本稿で挙げる推薦図書は破滅派の告知「新型コロナ(Covid-19)対策オススメ書籍の募集」で募集したもの。各推薦文は推薦者(カッコ内)による。

類似した状況を描いた書籍

  • 開高健『パニック』
    今作は鼠害と対峙する県庁職員のお話なのですが、災害がいかに二次的に政治化され、「パニック」になるかが今の情勢をまるでなぞるかのようで、秀逸に書かれています。(春風亭どれみ)
  • 「餓鬼道肴蔬目録」(『ちくま日本文学 内田百閒』収録)
    1944年、食べるものがどんどん無くなっていく中、「セメテ記憶ノ中カラウマイ物食ベタイ物ノ名前ダケデモ探シ出シテ見ヨウト思イ」書き出された食べ物リスト。自粛ムードではあるが、欲望に忠実に生きることは悪いことではないんだと思う。外食ができなくても、精神だけはなるべく自由にいたいものだ。(斗田翡翠)
  • 暁方ミセイ『ウイルスちゃん』
    本書は新型コロナウイルスとは全く無関係。でも緊急事態宣言が各地で出されるこのご時勢では、「ウイルスちゃん」というタイトルが真っ先に私の頭に浮かびました。難解ですが、じっくり読むと伝わってくるものがある詩集です。読めば、心が活性化します。石川県知事が東京都民らに向けて「無症状の人は石川にお越しいただければ」と観光アピールをしたおかげで、金沢市の10万人あたりの感染者数は全国1位です(令和2年4月13日時点)。これは現代の皮肉です。「ウイルスちゃん」というタイトルには似たような皮肉があるように思います。(工藤はじめ)
  • G.ガルシア=マルケス『幸福な無名時代』
    隔離、閉鎖、政治的混乱、市民の我々に就いての行動描写、鬱憤など、コロナと状況は違えど類似点の全てが書かれているルポ。ユーモアや、お泪ちょうだいをも駆使し余り個の観点を入れぬ文体。僕は小説家よりジャーナリストの方がガルシアマルケスの才能が溢れていると思うぜ、ハニー。(山谷感人)
  • モリエール『病は気から』
    自分は病気に違いないと思い込んだ主人公、アルガンは遺産狙いの後妻にそそのかされて娘をヤブ医者の家に嫁がせようとする。ところが、娘には意中の相手がいて……。心気症をテーマにした喜劇を読めば、新型コロナの不安も笑い飛ばせそうな気がしてくる。しかし、現実はそう甘くなかった。1673年2月に本作が初演を迎えた時、モリエールは重篤な肺病を患っていた。劇団の座長に演出家に劇作家、さらには俳優としてアルガン役までこなした彼はステージ上で咳の発作に襲われ、4回目の公演直後に死亡。本作が彼の遺作となった。風刺作家が最後に残した皮肉を我々はある種の戒めとして読むことになるだろう。(Fujiki)
  • V.E.フランクル『夜と霧』
    極限状態があぶり出す人間個々人の本質。立場だけで容易に人を裁くことなどできない。「強制収容所の生活は疑いもなく人間の奥底に一つの深淵をひらかしめたのであった。この深みにおいてもなお人間的なものを、すなわちあるがままの人間的なもの、善と悪との合金としての人間的なもの、をみることができたのは少しも不思議ではない。」(「九 深き淵より」)非常事態が常態化した時の人間のすがたを著者は冷静な筆致でとらえている。いま私たちが置かれている状況をアウシュヴィッツ収容所に置き換えるのは大袈裟かもしれないが、構図としても多少は似通ったところがあるように私は思っている。そして強制収容所においてさえ自然や芸術を愛する生活があった、ということも付け加えておきたい。どんな状況にあっても美しい事物への憧憬をあきらめることなく、より善くありたいと改めて思える一冊です。(谷田七重)
  • 小松左京『復活の日』
