ちっさめろん(エピローグ)

ちっさめろん(第11話)

紙上大兄皇子

小説

6,767文字

異能者集団○者の一員である探索者の冒険はついに終わる。本作のエピローグを締めくくるのは、まさかのあの少女。著者のSF的知識を総動員した怒涛のエピローグでスラップスティックSFはついにその名目を保つ。繰り返しますが、文中のXMLは伊藤計劃のパクリではありません。

<title><postlude ; monologue>

あとがき、あるいはひとりごと

</title>

<doctype ; wishful>

 

 

この回想録の中心にいつづけた探索者の歴史は、これよりほんのわずかな時間で終わる。私にとってはまばたきにも満たない、ほんのわずかな時間だ。これより後の記録は残っていない。彼の脳に埋め込まれていた人工海馬<artificial hipppocampus serial : XB9003456>は外されてしまったからである。

この続きはとある一冊の書物――この単位もとうに使われなくなってしまったが――『ミタツネの子供たち』<isbn : 9876-2235-0982-33>において短く言及されるだけである。

 

<quotation>

一九九七年三月二十一日、若き――そして、それゆえに無力な――一厚生官僚に過ぎなかった三田恒有はある一枚のA4文書作成に携わった。「ヒトのクローン研究に関する考え方について」というその文書はヒト・クローン研究を原則禁止するものであったが、彼がそこに「当面」という言葉を二度も書き加えたのは、単に彼が科学的に無知だったというだけでなく、ある個人的な理由からだった。

彼の祖母はその前年に施行された「らい予防法廃止に関する法律」には間に合わず、熊本の療養所で孤独な死を迎えている。愚かな法の犠牲になった祖母の死は小さな棘となり、彼を慎重な男――座右の銘が「決め付けはよくない」という退屈なアフォリズムであるような男――にした。それゆえに彼は「絶対に」という言葉を「当面」という言葉に変えて法律文書に潜ませたのである。

<html xmlns=‘emission>

一九九八年当時、大阪大学生命機能研究科に在籍していた里崎昭人は個人的にクローン技術の応用実験を行っていた。体核細胞ではなく、生殖細胞を使ったクローンを生成する実験には、はじめの何度か成功した。生成させた「固体」はすべて胚のうちに死んでしまったが、次の段階――つまり、その「固体」が胎児になる段階――へ至るには、エリオット・ローズウォーターによる発明を待たねばならなかった。

ローズウォーターが発表したのは、ドナー細胞の二倍性を崩さずに培養する方法である。それはクローン羊ドリーの産みの親イアン・ウィルムットの方法を踏襲し、細胞培養地の血清濃度を下げることで細胞へのストレス負荷を上げるというものだが、脱カルシウムFCS含有培地の血清濃度を〇・三八~〇・二九%の間に保つという職人的微調整をこなすことで、飢餓状態になったドナー細胞を脱分化させることに成功した。

里崎はその方法をすぐさま利用し、ヒトクローンの成長に成功した。彼は理論的に優れた科学者ではなかった。革命的なアイデアは一つも生んでいない。しかし、大量の論文を渉猟する根気と、実験を繰り返す愚直さが彼を画期的な科学者にした。

<html xmlns=‘emission>

ゲノム中にあるすべての機能因子を明らかにするENCODE計画が始まった頃、里崎はミシェル・ジェルジンスキによる「XX染色体のインプリンティング解除」に関する研究成果を知る。女性の持つXX染色体は、片方のXがサイレント状態(インプリンティング)になっている。つまり、二つあるX染色体を一つしか使っていないのだ。発動している染色体に異常があれば、たとえサイレント状態にあるもう一方が無傷でも、異常が発現してしまう。ジェルジンスキは、脱メチル化によるインプリンティング解除に成功し、女性に多い膠原病の究明への道を開いた。

2015年11月23日公開

作品集『ちっさめろん』第11話 (全12話)

ちっさめろん

ちっさめろんは3話まで無料で読むことができます。 続きはAmazonでご利用ください。

Amazonへ行く
© 2015 紙上大兄皇子

読み終えたらレビューしてください

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


この作品にはまだレビューがありません。ぜひレビューを残してください。

破滅チャートとは

この機能は廃止予定です。

タグ

この投稿にはまだ誰もタグをつけていません。ぜひ最初のタグをつけてください!

タグをつける

タグ付け機能は会員限定です。ログインまたは新規登録をしてください。

作者がつけたタグ

SF

"ちっさめろん(エピローグ)"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る