとしてでも乗りたい客が数人乗り込む。なけなしの酸素と冷気も入り込んできて私の肺まで届く。そうしてやっと、今まで吸い込んでいたのは他人のため息だったと気がついた。

2018年10月16日公開

© 2018 越小夜啼女

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