    巨匠中の巨匠の代表作たるウィルスパニックの超名作をいまさら挙げるのも赤面ものではあるのだけれど、そこはそれ、外出もままならない今だからこそ、ちょっと趣向を凝らしてみる。まず、コーヒーだ。できるだけ美味いコーヒーを用意しよう。買い物は自粛だから、通販になるかもしれないが、ハンドミルで挽きたてを愉しもう。そして、家の中でできるだけ日当たりの良いところを探すんだ。そこにありったけのクッションを敷き詰めて、巣ごもりの準備をしよう。ここでパジャマやスゥエットはいただけない。せっかくだからちょっと余所行きっぽい、デートの装いを引っ張り出して着替えておこう。そうして、本棚から取り出す。『〔新版〕復活の日 The Day of Resurrection』小松左京著・早川書房刊[生賴範義展]連動復刊企画・版。買っておいてよかった。名作SFを最高の装丁のハードカバーでじっくり読む機会など、人生でそう何度もやってこない。ああ、これぞ至福の時間也。(波野發作)
  • スティーヴン・キング『霧』
    危機的状況をどう切り抜けるか。その時誰といるか、何をするか。敵は見えた方がいいのか、どうなのか。(匿名希望)
  • トーマス・マン『魔の山』
    肺病で7年間サナトリウムで過ごしたハンス青年の病気が治るまでの話。病気の快癒によって新しい人生が始まる予感は希望にも似ている。私も骨折で死にかけたことがあるので、その気持ちはよくわかる(高橋文樹)
  • アルベール・カミュ『ペスト』
    すでに話題になっているが、念押しでおすすめしておく。リウー医師をはじめとした市井の人々の戦いは静かにして苛烈である。(高橋文樹)
  • ボッカチオ『デカメロン』
    ペストが流行した中世ヨーロッパを舞台に、やんごとなき人々が面白お話を代わる代わるにする。ほとんど猥談。これをZOOMでやりたい。もちろん、飼い犬を抱えて紅茶を飲みながら。(高橋文樹)
  • コーマック・マッカーシー『ザ・ロード』
    荒廃した世界で生き抜こうとする親子の物語。親子の重たい足取り、大切なものを失わないために。(匿名希望)
  • 貴志祐介『天使の囀り』
    外国に気軽に行けることは良いことだ。本当にそうだろうか。行く前と行った後では何かが変わってしまう。(匿名希望)
  • 伊藤計畫『ハーモニー』
    健康管理システム「Watchme」が人々の体調を健全に管理する“ユートピア”の世界で三人の餓死することを選んだ少女たち。その中で死ねなかった霧彗トァンが死んだ少女の影を見ながら自己について思いを巡らせる――非常事態宣言が発令されてもその規制の曖昧さに不満を漏らす意見も聞こえてくる今だからこそ、強力な権力が想定される世界について真剣に考えるべき。本作のラスト、医療産業社会との完全な“ハーモニー”を見る人類の結末は余りにおぞましい。本作で伊藤は自死した御冷ミァハに「権力が掌握してるのは、いまや生きることそのもの。そして生きることが引き起こすその展開全部。死っていうのはその権力の限界で、そんな権力から逃れることができる瞬間。死は存在のもっとも秘密の点。もっともプライベートな点」と語らせ、フーコーが『知への意志』で提起した「生権力」を引用している。コロナ禍に乗じて世界中がこの生権力に掌握されていくことについて強い危機感を覚える。出口はまだ見えないが、この混乱に流されるだけではなく終息後の社会についても議論の必要があるだろう。(松尾模糊)
  • 石牟礼道子『苦海浄土』
    災厄に見舞われた今こそ読むべき本。涙で先に進めなくなっても読まなくてはならない本。書いてある内容はこの上なく醜く悲しいが、書いてある言葉は珠玉を連ねたよう。非道最悪な公害の記録の中で、このような作品が生まれて残ったことだけは救いだと思う。(大猫)

その他のオススメ

新型コロナウィルスとはあまり関係ないが、「面白いから」という理由でオススメされた作品は下記の通り。

  • ハーマン・メルヴィル『書記バートルビー』
    「わたくしはしない方がいいと思います」(I would prefer not to)と言ってみよう。テレワークを渋る会社に。通常授業を強行する学校に。容赦なく家賃を取り立てる家主に。デートに行きたがる恋人に。家に押しかけてくるパリピの友人に。今こそ消極的抵抗の時代だ。老弁護士が新たに雇い入れた代書人のバートルビーは仕事を拒み、詮索を拒み、ついには立ち退きさえも拒絶する。物静かで言葉遣いも丁寧だが、彼の意志は断固として揺るがない。その行く末に破滅が待ち受けていたとしても彼に後悔はないはずだ。自分のしたくないことを一切することなく人生をまっとうしたのだから。社会的距離のレッスンとして読め。(Fujiki)
  • フランク・ダラボン(監督・脚本)『ショーシャンクの空に』
    オススメ書籍と言いつつ映画を薦めるのも何だが、Amazonプライムで観ればいい。無実の受刑者、アンディはある時モーツァルトのオペラ『フィガロの結婚』のレコードを刑務所中に流し、二週間懲罰房に送られる。しかし、過酷な罰に彼は屈しない。レコードを止められても、モーツァルトの音楽が彼の内側で流れ続けていたからだ。たとえ、あなたが自粛や自己隔離で物理的、社会的に自由を奪われていようとも、あなたの心の自由までは誰も奪えない。原作はスティーヴン・キングの中編「刑務所のリタ・ヘイワース」(新潮文庫『ゴールデンボーイ 恐怖の四季 春夏編』所収)だが、レコードの挿話は映画のオリジナル。(Fujiki)
  • 奥崎謙三『宇宙人の聖書 ―天皇ヒロヒトにパチンコを撃った犯人の思想・行動・予言』
    アナーキスト兼宗教家兼バッテリー商で、映画「ゆきゆきて神軍」「神様の愛い奴」主演である奥崎謙三氏の著書。分厚いので時間が潰せる。まとめれば10ページに収まるようなことを300ページ以上も書いてくれるサービス精神がうれしい。「天皇がいかに悪いか」「国家権力がいかに悪いか」などなど。良い事がいっぱい書いてある。付録小説の「風流夢譚」「天皇裕仁と作家三島由紀夫の幸福な死」「天皇裕仁は二度死ぬ」も一緒に楽しめてお得。表紙がカッコイイ。(Juan.B)
  • 奥崎謙三『田中角栄を殺すために記す 人類を啓蒙する手段として』
    アナーキスト兼宗教家兼バッテリー商で、映画「ゆきゆきて神軍」「神様の愛い奴」主演である奥崎謙三氏の著書。分厚いので時間が潰せる。まとめれば10ページに収まるようなことを300ページ以上も書いてくれるサービス精神がうれしい。奥さんのシズエ氏とのセックスをリアルタイムで報告する(原稿を中断することを書いてくれるので分かる)ので性教育の教材にもなる。全国の学校に置いてもらいたい。(Juan.B)
  • 根本敬『因果鉄道の旅』
    特殊漫画家・根本敬が遭遇した様々な「因果」的人物達の記録エッセイ。身の回りに発生する様々な事態や人物(どうでもいい事やすぐに忘れるような事)を丹念かつ執拗に調査し、実はすべてが因果で繋がっていることを明かす。90年代を代表し今もなお響く名言「でもやるんだよ!」(しおさいの里の掃除人発言)は本書から。とにかく読めば分る。(Juan.B)
  • 尾崎一雄『あの日この日』
    コロナによって我々は或る意味、どう云うスタンスを採るか? を試されている。旧い文壇は序列的な感染世界で有ったのが判る回顧録。なお、世に埋もれたキ印・文士なども登場し笑える故、部屋に篭って読んでいて純粋に愉しい。(山谷 感人)
  • 貫井徳郎『追憶のかけら』
    直接にコロナは関係なくも、昨今の文藝社会の問題点はラノベや現代作品のみを読み、才能だけで書いている人 or 古典的なモノに拘る人に或る程度、分類されていると思われる。そこで、この作品は現代的なミステリであるが、架空の、田中英光の亜流みたいな昭和初期・作家遺稿が見つかったから、なる展開でハナシは始まる。現代的推理小説としても二転三転、部屋に篭って読むのは愉快だし読後、この自粛機会に流れで旧い古典を、あさくって見ようかな? 的な観点で、先に示した問題を解決するチャンスある作品の一つだと考える。所謂、良い中間小説。手洗いしろよ、うがいしろよ。(山谷 感人)
  • 岩波書店『広辞苑』
    コロナにより関係者が死活問題やら実際に患って、リアルなノンフィクションも作り物の小説なぞ読みたくないよ、なる方も多いであろう。そう云う時は 、無になれる&いずれ語彙がポッと出るであろうの意義で究極はコレであろう。(山谷 感人)
  • 太宰治『黄村先生言行録』
    コロナ自粛やら関係者が如実に困っている等、右往左往している方も多数だと思われるが、たいして影響は無くとも部屋に篭るのを強要され無聊だぜ、なる輩も居ると思う。それは仕方ない。そう云う時、その方々はユーモアに逃げるべし。太宰治のイメージは暗い、人間不信やらとダーク&ディープで青い時代の感染病、と捉えている人が多いが、まずもってユーモアセンスの巨匠だと考えられる。この機会に一部の、表面しか読んでないのに太宰治を識った顔で論ずる表現者がコロナが僅かでも終息後、彼、コントだよね! と語る世界に期待を込めつつ。なお、ウチのワイフは太宰治が大嫌いなので全集を押し入れに隠しているのではあるが。(山谷 感人)
  • 北條民雄『北條民雄全集』
    実際に何かで隔離されたら、それを書いた著者はどう思い、どう生きるのか? を深く考えさせて呉れる全集である。 今回のコロナ感染でも例えば僕の聡明で有名な友人は、志村けんが陽性だった時、「だっふんだ」と呟きを残した。他界するとは思わず悪意は無いのであろう。 然し現在、緊急時で自身がその立場になるやも識れぬ、この逢魔ヶ刻には、或る意味、このような全集を拝読し無いとは云えぬ覚悟をしておくのも必要だと思われる。(山谷感人)
  • エトガル・ケレット『銀河の果ての落とし穴』
    飛び交う情報と、それに対するかなしみや怒りの感情に疲れてしまったときに薦めたい本です。ユーモアにあふれ、でもユーモアだけではないものが読後に残る短編集。イスラエルの作家エトガル・ケレットが描くのは、いつもすこし奇妙でおかしみのある物語。本書あとがきにはケレットがドキュメンタリー映画で語った次のような言葉が記されています。「ユーモアとは耐えがたい現実とつきあう手段なのです。抗議する手段でもあり、ときには人間の尊厳を守る手段でもあります。」日々の暮らしのすぐ隣に戦争があり、死があったであろう彼の出自に思いを馳せながら読んでほしい一冊です。(駿瀬天馬)
  • 光用千春『たまご 他5篇 光用千春作品集』
    涙を流すと免疫力が上がるらしいので、最近読んだものの中で一番涙が出た本書をおすすめします。収められているのは場所や関係性は違うものの、どれも人間関係についての話です。自分以外の人にも心があって、生きづらさがあって、かなしみや怒りがあるという当たり前のこと。その当たり前のことを、もしかしたら私たちはふだん忘れているんじゃないか。そして忘れていようと忘れていまいとお構いなしに、人生にはそういう自分以外の人が登場する。だからしんどい。それでもやっぱり人を信じていたい、やさしくありたいと思わせてくれる作品集です。”泣ける”みたいな陳腐な言葉で片づけてしまうにはちょっと畏れ多いほどの佳作揃いなのですが、”泣ける”という意味では、掲題作(『たまご』これももちろん秀逸ですが)の後に入っている他5篇をぜひ読んでほしいです。(駿瀬天馬)
  • 仲村和代・藤田さつき『大量廃棄社会』
    知られざるアパレル業界の闇とともに、若い人たちの新しい動きも紹介されていて、希望を感じられる。(森ひろみ)
  • 連城三紀彦『戻り川心中』
    疫病を描いた作品をオススメにとしようと思いましたが、ミステリ者としてミステリを愛するものが避けては通れない(絶対に読まなければならない)作品を推薦します。この作品を読んでなお、ミステリを書き続けたいと思える人間だけがミステリを書くべきだ。(諏訪靖彦)
  • 莫言『転生夢現』
    『転生夢現』の原題は『生死疲労』、死んだり生まれ変わったりまた死んだりでもう疲れちゃったよ、っていう意味だ。タイトルも面白いけど中身もめっぽう面白い。何しろ人間がロバに生まれ変わり、その後は豚、更に犬、猿と続き、それぞれの人生(?)で悲しくも滑稽に苦闘する姿を笑って読んでいるうちに、現代中国の一連の社会変動が分かる仕組みになっている。面白過ぎてハードカバーの分厚い上下二巻を数日で読み終わってしまった。さすがノーベル賞作家。(大猫)
  • マヌエル・プイグ『蜘蛛女のキス』
    刑務所で同部屋となった政治犯(バレンティン)と同性愛の性犯罪者(モリーナ)の会話だけでほとんどが成り立っている小説。暗く汚い牢獄から、モリーナの縦横な語りで南洋の島にまで連れて行かれる。ラストに向かってどんどん心が揺さぶられる。二人が心通わせる過程も、無惨な結末さえも。汚泥の中でも「愛」は美しいものだと涙する。ウィリアム・ハート主演の映画とセットで読むとよいと思う。原作のイメージを損なわないどころか更に洗練させた稀有な例だ。もともと映画監督を目指していたプイグの作品は映画や舞台ととても相性が良い。(大猫)
  • 深沢七郎『楢山節考』
    生きること死ぬことを思うならば、絶対に読むべき本である。思わなくても読んでおくべき本である。いつかは読まなくてはならない本である。読んで良かったと必ず思わせてくれる本である。(大猫)
  • 不詳『千夜一夜物語』
    この世に嫌気がさした時に読むと良い。千年以上かけて紡がれた遠国の途方もない物語が延々と続く。おなじみのシンドバットの冒険やアラジンと魔法のランプもちゃんと入っているよ。それよりもっと面白い物語もいっぱい。日本の羽衣伝説そっくりのお話もある。岩波文庫からもちくま文庫からも出ているけど、これらは19世紀の英語訳やフランス語訳を日本語訳したもの。お勧めは東洋文庫版。アラビア語からの直接翻訳で、アラビア学の泰斗・前嶋信次の生涯をかけた名訳が楽しめる。(大猫)
  • 不詳『水滸伝』
    面白いから絶対おすすめ。無能政治家や役人が幅を利かせ、正直者がバカを見る絶望の世の中に見切りをつけて、梁山泊に集った108人の英雄豪傑たちの物語。唯一無二の強烈キャラの面々が梁山泊に集まって来るまでの個別の物語が特に面白い。何で三国志の方が人気があるのか不思議だ。江戸時代は水滸伝の方が人気があり葛飾北斎など浮世絵もたくさん残っている。エッチなシーンも結構あるし。『金瓶梅』のネタになった潘金蓮みたいな悪女もいっぱい登場する。最初に読むなら岩波文庫版か吉川英治の『新・水滸伝』がいいと思う。テレビドラマなら2011年の中国版「水滸伝~All Men Are Brothers」がいい。時代劇好きにもカンフー好きにも大満足の傑作だ。中国・香港・台湾のイケメン名優がカッコいいアクションを披露してくれて目の保養。(大猫)
  • 曹雪芹『紅楼夢』
    『源氏物語』を愛する方にぜひおすすめしたい。国も時代も登場人物も全然違う物語だけど共感できるところが多すぎる。身分社会の非情、政略結婚に翻弄される女性の一生、諸行無常・栄枯盛衰、ひとの心の弱さ、煩雑な人間関係、華麗な衣装、詩歌を詠み交わす喜び、四季の庭園を眺める佳人。『源氏』にはあまり出てこない食事のシーンでは、美味しそうなごちそうがいっぱい。美女が何十人も出て来るので、好きなキャラについて友達と語り合うのも楽しい。(大猫)
  • 蘇童『十九間房(中国現代文学 20)』
    舞台はおそらく第二次世界大戦頃の樹々に覆われた中国の農村である。そう聞いただけで登場人物が被るあらゆる禍の種類を想像できるだろう。そのうえ蘇童の小説である。平穏は望むべくもない。どいつもこいつも感情に任せて事態をめちゃくちゃにし、右往左往し、さらなる災厄に巻き込まれるのである。村は焼け、村を覆っていた樹々も燃え落ち、主人公は死ぬ。まるで「いま」のようだ。けれどもその「いま」が通り過ぎれば、この物語のように樹はまた再生するだろう。中国現代文学には他にも良作が多数掲載されている。中国現代文学7に収録されている「虹」(畢飛宇)は現代中国都市部における高層マンションの隣人問題であるが、長く続く休校と在宅ワークによって隣人が気になりはじめた我々にとってなかなかタイムリーな作品ではないだろうか。ぜひ一読されたい。(匿名希望)

以上、37冊を紹介した。これだけあれば自粛期間目一杯つかっても読み切れないほどの数になるだろう。